第12話 ぼっち部というよりEスポーツ練習部屋
こんにちは魂夢です。第二章に関しては新たに書き下ろしました!
ぼっち部は、もうほとんどEスポーツ部の練習部屋と化していた。扶桑花が上手なのもあるんだろうが、彼が言うには部室のピリピリした雰囲気が苦手なそうである。
まぁ、大会に出るなら本気で挑むだろうし、その真剣さ故にずっとピリピリしているのだろう。
「よし、今のうちだ。味方の蘇生に行ったほうがいいだろう」
扶桑花が言うと田中は小さく、はいっと返事。その声は小さいながらも芯のある声だった。
初めてこの部室に田中が来てから早くも二週間が経過している。二週間前に比べれば、田中は格段に上手くなっていた。それはきっと、彼に才能があったからだろう。
「ふぅ……」
田中が味方の蘇生に成功し付近の敵を倒すと一段落つき、後は一人で大丈夫だと思ったのか、扶桑花は田中の横から俺の近く、初めて俺が部活に来たときと同じ場所に彼女は腰掛ける。
「田中は筋が良いな」
「あぁ……」
扶桑花の言葉に俺は首肯する。田中には才能があった。だから練習は実を結びつつあるのだ。
才能が無いなら、きっと練習しようと、努力しようと、それは無駄になる。
「……でもこのままではキツいだろ」
俺は扶桑花に耳打ちする。彼女は俺の言葉を聞き、ゆっくりと頷いた。
「才能があるとはいえ、地区大会で優勝できるほどではまだないな……」
そう言って、扶桑花は持っていたブラックコーヒーを一口飲んで、眉間にしわを作る。
「今、苦って思ったろ」
「お、思っていないぞ! 私は大人だからな、コーヒーはブラックの方が好きだし、苦いのも得意だ」
言って、扶桑花は少しだけ胸を張る。が、なんだか無理な言い訳のせいで少しばかり子供っぽく見えた。
まぁ、中高生には良くあることだ。無駄に大人ぶったり、変な知識をひけらかしたり、マウントを取ったり……。例を挙げたら枚挙に暇がない。
その中でもブラックコーヒー飲むなんてまだ良い方だ。俺たちに害は無いし。それにコーヒーを飲むだけで楽に大人感を楽しめるなら、中高生が大人ぶるには持ってこいの代物だ。
「今噓だと思っただろ」
「い、いや。思ってない思ってない」
言ったが、扶桑花は気分を悪くしたのか、頬をぷくーっと膨らませた。なにそれそんなあざといことすんのアニメの住人だけだと思ってたんだけど。
「むぅ……」
「すまんって」
チュピンッ! 音が鳴って、田中のあっと言う声と、恋綺檄のあっと言う声が重なって聞こえる。
音と二人の反応を見た感じ、たぶんスナイパーで射撃されたんだろうか。
「どうしよどうしよどうしよ!」
「落ち着け、まずは敵から狙われない位置に隠れて──」
ガタッと扶桑花が立ち上がり、色々指示をするが、慌てている田中には聞こえていない様子だ。
「やばいよ! 敵来ちゃうよ! ねぇどうするの!?」
「関係無いんだから恋綺檄は黙っとれ!」
思わず俺は恋綺檄に忠告。彼女はひゃん……っと言ってシュンとしてしまった。そ、そんなに落ち込まれると俺が悪いみたいじゃないか。
慌てる田中とそれを助けようと奮闘する扶桑花を見ながら、俺は思う。
あと一週間で大会だ。なのに、こんな様子で大丈夫なのだろうか。
大会が終わればすぐに試験だ。そろそろ大会だけに集中してもいられないだろう。
とはいえ、だ。正直俺は大会に優勝できるとは思ってないし、優勝のための裏技的な何かもまったくわからない。
「よし、味方が蘇生してくれたから、とりあえず回復を──」
扶桑花は田中に言って、回復中のゲーム画面を食い入るように見つめる。
でもまぁ、田中が優勝できなくても、俺には何の関係もないか。
そう思いながら、俺はライフガードに口をつけ、一気に呷った。