第11話 彼は最後に思い出を作りたい
こんにちは魂夢です。新エピソードッ!!!
次の日もその次の日も、田中は部活にやってきては、扶桑花に教えてもらったり、単純に基礎練習に励んだりしていた。
てかここでやるなよEスポーツ部があるならそこの部室でやれよ……。毎日毎日銃声やら爆発音を聴いてるこっちの身にもなってくれ……。
そんなことを思っていると、プラスチックのコントローラーを置くコトンと言う音が聞こえた。
「ふぅ……。そろそろ休憩にしよう。田中も疲れただろう」
言って、扶桑花はくーっと伸びをした。それに合わせるように田中も伸びをする。
「俺飲み物買いに行ってくるけど、なんかいるか?」
俺が立ち上がりながらそう言うと、机に突っ伏して寝ていると思っていた恋綺檄は、ひょいと顔を上げ、いらなーいと答えた。
俺は扶桑花に目を向ける。
「私はカル……、コーヒーをくれ。それもブラックのやつを」
ブラックね了解。俺はそう返して、田中にも目を向けることで尋ねる。
「あ、ボクも行きます」
コントローラーを置いて、立ち上がる田中。流石に立ち上がった人をまた座らせるのは二度手間になるな、そう思って俺は特に何も言わずに、田中を連れて部室を出た。
○
俺と田中は食堂付近の大量に置いてある自動販売機の前にやってきていた。
「部室の近くにも自動販売機はあるのになんでわざわざ食堂まで来たんですか?」
小首をかしげ、頭にハテナマークを浮かべる田中。俺は彼にニヤリと笑みを返した。
「なんでかって? そりゃお前……」
俺は数百円分の小銭を自販機に投入する。カチャカチャと小銭がキチンと入ったのを確認してから、俺はとある飲み物のボタンを押す。
ガコン、多少は重量があるものが落ちる太い音が聞こえる。俺は自販機の取り出し口からその飲み物を取り出した。
「これを買うためだぁ!」
俺は水戸黄門の如く「これが目に入らぬかぁ!」っと飲み物を田中に見せつける。
俺の持っている飲み物を見て、田中は目をキラキラさせ始める。
「そ、それは──」
「そうこれは──」
俺も田中も一呼吸置いてから、口を開く。
「「ライフガード!!」」
そう! なにを隠そう俺の大好きな飲み物、ライフガード! 世界にたった一つ(たぶん)の超生命体飲料!
いやもうなんなの? 超生命体飲料ってトランスフォーマーなの? 金色の眠りから覚めるの? となるが、細かいことは気にしない。
余談になるが、我らが北浜高校には校内に自販機が点在している。しかし、基本的に売っているのはお茶、水、スポーツドリンク、御茶ノ水博士くらいで、炭酸飲料やジュースは売っていない。
だが、なぜか食堂の自販機には炭酸とかジュースとかも結構な種類が置かれているのだ。
故に、俺は少し離れたここの自販機に来たのだ。だからこそ、俺は少し離れたここの自販機に来た。
初めてやってみたが、これが小泉構文か……。
俺がブラックのコーヒーを買っていると、同じタイミングで田中もお茶を購入し、俺たちは部室への道を歩き始める。
「……ボク、勝てるかな……」
お茶を一口飲むと、田中はため息交じりにボソッとそんなことを言った。
おそらく誰に対して言ったというわけでは無いのだろう。けれど、俺は難聴系主人公では無いから、彼の言葉をバッチリ捉えていた。
「……まぁ、今のままじゃキツいな」
声が漏れていたことを自覚していなかったのか、田中は口を指先で押さえ、俺を見た。
実は去年の地区大会の動画を見たが、今のままではどう頑張っても優勝なんかできないだろう。
ならどうすればいいか、と聞かれても俺は答えられないが……。練習しろ! だとか努力しろ! だとか無駄なことは言いたくないし。
「そもそもなんでそんなに優勝したいんだ?」
言うと、田中は手元のお茶に目線を落とす。
「ボクのチームのあと二人は三年生なんです。今年の地区大会は三人でできる最後の試合だから、優勝したいんですよ」
彼の表情はわからないが、たぶん薄く頬笑んでいるか、悲しい表情をしているかのどちらかだと思う。
あと少しでいなくなってしまう仲間のために最後くらいは良い思い出を作りたいというのは、俺には経験こそ無いが、気持ちは理解できる。
でも、優勝することだけに固執するのはまた別なんじゃ無いのか? 俺はそう思ったが、口には出さず、心の奥底にしまい込んだ。