第10話 もしそうであるならば彼と彼女は
こんにちは魂夢です。APEXいいですよね。
APEXはバトルロワイヤル式のゲームで、三人一チームで空中から落下して任意の場所に着地し、その後は各々武器をあさったり敵を攻撃したりして最後の一人になったら勝利するというわけだ。
「まずはキャラクター選択だな。松葉からだぞ」
このゲームはそれぞれ特殊能力を持ったキャラクターを使って勝利を目指すゲームだ。
まぁ俺はこのゲームの操作くらいしかわからない初心者だし、ビジュアル決めでいいか。
俺はモノアイのよくわかんないロボットを選択。
「僕は負けない」
俺のキャラがそう言うと次は田中のキャラ選だが、彼は愛用のキャラでもあるのか後方支援のできる女性を迷わず選択。
「みんな、頑張りましょう!」
田中のキャラも一言喋る。
次はこのゲームが得意だと豪語する扶桑花のターンだ。
彼女は俺のキャラに似ているがもっと厳ついロボットを選択。
「全員肉塊にしてやる……」
いや怖いよ! 扶桑花さん? あなた仮にも美少女やってるんならもっとこう少女らしいのにしたらどうなの? 肉塊とか言っちゃってるよ?
「麗良ちゃん怖い! なにそのキャラ!」
恋綺檄が目をまん丸にしながらそう言った。
やっぱり怖いよなぁ、しかも田中の方が女の子っぽいし……。
「このキャラは強いんだ、素人は黙ってろ」
扶桑花はプイッとそっぽを向く。
なんで拗ねてんのお前。
「ほら、位置決めだぞ。田中が決めて良いから」
田中はマップを開いて中央のビル群に合図のピンを刺し、その場所に落下。
武器収集のためあえて全員少しずつ離れたところに着地。
「なぁこれどんな武器使えばい──」
「静かに! 敵の足音が聞こえないだろう」
ま、まさかの私語厳禁? そんなのでチームプレイなんてできんの?
仕方ないから俺は適当な武器を片っ端から拾っていく。
「あ! ボク死んじゃいました」
コトンとコントローラーを置く田中。
「わかった、回収しにいくから待ってろ」
味方の死体を漁ると復活のするアイテムを入手でき、それを特定の場所まで持って行くと味方を復活できるということらしい。
ん? 足音が聞こえるな、俺の近くに敵がいんのか。
「足音怖ぇ……、倒せる気がしなって撃たれてる撃たれてる撃たれてる!!」
俺は秒で儚く散ったのだった……。いや無理無理、流石に敵が多すぎる。三人くらいで俺一人を蜂の巣にしてきたぞ。
「すまん、俺のも回収頼む」
「頑張ってはみるが……、位置的にたぶん無理だ、すまない」
マジかよ……、まぁ確かに降りた位置が悪かったのかもな。それに、足を引っ張るくらいなら、ここで傍観してた方がマシか。
俺はコントローラーを置いて頬杖をついた。
○
「YOU'RE CHAMPION!」
野太い男の声がモニターから流れる。勝利の合図だ。
「す、すげぇ。本当に勝ちやがった」
結果的に田中は二度復活して貰ったにもかかわらず最終戦においては死体になっているという悲しい状況ではあったものの、勝利したことに変わりは無い。
てか、勝利よりも教えて欲しいんだよね? なんも教えてあげてないし、なんなら圧倒的戦闘力の差をまざまざと見せつけられただけで終わっている。趣旨変わってるじゃねぇか……。
「ふぅ……、どうだ? 私の教え方は。わかりやすかっただろう?」
いやいや、扶桑花さんなんも教えられてないですし、見てるだけで全弾ヘッドに命中させる方法なんてわかりませんよ。
「すごかったです! 明日も教えてくれますか?」
「もちろんだ」
両手を上に上げて喜ぶ田中。そのとき、一瞬彼の前腕が見える。アザだらけに見えたが、気のせいか?
てか明日もこれやんの? まぁ俺は特に何もやってねぇから別にいいけど。
「それじゃあそろそろボクは……」
そう言って田中は荷物を素早くまとめ、部室を後にする。
時刻は五時過ぎで、もう帰ってもいい頃合いだ。
「なぁ扶桑花、あれくらい上手くなるのにどのくらい練習したんだ?」
素朴な疑問だった。一体三で大立ち回りを繰り広げることができるまでは、相当な練習と、努力が必要になるはずだ。
彼女は家で何時間もコツコツと練習をしていたのだろうか。
「……いや、私は初めてやったときからあの位は軽くこなせていたな。……そもそも私は、練習なんてしないたちだ」
そう言って、彼女は俺を見る。目が合った。
綺麗な深紅の瞳が、俺を捉えている。俺は目をさっと逸らしてしまう。理由はわからない。
「なら……、努力とかそういうのは嫌いなのか……?」
恐る恐るおっかなびっくりと言った感じで、尋ねてみる。
「……ああ、努力は嫌いだな」
俺はなんでわざわざこんなことを訊いたのか。理由ははっきりしている。
きっと、安心したかったのだ、俺は。今まで努力嫌いを自称してきた。
ずっと一人だった。でも、もしかしたら彼女は…………。
「そろそろ起きろー、恋綺檄」
「ひゃう!」
恋綺檄の頭をぺちんと叩くと、変な悲鳴をあげて起き上がる。
恋綺檄がえへへと笑いながら俺と、扶桑花を見る。でも俺は恋綺檄を視界に捉えつつ、物思いにふけっていた。
扶桑花は、俺と同じ……、なのかも知れないと、淡い期待を抱いてきている。
彼女の過去を俺は知らない。彼女は今まで俺と一切の接点が無かったからだ。
でも俺と同じ努力嫌いなんじゃないかと、俺は彼女にシンパシーを確かに感じている。
もし俺と彼女が同じ思想を掲げているなら……。
俺と扶桑花は……。