第九十五章・メッセージ・イン・ア・ボトル
今話のサブタイトルは、ザ・ポリスの「孤独のメッセージ」から取ってあります。
第九十五章・メッセージ・イン・ア・ボトル
海岸に流れ着いた空のワインボトルを拾った俺は、濡れた紙を探して、木の枝で文字を書く。『SOS』。
「それは何のしるしだ?」
コマドリが訊いた。
「セイブ・アワー・ソウルの頭文字だよ」
「つまり、救難信号のようなものか」
「そういうこと!あとはコマドリ、座標を記入するから書いてくれ」
「ああ。太陽に位置から計算すると、経度と緯度は分かる」
「忍者ってのは博識だな」
「そういう訓練も出来ている。忍者の山にはこういう陸の孤島でも生き延びられるように修行もしているからな」
「よくやるな」
「子供の頃からずっと訓練をしているからな。忍者は死ぬことと見つけたりではない。サムライではないからな、高度な軍事訓練を積んだ軍団なのだ。剣やトンファー、手裏剣などを主に操り、武器が無くなれば素手で、拳法や柔術まで使えるのが本物の忍者だ」
「そりゃすごい!」
俺は感心した。スゲェな。
「もともとは忍者というのは、諜報活動などを得意としているからな」
「なるほど。スパイみたいなものか」
「スパイという言い方もあるのか。そうだな」
コマドリは紙に座標を書き込む。それを俺は受け取った。
「これでいいだろ。リューイチ、この紙をどうするんだ?」
俺は空のボトルを見せた。
「こいつに入れて、海に流すんだ。前に小説で読んだ時に書いてあった方法だ」
「そんなんで大丈夫なのか?」
「祈れ!」
俺は紙を畳んで、ボトルに押し込むと、それを海に投げた。
「これで良し!あとは運任せだ」
「なんともプリミティブなやり方だ」
「こんな無人島では、やり方は限られているだろう?」
「そうだな」
夜になると、コマドリが木の枝で火を起こしてくれた。こういう時、本当に忍者は役に立つ。いや、上から目線で言ってるんじゃないぞ。これは感心しているということだ。
俺たちは冒険者で、こういう遭難も冒険の内だ。死に場所など決まってはいない。どこまでも生き、そして死のリスクに抗うのだ。これが冒険者ってものだ。
俺は食料確保のために森に入り、獣を狩ってきた。ちょうどバクに似た獣がいたので、そいつを捕まえてきて、剣で切り分けて、火であぶり、コマドリと食事をした。
というより、獣の肉にかぶりついたという方が表現としては合っているようだが。
その後、夜も更けると眠りにつく俺とコマドリ。
* * *
四日が過ぎた。太陽は高い。日も差しているが、この無人島からは、相変わらず脱出できない状態であった。
俺は長期戦を覚悟した。まるで戦争中に南方前線に送られ、補給もないままジッと待っているような感じだ。南方前線に行ったことなどないが、ただの例えだ。
狼煙でも上げた方がいいか?
「なぁ、リューイチ」
コマドリが近くに来る。
「船が沈んだ場所は人魚の群生海域だったろ?」
「ああ、そうだな」
「もし皆が食われでもしたら‥‥‥」
「それは禁句だな」
「え?」
「考えないってことだ」
俺も最悪のケースだけは考えたくない。俺たちが助かったとしても、他の皆がやられるということは、絶対に考えたくない。
* * *
さらに二日が経った。
助けが来るのを待てば待つほど、来ないという絶望感にも似た感情に襲われる。
どうすればいいんだ?
俺は解決策を考えた。ボトルに入れたメッセージだけではダメだったか。
これは別の話だが、ちょっと最近、気になることがある。
俺が狩りから戻ると、コマドリの俺との距離がだんだん近くなっているのに気がついた。
吊り橋効果と言うやつか?
俺たちは、夜になると体をくっ付けるようになっていた。お互いに寂しさを埋めるように俺とコマドリは手をつないで眠る。
その翌日の早朝、ルイ・イーク王朝の軍艦が俺たちを見つけて、船に乗せた。
助かったのだ。
俺とコマドリは、安堵した。
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