第八十九章・夜を抜ければ、そこは海賊の海だ!!
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第八十九章・夜を抜ければ、そこは海賊の海だ!!
まるでトビウオのように、人魚たちの群れが、艦隊のあちこちで飛び回っていた。
見張りの男たちが、ライフルで応戦したが、人魚のキバやツメで傷を付けられる。
ライフルの音につられるように、俺たちは甲板に出てみた。大量の人魚たちが水から飛び出しては、海に戻ったりしている。その間に男たちが狙われるという光景を目の当たりにした。
「オイ、こいつらは本当に人魚なんですか?」
俺は我が目を疑い、トゥエルに訊いた。
「そうです!女は狙われません。男たちは人魚には注意するように言ってあります!」
「なるほどな。こいつらはこの海域にはどれぐらいいるんです?」
「今、襲ってきてるのを見ると、5000匹くらいいますね」
人魚は‶匹″の単位なのか?
まぁ、それはいい。
しかし、人魚5000匹ってのはちょっと多過ぎじゃないのか?
艦隊のあちらこちらでは、ライフルの銃声と、小さなマズルフラッシュが光っていたが、あれで人魚は撃退できるのか?
人魚の飛び回る速さは尋常ではなかった。ほとんどの銃弾が外れるのが見える。
これでは、俺でも剣で立ち向かうには分が悪すぎる。
「ライフル以外で戦うことは出来ないのですか?」
「一匹一匹倒していってもダメです。このまま連中の好きなように暴れさせて、日が昇るのを待ちましょう。それまで粘るのです!」
本当に厄介な相手だな。俺は自分が海が怖いことを忘れていた。今、怖いと思うのは、この人魚たちだ。
この世界の生態系は俺の想像を軽く超えるものだった。
こいつらは数匹倒したところでどうにもならない。
素直に夜が明けるのを待つしかない。
これではこちらは圧倒的に不利だ。やり過ごさなければならない時もあるだろう。多勢に無勢とはよく言ったものだ。
そういえば、前世では体育の授業で、バスケットボールをイジメっ子たちから一斉にぶつけられたことがある。二つ三つくらいなら手で弾くこともできたが、一斉に十個以上投げつけられたら、ボールを食らうしかない。それで俺はボコボコにされたことがある。しかも、散乱したボールを出したのは俺だと教師には言われ、片付けまで俺がさせられたのだ。
苦い記憶だ。多勢に無勢は、俺も経験があるのだ。
俺たちは船室に戻り、人魚たちが去るのを待つことにした。
騒がしい外とは違い、船室は穏やかにふるまう者たちばかりで、少し安心した。
俺は海に落ちることだけは絶対に避けたいと思った。
水の中では圧倒的に俺は不利だからだ。
「人魚のことはあまり心配しなくてもいいです。海賊との遭遇に気を向けましょう」
と、トゥエルは余裕の表情で言った。
* * *
やがて、夜が明けた。いつの間にか、人魚の海域は通り過ぎたようだ。
海がずっと荒れていた。次の海域に入ったようだ。青い海も、これだけ白波を立てれば船も揺れるし、船の船体に波が叩きつけられるのを感じる。
「ここは?」
甲板で立っていた、軍服に着替えていたトゥエルは振り向く。
「ここが海賊の海域です。奴らの拠点でもあり、多くの海賊船が往来しているところですよ」
「なるほどな。もう連中の縄張りには入っちまったってことですか」
「そうです。ここから先が、本当の戦いです」
「気合いが入りますなぁ」
「気合いは海賊の方です。我々は、綿密な計画で、対処せねばなりません。女海賊リリー・プラド・ハモレミストは強敵ですから」
「敵は三十隻以上の船を持っているんでしょう?戦力的には大丈夫なんですか?」
「こちらはクラーケンとの戦いで、残り十一隻になってしまった。もともと分が悪かった上に、さらに厳しくなってきたですね。でも、軍艦は海賊たちとの戦い以外にも使いますから、国を守るための船も残しておかなければなりません」
「ああ、敵は海賊だけではないんですね」
「正直、厳しいが、それでもこれだけの戦力しか今は出せないのが現実なんです」
「仕方がないのかもしれませんね」
「だからこそ、奴らと戦い、奴らの首を持って帰らねばならないのです!」
いきなり物騒なこと言い出したよ。
ま、海軍だからな。
しかし、女海賊とはやりにくい相手だな。そっちの方が手こずりそうだ。
厄介ではあるが、俺たちにもしものことがあってはならないのだ。
殺し合いだけはカンベンな。俺、そんなにメンタル強くないんだよ。
体がだるいので、今日は病院に行きます。