第八十七章・航海は危険から始まる?
読者様にお届けるこの小説を、手紙を届けるように思っています。
第八十七章・航海は危険から始まる?
ダン・ルーエ艦隊は、大海原に出る。俺が船酔いになるのは予想された通りだったと思う。食ったものをすべて吐いた。でも、俺はチートなので、こんなに具合が悪くなっても、最強は最強だったのだが。
でも情けない‥‥‥。
「リューイチ、そんなに苦しんでて大丈夫か?」
コマドリが心配して見に来てくれた。
「ああ、大丈夫だ」
「こんな時にクラーケンでも出現したら、どう戦えるんだ?」
言っちゃったよ、コイツ。
「何で、そんなフラグ立てちゃうんだよ!」
「え、何?」
「いや、何でも‥‥‥」
フラグ立っちゃったのは仕方がない。これは出るな。
航海は順調に見えたが、これだけの艦隊にモンスターが攻撃してくるとは考えられないかもしれない。だが、海のモンスターもいろいろいる。まぁ、ゲームの中ではそんなのいっぱいいたからな。モンスターパニック映画でも海が舞台では、そういうモンスターは出てくる。そして、この世界は俺にとってゲームの世界そのままだからだ。
さて、やはりというか、危険海域に艦隊はやって来た。
「ここからはモンスターが出るぞ。危険回避を怠るな!」
海軍のトゥエルは叫んだ。歳二十二とは思えないほどの貫禄のある女性の声が響き渡る。
彼女はサーベルを携帯していた。剣の強さもダンチだろう。
金色の髪をなびかせて、海を警戒する。
突然、数隻のナオ船が、強い衝撃を食らい、大きく揺れる。船底に穴が開いたかもしれない。船が水に浸かり始めた。
船を捨てる船員たちは、ロープで隣の船に乗り移って沈む船から脱出していった。
「化け物の襲来か?」
俺は、ダ・ガールの剣を抜いた。コマドリも忍者刀を抜く。
甲板に来るイーゼルとルルチェも、戦闘態勢に入った。
「リューイチ、これは?」
ルルチェが訊いてくる。
「分からんが、海中に何かいるようだ。俺たちを狙っている」
「危険なの?」
「ああ。もう数隻の船が沈んでダメになった」
「そんなまさか!」
ルルチェは驚いた。
「それじゃあ、敵は船の下にいるってこと?」
「そうだ!」
次の瞬間、巨大な触手が数本、海から暴れるように出てきた。吸盤がたくさん付いている。それはかなり恐ろしい見た目だった。
三隻の船に絡みつく触手。
あれは本体じゃない。本体は水の中にいる。
「イーゼル、魔導書を開いた方がいいぞ」
「もう開いてます。でもミサイルの呪文は暗記しました」
「触手を狙って撃ってくれ」
触手は船の周りを舐めるように絡みつく。
ミサイルが触手に命中し、そのせいで触手がブチ切れた。
甲板にドサッと触手のちぎれた部分が落ちる。
ものすごい咆哮が聞こえた。ダメージは与えたらしい。
モンスターの本体が、海から出てきた。
あいつがクラーケンか?
「あいつはクラーケンよ!」
ルルチェが、俺の心を読んだのか、俺の疑問の答えをそのまま言った。
こんなにデカいのか、やっぱ。
ゲームや映画とはスケールが違い過ぎ、その迫力に圧倒される俺。
生々しくて、それでいて荒立つ波が起こって船もものすごい勢いで揺れまくった。
俺たちは甲板に体を打ち付ける。
「どうするんだよ、あんな化け物!」
足場を失いつつ、立てない状態で、俺は叫んだ。
これでは艦隊は壊滅的なダメージを受けて、航海は続けられなくなる。
それに死人も出るぞ。何とかしないと!
俺はダ・ガールの剣を持ったまま、攻略法を考えた。考えている暇はないが、考えないと一方的にやられちまう。ゲームでもそうだ。戦略を考えないと攻略は出来ない。
俺は、船のマストにしがみつくと、相手をよく見た。
クラーケンは触手だけを狙っただけでは倒せない。
相手は巨大なゲソだ。頭部を破壊しないとやっつけられない。
そして今、頭部は海の中から出ている状態だ。
解決策は頭部への攻撃!
俺は船からクラーケンの本体に飛び移ると、その本体をよじ登り、頭部へと達した。
ここからがトドメだ。
俺はダ・ガールの剣を下に向け、一撃で頭部に斬り込んだ。
再び咆哮が聞こえて、苦しみもがくクラーケンに振り落とされそうになる俺。
俺は泳げないから、海に落ちたら助かるか分からない。
それでも振り落とされるくらいのクラーケンのもがきに、ついに俺の手がクラーケンの頭部から離れた。
海にドボンと行くかと思いきや、俺が背中から叩きつけられたのは船の甲板の上だった。
元いた船の甲板に戻ってきたのだ。
助かった‥‥‥。
クラーケンはしばらく暴れた後、その身がボンッと、コインに変わり、艦隊のあちこちに落ちていった。
危なかった。やっつけたのか、俺が。
船の航海は本当に危険だ。俺は心底、それを痛感した。
今日はあまりテンションが上がらなくて、少々困ってます。