第七十五章・線路は続くよ、どこまでも。
最近はコーヒーを飲み過ぎです。やめられないですね。
第七十五章・線路は続くよ、どこまでも。
ルーバ鉄道の線路は、聞いたところ、とてつもなく長いとのことだ。どれぐらい長いかというと、俺の想像だと中国の万里の長城並みの長さらしい。万里の長城がどれぐらいの長さなのかは正確には知らないのだが。たぶん、それぐらいの長さをイメージしておけばいいのだろう。
まぁ、俺たちは途中下車するので、一日かければ目的地近くの駅にはたどり着くのだ。切符はダ・ガールから人数分、行き帰りの両方とも出してもらっているので、実質タダなのだ。
コマドリが「この列車に乗るのか?」と、ルルチェに訊いた。
「ええ、そうよ。このルーバ鉄道のリズール駅から北の方へ向かうの」
「鉄道なんてわたしは初めてだ」
イーゼルも、「わたしもです」と答えた。
俺は生前では、都市部に行くのによく鉄道は利用していたな。電車で八駅だったが。
ま、生前の話だが。でもこの世界で、鉄道に乗れるとは思っていなかった。
列車は四両編成だった。先頭車両には、魔法使いと思われる鉄道員が二人、乗り込んでいた。この列車を動かすのには、かなりの魔力がいるということか。
まぁ、それもそうか。
「この駅には駅弁売ってないのかな?」
イーゼルが、「駅弁って何です?」と訊いてきた。
「駅で売ってる弁当のことだよ」
コマドリはそれを聞いて、弁当に反応する。
「弁当というのは、アレか。おにぎりとか入っている持ち運びのできる料理の入った箱のコトだな」
「丁寧かつ詳しい解説をありがとう、コマドリ」
「ん?わたしも駅弁とやらには興味があるからな」
「おう、仲間だな!」
ルルチェは申し訳なさそうな顔で、「駅弁なんかは無いのよ、ゴメン」と、言った。
「鉄道は一般人には利用不可能なの。だから駅弁なんていう一般的な物は、当然売ってないし、乗れるのは貴族階級ぐらいな者だけなのよ。食べるところは列車の中で用意されてるし」
え、そうなの?
「ビップだけの乗り物ってわけなのか。俺の前世では、鉄道は民間人の利用する乗り物だったんだが」
「リューイチのいた世界は知らないけど、この世界では鉄道はとても高価な乗り物なのよ。物資も運べるし、人も運べる。それには相当の魔力を必要としてるのよ」
「なるほどな。金がかかってるのか」
「そういうこと!」
「この世界に駅弁があるとしたら、食べてみたかったな」
「うん、無いから」
「分かったよ。俺たちはビップ待遇なんだな。ダ・ガールのおかげで」
「わたしたちの今度の旅は、国からの依頼の、古代遺跡の場所の特定なのよ。そのために出てる予算の枠の中に、この鉄道を利用することも入っているの。ダ・ガールの城からエルドアード山岳は遠いからね」
「州は越えないだろ?」
「ええ。でも遠方だから」
「鉄道でも何でも利用するってワケだ。俺たちも偉くなったな」
「まぁ、一応ダ・ガールの直属の冒険者だからね、わたしたちは」
「そうな」
俺は皆が列車に乗り込んだ後、自分も列車に乗った。
ダ・ガールからもらった金時計を、俺は懐から出すと、時刻を確認する。
「この先はどこで下車するんだ?」
コマドリが、「知らん」と、言った。
いや、お前は知らないだろう。
ルルチェが、「ランドバールという駅で下車するのよ」と、言う。
「そこからロープウェイが出てるから、それに乗って、山岳の途中まで行くの」
ロープウェイがあるのか?何でもありだな。
やがて列車は動き出した。これが魔法の力で動いてるなんて、驚きだ。
動き方は普通の電車と同じ感じがした。
「線路は続くよ、どこまでもってヤツか」
「何ですか、それ?」と、イーゼルが訊いてきた。
俺は、「ああ、何でもないよ」とだけ言った。
ただの独り言だ。
列車の旅も案外いいものかもな。
読者の皆様、読んでいただいてとても感謝しています!!