第七十三章・誕生日のプレゼントは何?
今年もあと二か月半くらい。どのように過ごそうかと思っています。
第七十三章・誕生日のプレゼントは何?
俺たちは、イーゼルにプレゼントとして、城下で買った、エメラルドの首飾りを渡した。
この首飾りには、魔力が込められていた。イーゼルにはピッタリなアイテムでもあった。
ルルチェが選んだのだ。さすがにセンスがいい。女子のプレゼントは、女子が選ぶ方が断然いい。俺では好みを外すことの方が確率的に高い。
「誕生日おめでとう!イーゼル」
「ありがとうございます、みんな」
イーゼルは心の底から喜んでいたようだ。感極まっているのが分かる。
* * *
パーティーが終わる頃、イーゼルは俺に言った。
「最後にお願いがあるんですけど‥‥‥」
「何だ?」
「寝る前にあの、その‥‥‥」
え、何だ?
「お休みのキスをください」
恥ずかしさピークで、イーゼルは俺に言ったのだ。
「キ、キス?」
「は、はい」
「俺なんかでいいのか?」
「ここにいる男性はリューイチしかいないでしょう。リューイチにしてほしいんです。一度だけでいいので‥‥‥」
本当に俺のようなヘタレがそんなことしていいのか?
何かの冗談じゃないだろうな?でも、それでいいというのなら。
「わ、分かった。で、どこにすればいいんだ?」
「それはリューイチが決めてください」
「ええ、俺が?」
少し考えて、待たさせているイーゼルを見て、俺はイーゼルのおでこに、唇の先をためらいなく接触させる。接触と言うとムードが無いので、そっとキスをしたと言えよう。
イーゼルが顔を真っ赤にする。
「勇気を出して言ってみて良かったです。ありがとう。リューイチ、お休みなさい」
頭を下げたイーゼルは、すぐさま部屋を出ていった。
「あそこでキスしなかったら、本当のヘタレになるところでしたね」
と、ベアトリアース。
「俺も意外だ。俺なんかが‥‥‥」
「あの子はお前の一番最初の仲間だったんでしょう?」
「ああ、そうだ。俺の一番最初の仲間だ」
「彼女を大切にしなさいね、リューイチ」
俺は無言の了解を表した。
* * *
次の日、俺たち一行は、ダ・ガール城の城下に来ていた。今回はベアトリアースは連れてこなかった。ダ・ガール直属の魔族になったことで、業務に追われる身になっているからだ。俺とイーゼルと、コマドリ、ルルチェの四人で食料の買い出しをしていた。
城下で、エルフのマイナリースに会った。
「あら、こんにちは。時代遅れの冒険者さん」
「相変わらず嬉しい態度だな、あんた」
「わたしは今日は買い物があって、ダ・ガールの城下に来ているんですよ」
「買い物?」
「はい。高い薬草の種をここで買うんです。この前の疫病騒ぎには苦労しましたから」
「疫病はもう大丈夫なのか?」
「ええ。あなた方の活躍で、根絶されました」
「ルビの町はまだ、魔女の仕業だと思ったままなのか?」
俺のその言葉に、マイナリースはイーゼルの方に目をやった。。
「あ、そこにいるのは魔女のあの子ですか?」
「そうだ。あの時のな」
「ギルドに来た子なので、覚えています。あの時は本当に申し訳ありませんでした」
「町の人たちの誤解は解けたのか?」
「ええ。わたしは町の皆に、説得して追放を撤回させるようにお願いしたんですが、あの時は全然聞いてもらえなくて……」
「それだけじゃ、足りないだろう?」
「ええ。本当にわたしも申し訳ないと思っています。でも、今はもう、別の魔女がやって来て、何も起こらなかったので、魔女のせいではないと分かってもらえました。原因は別の何かだと思っています。呪いのかかった病など、作り出せる魔女はいないとのことです」
「ルビの町にはもう行けないかもだが、別の魔女ってのはいったい誰だ?」
「はい、その魔女も十五歳になったので、独り立ちしてギルドに現れました。もう冒険者登録は別のところで済ませたと言っていましたが‥‥‥」
「名前は?」
「えっと、確かリエットっていう名で、黒いタートルネックのワンピースを着た、おかっぱ頭の少女でした」
「リエット?イーゼルは知ってるか?」
俺はイーゼルに訊いてみた。
「リエット?ああ、確かわたしが魔女の里にいた頃の魔法学校の後輩で、そういう名前の子がいたかもです」
「直接の面識は無いってことか」
「はい。直接では無いですね」
俺はまた、マイナリースの方に向き直った。
「情報はありがとな、マイナリース」
「いいえ。わたしの情報で良ければ!」
「いや、いい。それじゃあな」
俺は去ろうとする。
「あ、ひょっとして、まだ怒ってらっしゃる?」
「いいや。俺は平気さ。でも傷つけられたのはイーゼルだ」
「それに対しては本当に悪いと思ってます。イーゼルさん、ごめんなさい」
「あ、いいえ。わたしこそ。すみません‥‥‥」イーゼルはバツが悪そうに答えた。
「それじゃあ、冒険者様、また会いましょう」
「ああ。それじゃな!」
俺たちとマイナリースはそこで別れた。
「イーゼル。俺が守ってやる。お前は心配しなくてもいい」
俺は心を決めたようにイーゼルに言う。
「はい。ありがとうございます、リューイチ」
イーゼルは軽く、首を縦に振った。
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