第五十八章・馬車の中の怖い編集者。
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第五十八章・馬車の中の怖い編集者。
カル・デール王朝へと馬車で向かう俺たち一行。今回は魔族の幼女ベアトリアースも同行している。
馬車で四日の距離にあるのが、カル・デール王朝だ。
俺は小さなノートに書きものにしている。
「なぁ、ちょっといいか?」
俺はルルチェに訊きたいことがあった。
「何、リューイチ?」
「その、お前のいとこのポラリスって子」
「ああ、ポラリスは北極星の意味よ」
「いや、名前の出どころの話じゃなくてだな」
「ん?」
「いや、そのポラリス様ってやつは結婚するんだよな?」
「そうよ。そのためにわたしたち、カル・デール王朝へ向かっているのでしょう?」
「だけど、普通結婚するのなら、相手の‥‥‥、名前なんだっけ?」
「ダン・ルーエの王子?正式にはダン・ルーエ・タ・トドス王子よ」
「そう。結婚するのは、その何とかって王子の王国でじゃないのか、普通?」
「あなたの言う普通っていうのがよく分からないのだけれど、それに名前もちゃんと言えてないし」
「いやぁ、俺はイーゼル並みに暗記が苦手でな。って、そうじゃなくて、普通は旦那の国で結婚式をするもんじゃないか?」
キョトンとするルルチェ。
「ああ、そうか、分かった!」
「え?」
「あなた、ポラリスが嫁ぐもんだと思っているのね?違うわよ。ドトス王子の方が婿養子」
「あ、そうなの?」
「そうよ。力のある国に婿入りするのがこの世界の習わし」
「えげつねぇ話だな‥‥‥」
俺はノートを閉じた。
「リューイチ、それは何?」
俺のノートを指さすルルチェ。
「ああ、これは回想録みたいなモンだよ」
「回想録?」
「日記っていうのかな?これは俺のこの世界に来た時からの体験をまとめたものなんだ。面白いと思ってな」
「つまりこれまでの冒険や旅を記しているのね?」
「ああ。これを書いて売れば、もうけにもなるかな?」
「ひょっとして本にして売るつもり?」
「まぁな」
「ちょっと見せて!」
俺は自信があったので、これまでの回想録を書いたノートを、ルルチェに渡した。
まぁ、馬車に乗っている今は、ヒマだろうから、読み物があった方が退屈しないだろう。
数冊の魔法の本を読んでいるイーゼルと、「ラショウモン」というタイトルの本に夢中なコマドリもいるのだ。コマドリの読んでいる本の内容が気にはなるが、俺は訊かなかった。
さて、俺の回想録はどうだ?
読むのに時間はかかると思うが、俺は馬車に揺られながら待った。
「ねぇ、リューイチ」
ルルチェは俺に訊いてくる。
「何だ?」
「これまで書いたものを全部読んだけど、これ面白くないわよ」
ツッコむのか!
「ええ?いやいや。それ、お前も登場するし、面白く書いたと思うけど?」
「面白くない。あなた、つまり文才が無いのよ」
地味に傷つく‥‥‥。
「どこがダメなんだよ?」
「まず最初。いきなり登場したルシフィーネって女神は誰なの?」
「えっ、それは‥‥‥」
「説明なしにいきなり登場させるのはどうかと思うわ。いったいどういう存在?」
「そ、そんなこと言われても‥‥‥」
「それに、いきなりあなたが死ぬなんていう展開、これもどういういきさつ?人間の命は一人にひとつ。生き死にをネタにするなんて、命をバカにしていると思うわ」
いや、だって‥‥‥ホントのことだよ?
「だいたいこれって、いったい読者に何を伝えたいのか、よく分からない。この話のテーマは何なの?」
テーマと来たか!そんなもの知らない!
「一番伝えたいことは何?」
「いや、それは俺がチートであることっていうか‥‥‥」
「そのチートって何よ?」
「強いってことかな?」
「まぁ、確かにあなたは強いけど、それで読者は納得しないと思うわ」
「いや、でもヒーローものってあるじゃん」
「ヒーローにも弱点ってものがあるでしょ?あなたは強いということしか書いてないじゃない!ちゃんと弱さも書いておきなさいよ。読み手に伝わらないでしょ?」
「うう、はい」
「それにコマドリの存在が薄い。もっと活躍させてあげて。これじゃコマドリにファンが付かないわよ」
「ファンって‥‥‥」
「あと、この話にはヒロインがたくさん出てきてるわ。一人に絞りなさいよ!」
「そこかよ!」
「当然でしょ!ヒロインは誰?」
ヒロインだらけの読み物もあると思うけど‥‥‥。
「決められるわけないだろ?」
「ダメ!この回想録、全然ダメ。これじゃ売れないわ」
「お前は出版社の編集かよ!」
俺はルルチェの手から、ノートを取った。
「これは俺の回想録だ」
「なら、そんなものは同人誌でやりなさいよね」
同人誌ってこの世界にもあるのか‥‥‥。
「とにかく、ラストがまだだ。すべてはラストで決まるんだ。だから、まだ面白い面白くないは語るなよ!」
この世界に来てまで、なぜ自分の本に意見されなきゃいけないのか。
俺は少しの間、続きを書くのをやめた。
やる気、出ません。
今後も書いていきますので、よろしくお願いいたします!!