第五十二章・これはイジメです。
休日返上で書いてます。読者様がおられる限り、書きます!!
第五十二章・これはイジメです。
俺が、ラブフにこれ以上手を出したくないのには理由があった。
「倒れてる奴にみんなで物理でボコって勝ったつもりか?」
相変わらずのヘタレぶりを、俺は見せた。
「けど、こいつはわたしたちを殺そうとしてきたんだぞ?」
もっともな意見をコマドリは言う。しかし、そうではないのだ。
「俺も昔、殺されかけたことがある。だが、恨んでも仕方がないことだってあるんだ!」
殺されかけたというのは、もちろん前世での出来事だったのだが。
俺は体育館にあった大きな体操用のマットにぐるぐる巻きにされ、横に寝かされて、その上を数人が乗っかり、トランポリンのように飛び跳ねながら俺は潰されてしまったのだ。体じゅうの骨にヒビが入った。ついでに肺が圧迫されて、呼吸もできずに窒息死寸前まで息が出来ずにくたばりかけたのだ。
もう一つ。上級生にイタズラで、川に落とされて、足のつかないところで溺れてしまい、息が出来なくなる寸前まで苦しい思いをした。上級生によって引き上げられたが、俺は虫の息だった。何とか、その時は生き延びたが、それ以来、水が怖い。
何より、息の続かないことに恐怖するようになったのだ。だから、俺は呼吸が出来なくなることに強い恐れを感じることになった。
「こいつを殺すのは簡単だ。でもそれでいいのか?」
「リューイチ、そなたは甘すぎる!」
コマドリに叱られてしまった。
「ああ、甘いよ。俺は甘々のヘタレだ。でも俺は、こういうのが一番嫌いなのさ!」
ルルチェが呆れていたが、それでも俺の意思をくみ取ってくれたようだ。
「まぁ、あなたはそういう人よね。まったくもう!」
「いや、スマン‥‥‥。俺個人の問題にしてしまって」
「いいけど。やっぱりあなたは本物のバカよ」
「分かってるよ」
「それで、この子はどうするの?こいつなんでしょ、ラブフってやつは」
「ベアトリアースの話ではこいつで姿かたちも一致する」
「わたしのお父様はこいつを討伐するように言ってきたのよ?あなたとイーゼルの結婚式を取りやめにする代わりにね。討伐しなかったら約束守ったことにはならないでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「もどかしいわね。こいつがいなくならないと、森林の開発は出来ないのよ?」
「そうだな。でも、ここはひとつ、お前に頼ってもいいか、ルルチェ?」
「うん?」
「この森に結界を張ってくれ。そして、この森を開発しようとしたら、容赦なく雷が落ちると触れ回ってくれ。それで開発は終わりだ」
「何それ?この森を守ろうっていうの?」
「それしかない。この子の住処なんだ。返してやりたい」
「まったく、バカなんだから‥‥‥」
「王様には呪いがかかるとでも言っといてくれ。ハッタリでもいいだろう?」
「はいはい」
「もうこれ以上はただのイジメになる。俺はお前たちにもそんなことに手を出させたくないんだ」
「もう分かったってば。このヘタレ!」
翌日、やっと目が覚めたラブフは、縄で縛られている自分に気がついた。
「お、起きたか。ラブフ」
「な、なんであたしの名前を知ってる?お前誰だ?」
敵意の目を見せるラブフ。
「この森はお前の家なんだろ?今、俺の仲間がこの森に結界を張っている。もう誰もこの森を荒らしたりしない。だから安心しろ」
「それであんたは?」
「俺か?俺は冒険者のリューイチだ」
「リューイチ‥‥‥。妙な名前だね」
「よく言われますよ。はいはい」
「あたしを倒して、あたしはどうなる?」
「まぁ、この森の守り人になってくれ。これからもな」
「本当に人間は、あたしたちモンスター狩りを、もうしないというのか?」
「ああ。信じろ!」
俺にしちゃ、ちょっとカッコつけ過ぎかな?
でも、俺の本心だ。
「俺たちはやることやったらすぐに去る。いいな?」
「‥‥‥‥。あんたは人間にしちゃ変だ!」
「それもよく言われる」
うつむいてしまったラブフは、少し口を開いてボソッと言う。
「あ、ありがとう」
結界を張ってくれたルルチェとイーゼルが戻ってきた。
「リューイチ、結界は張ったわよ」
「そうか。じゃあ、帰ろう!」
俺はラブフの縄を解くと、自由にしてやった。
「あんたたちのことは忘れないよ。だから、一つだけ言わせてくれ」
「何だ?」
「あんた、リューイチだったか?あんたはもっと剣の腕を磨け。隙だらけだったぞ!」
そう言い残して、ラブフは、森の奥へと消えていった。
一日二回更新しているので、そのペースで書いていきたいと思います。読んでいただいて本当に感謝しています!!