第四百七十七章・異世界転生したけど、魔王がいないから冒険やめた。
令和元年5月1日。令和になって初めての更新です。物語は今日中には全部、更新されるでしょう。
第四百七十七章・異世界転生したけど、魔王がいないから冒険やめた。
俺は深呼吸した。
死んでるから、呼吸なんて意味ないだろうが。
「いや‥‥‥一瞬、人間世界って思ったけど、どちらも俺にとっては大事な世界なんだ。どちらかって言われても困るんだよなぁ」
ルシフィーネは困惑する。
「もしアレでしたら、人間世界でもチートスキルを持って転生しても‥‥‥」
「いや、そういうことじゃなくてだな」
「天国に行かれるというのなら、わたしは地獄に落とされて‥‥‥」
「俺はもう、チートスキルはいらない。いや、チートでも死んじゃあ意味ないってことが分かったよ。だから、人間世界にって思ったけど、俺の大事な魔女が、あの世界にいる。だからファンタジー世界にまた戻りたい」
「分かりました。あなたの要望を全面的に聞きます」
「よろしくな!」
「はい」
「では転生させます。『おいきなさい』って、これは違いますね」
このタイミングでボケを挟むな、ルシフィーネ!
その顔、潰しますよ?
* * *
気が付くと、俺は高原にいた。
蝶々が花の周りを飛んでいる。
見覚えがあるな。
あ、前に転生した時に最初に来たところだ。
俺が低いところに行くと、そこにはのどかな森があった。
森の中から、少女が出て来た。
魔女の服に魔女のとんがり帽子、緑色に統一された格好の少女だ。
俺の知ってる魔女にそっくりな子だ。
イーゼル?
「よう」
俺は声をかける。
「あ、あなたは?」
「俺だよ、イーゼル」
「イーゼルって、わたしのお婆さんの名前ですよ。大魔女イーゼル」
大魔女イーゼル?
またルシフィーネは、ズレた時代に俺を飛ばしたのか?
ま、いいけどね。
今度は何年ズレたんだ?
「大魔女なのか‥‥‥。イーゼルが」
「知り合いなんですか?あなたにとって、わたしの祖母はどんな存在なんですか?」
「そりゃ、大事な人だったよ。あれからどのくらい経ったんだ?」
「あれからとは?」
「大魔王エリーの討伐からだよ」
「ああ、祖母が戦った、あの大戦ですね。あれから50年です」
「え?じゃあ、冒険はもう、終わったんだな?」
「ええ」
「じゃあ、50年前からイーゼルは独り立ちに戻ったのか」
「祖母はそうです。一度、昔の大魔女であるリプクレシア様の元で、修行をし直して、当時好きだった冒険者様の死を乗り越えて、その後、別の人、わたしの祖父と結婚して、わたしが生まれました」
「そっか、結婚したか。俺の大事な人だったんだがな」
「あなたはあの当時の勇者さんですね。かつて祖母が好きだった人。そうでしょ?」
「よく分かったな。まぁな。そうだ。それにイーゼルはとても大事な人だったんだ‥‥‥」
「結婚したいくらいに?」
「ああそうだ。言わせんなよそんなこと。ああ、彼女が患った狂鬼病はどうなった?」
「エルフたちによって、いい薬が出来てからは、症状も和らいでいるようです。治ってはいませんが、上手に付き合っています」
「そうか」
「祖母が心配ですか?」
「そうだな。今でも心には残っている。俺にはどうすることも出来ないが‥‥‥」
「そうですか」
「君は意地悪なことを訊くんだな」
少女はフフッと笑った。
「わたしはレイゼル。大魔女イーゼルの孫娘です。もうすぐ十六歳になります」
「そうか。もう大人だな。成人して酒も飲める年だ」
「あ!あなたの名前は?わたしの祖母は、教えてくれませんでしたから」
「リューイチだ」
「祖母がよく語ってました。真の勇者だって。いろんな国で銅像が建ってるくらいです。あれ、でも大魔王との戦いで戦死したと聞いてますが‥‥‥」
「いや、俺は眠りについたんだよ。長い長い眠りに。そして時が流れた」
「そうだったんですか。わたしも魔女なので、里を下りて独り立ちしたんですから。良ければ、わたしの仲間になってくれませんか?」
「仲間?いいよ。この世界に魔王がいないのなら、冒険はやめるけどな」
「勇者様の口癖ですね。祖母が言ってました。現在は魔王も大魔王もいない世界ですが‥‥‥」
「それでもいい。俺と生きてくれるか、レイゼル?」
「はい!」
やっぱりイーゼルに似ているなぁ。
本当によく似ている。
これも新しい出会いってことか?
エピローグは夕方、更新予定です。平成と令和をまたいでしまいました。




