第四百六十四章・イーゼルの選択〈前編〉
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第四百六十四章・イーゼルの選択〈前編〉
俺はその、見た目はプレハブみたいな建物のドアをノックしてみた。
「はい」
そう、中から返事が返ってきたので、ドアを開ける。
中には無精ひげの男と、老婆がいた。
「こちら、あの魔王を倒した勇者の仲間だった、魔法使いの人の家で間違いないですか?」
俺は丁寧に訊いた。
「ああ、そうだよ。君は?」
無精ひげの男に名を訊かれたので、俺は、返事をする。
「俺はリューイチ。ダ・ガールの直属の冒険者です」
「リューイチ?君は日本からの転生者か?」
「ええ、まぁ。女神ルシフィーネに異世界転生させられた、元日本人ですよ」
「俺の名はコウジ。同じく転生者だ。兵庫県出身だが、バイクの事故で、一度死んだんだ。この世界に来てから30年は経つ」
「30年?」
「ああ。転生した時は、右も左も分からなかったんだ。俺はゲームもしなけりゃ、ファンタジーにも興味が無かったのだからな。サラリーマンで独身、もちろん彼女は無しだ」
どういう男だよ?
「20代で社会人だった俺は、ここでの生活になじめずに、今はこうやって、魔法使いのメル様のおそばに仕えてるってワケだ。当然、魔王はいないということは、昔聞いて、知ったのだがな」
なるほど。
この世界に興味が無いどころか、冒険そのものに縁が無かったこの人は、さぞ生きるのが困難だったということだ。
「それで、俺たちは魔法使いの人に会いに来たんだ。冒険がてらにね」
「ほう。じゃあ、ここに来たってことは、クレアスフィアを八つ全部、集めたってことなんだな?」
「そうだ」
「なら、ご高齢のメル様と面会するといい。その資格はある」
魔法使いのメルは立ち上がり、俺たちの方へやって来た。
「おや、あなたたちが冒険者なのね?」
「はい」
「そこの魔女さん、こっちに来なさい」
魔女って、イーゼルのことか。
イーゼルは恐る恐る、メルに近づいていった。
「はい」
イーゼルは頭を下げる。
「あなた、病を持ってるわね?」
「え?は、はい」
この老婆は、病気のことも分かるのか?
「あなたの名は?」
「イーゼルです。魔女のイーゼル」
「イーゼル、あなたの病気は何?」
「狂鬼病です」
「ああ、狂鬼病ね。治せるわよ」
「えっ?」
あの老婆、イーゼルの狂鬼病を治せるというのか?
「あの冒険者の男の子にうつすことが出来るのだけど、もしあなたが狂鬼病を治したいと思ってるなら、あの冒険者の子と戦いなさい。勝てばリューイチ君に狂鬼病をうつす魔法を使える資格を持てるから」
なんだと?
俺とイーゼルが戦わなければならないのか?
それに、イーゼルが俺に勝てばだと?
何て理不尽な条件だ!
「でも、リューイチは、わたしの大切な人です」
「あなたは以前、占いか何かで、あのリューイチ君と戦う運命であると言われたはずよ?」
その占い、前にダ・ガールで料理対決の時のことだったんじゃないのか?
まぁ、おかしいとは思ってはいたが‥‥‥。
「リューイチを傷つけられませんし、リューイチに勝てるなんて無理です」
イーゼルはああ言うが、本当は狂鬼病は治したいのだろう。
そのためには俺が代わりになってもいいということだ。
俺なら大丈夫だ。
病気ぐらい引き受けてやるよ。
「イーゼル、ありったけの魔力で俺を倒せ!そして狂鬼病を治すんだ!」
イーゼルにとっては究極の選択だろう。
それでも俺は、それを受けることにした。
読者の皆様に幸あれ!!




