第三百三十一章・クラ・ナーアの現状
今日は寒いですね。お体にお気を付けくださいね。
第三百三十一章・クラ・ナーアの現状
俺たちの馬車は、コマドリが手綱を取っていた。俺とルルチェとアビゲイルの三人が車に乗っている。
やがて馬車は、街道とはいえ、ガタガタ道に入ってしまった。
整備されていない道路だ。
「ここ、道が悪くないか?」
俺の感想に同意するルルチェ。
「そうね。街道にしては道が悪すぎるわ」
「アビゲイル、本当にこの道で大丈夫なのか?」
アビゲイルは、さも当然という顔で、言った。
「これでいいんだ。どうせずっとほったらかしにしているだけなのだから」
どういうことだ?
「冒険者たちよ、これがクラ・ナーアの経済事情なのだ。街道を整備するお金も無いんだ」
アビゲイルは続ける。
「アビーが生まれた時から、この国は枯渇し、富を知らない土地なのだ。お前たちには分からないだろうが、この国は豊かさを知らない国なのだ」
「だからアンジェリカ・プラットは併合をしたがっていたのか」
「それは当然、知っているだろ?」
「そうは聞いていたが、ここまでとは‥‥‥」
「この先、もっと貧しいものを見る羽目になると思うぞ?」
「それはキツイな」
「富める者が、いかに貧しい者を蹂躙しているか、それをその目で見るがいい」
「蹂躙だと?」
「そうだ。この世界での少ない資源を、先進国がほとんど取り上げて、貧しい国の上に立っている。それを知らずして、何が正義だ?」
アビゲイルの口調は強くなっていた。
「強い国はそうやって弱い国を蹂躙してからのさばっているのだ。アビーにはそれが許せないのだ。州知事も同じ気持ちでおられた」
俺たちが悪いのか。
「どの国も悪いわけではないだろう?食糧支援も受けないままなのか?」
「そういう物資の援助は、ほぼ国の王都が持っていってしまうんだ。下々には行き渡らない」
「おいおい、それって、国が悪いんじゃないのか?」
「確かに援助を求める人たちに物資が届かないのは、政治が悪いのかもしれないが、もし併合すれば、州知事は絶対に平等な社会を作ってくれるはず、だったと思う」
「そういう事情か」
「そうなのだ!州知事は女犯三羽烏のひとりに数えられているけど、根っこの部分はちゃんとした政治を行う良き政治家なのだ」
複雑な国家なのだなと、俺は思った。
でも、イーゼルを拉致したのは許せない。
それはそれ、これはこれだ!
貧しい村を、街道から見ていったが、クラ・ナーアは本当に荒んでいるようだ。
これが国なのか?
まぁ、アビゲイルが親切丁寧に教えてくれたからこそ、この国の現状は分かったのだ。
農村地帯では、国家と呼べる様子は無かった。
俺はアンジェリカ・プラットを誤解していたのかもしれない。
でも、イーゼルを人質に取ったことは、正当化出来ることではない。
それも強く思った俺だった。
読者の皆様に幸あれ!!