第二百七十八章・風邪っぴきの仲間たち〈後編〉
良ければ感想やレビュー、ブックマークをください。励みにします!!
第二百七十八章・風邪っぴきの仲間たち〈後編〉
「一晩眠れれば、明日には元気になっているわよ」
その医者は、俺にそう言った。
俺の部屋で、宿の人が作ってくれた、温かいスープを飲みながら、話す。
「あなたたち、旅の人?」
「はい。冒険者のリューイチです」
「冒険者‥‥‥。なぜこのご時世、冒険なんてやっているの?」
それ、いつも訊かれるな。
「魔王がいないのにって言うんでしょう?」
「それはもちろん、そうよ。わたしも旅の医者だけどね」
「旅をしてるんですか?」
「ええ、そうよ。これがわたしの天職だから」
旅の医者って、なんかすごいな‥‥‥。
「俺たちは魔王がいなくなっても、また新しい冒険に出会えるまで、旅をするだけですよ」
もう、冒険やめたとは言わない。冒険は、探せばあるのだから。
「そう。疫病、飢饉、戦争。魔王がいなくなっても無くならないことが、人間の間には多過ぎるからね」
「そうですね」
「おそらく、魔王がいた時の方が、世界はもっと簡単だったのかもね」
「なるほど」
「ケガや病気は治すことが出来る。それだけを極めんと、わたしは世界を転々としているのよ」
そう言うと、スープを飲む医者。
「あ、まだ名乗ってなかったわね、リューイチ君」
「はい」
「わたしはリドア・テールス。職業はもう知ってるだろうけど、医者」
「本当に助かりました」
俺は頭を下げる。
「いいのよ。むしろ、こちらの方が医者として、病気の治療が出来て、嬉しいわ」
「そういえば、注射してましたね」
「ええ。エルフが薬草を採って来て、それを風邪の薬になるよう調合したものを注射したの。お値段はけっこうするけど」
「あ、払います。いくらですか?」
「900リールだけど、キリがいいから1000リールにするわ」
あ、この人、ちゃっかりしてる。
でも、旅の医者として、すぐに診てくれた借りもあるし、そのくらいは、はずんでやるか。
俺は自分の財布袋から、代金を払った。
「どうもどうも!わたしってちゃっかりしてると思うでしょ?」
俺はギクッとした。
何で分かった?心を読まれたか?
「このくらい、ちゃっかりしてないと、旅の医者はやっていけないのよ」
なるほどな。生活があるもんな、確かに。
商売事にも強くないといけないということか。
「もう部屋に戻るわ。あの子たちは明日の朝、軽めの朝食を取らせるように、宿の人に言っておくから」
「助かります!」
「いいのよ。あなたも風邪には用心してね」
「ありがとうございます、いろいろと‥‥‥」
「お金はちゃんと、もらってるから」
医者のリドアは、ウィンクした。そして、部屋を出ていく。
翌日、イーゼルたちは気分よく起き上がった。三人とも元気だ。熱も引いたみたいだ。
「旅の医者が来てくれたから良くなったんだ。お礼を言いに行こうぜ!」
俺はそう言ったが、リドアは、もうすでにチェックアウトしていて、いなかった。
旅の医者というのは、そんなにも忙しいものなのか、それとも‥‥‥。
お礼を言う暇を与えない潔さが、彼女を強くさせているのかどうかは、分からなかったが、良い出会いだったようだ。
三人が風邪を引いたから出会えたのだからな。
読んでくれる人たちに感謝です。幸あれ!!