第百九十六章・俺は男だけど、仲間の三人の方がよっぽど怖いぞ?〈前編〉
シア・ラースの話は今後も出てきます。女性の方に特に読んで頂けたらと、思います。男尊女卑は現代でも根強いですから。
第百九十六章・俺は男だけど、仲間の三人の方がよっぽど怖いぞ?〈前編〉
翌日、シア・ラース王朝から来たシア・ラース・ア・リストレア姫が、城下でステージの上に立ち、大きな声で演説を行った。
「皆さん聞いてください!わたしたち女性は、男性の横に座るものです。決して並んで座るものではありません!男性が座ったところに女性が座るものなんです」
いいのか、あんなこと言わせておいて。
俺は何だか不安になってきた。
「女性が男性の真似をして、社会進出?馬鹿馬鹿しいです、それは!それは男性が女性に対して配慮してこその社会進出で、男性失くして女性の社会進出はあり得ないのです。そこからもう、女性は男性に依存しているのです!戦争をして戦ったのは誰ですか?男性です。平和な秩序をわたしたちにくれたのは?もちろん男性なのです。世界にある少ない資源を奪い合って、わたしたちに届けてくれるのは、誰でしょう?男性です」
おいおい、いいのかよ、そんなこと喋って?
俺が女子なら怒り心頭だぞ!
まぁ、俺は一応黙っておくけど‥‥‥。
「この城下を造ったのも、男性です。力仕事や危険な作業を率先してやってくれたのは?当然男性なのです!家を建てた大工は?男性です!危険な狩りをしてくれているのは?男性でしょう?泥棒を捕まえるのは?警察機構です。皆男性です。世界の秩序を守っているのは?男性でしょう?その恩恵で社会進出という建前の中で、仕事をしているのが女性なのです!」
冒険者には女性もいますよ?
ブーイングが起こらないか、俺は心配だ。こんなこと言わせて、怒らない女性はいないだろう。でも、それでも黙って話を聞く民衆たちだった。
「男女参画政策など、馬鹿馬鹿しい!男と女は違うのです!女性の皆さん、男性を称えましょう!そして男性に従い、女性としての本来の幸せを手に入れるのです!子を産んで、育てて、男性を支えましょう。それで愛を勝ち取れるのです!それでみんなハッピー!ハッピッピー!!」
超アホらしい話だが、それでもこの世界は、男尊女卑が強い社会なのだ。
男は強く、女は優しくがモットーなのだ。
こんな世界に俺は来てしまったということか。
反論するだろうと思っていたルルチェやイーゼル、コマドリたちも、静かだった。
こんな時、反論するのはあの三人だろうと思っていたからだ。
怒らせたら怖い三人だからな。
まぁ確かに、歴史的に見ても、男女同権なんて、歴史が浅すぎるとは思うが、この世界でもそういう考えはあって当然ということか。
こいつは辛辣だなと、俺は思った。女性は怒っていいと思うぞ?
人種差別に女性差別、いや、これはこの世界では皆、納得して生きているのだから、差別とは思ってないのだろう。
時代が古すぎる‥‥‥。
まぁ、確かに俺の世界でも、コンピューター作業や事務仕事などもあるが、実際に会社というものを作ったのは誰だ?椅子やテーブル、パソコンを作ったのは誰だという、根本の話になってしまう。
子供を産めるのは女だけだから、子供を産むことが女の仕事と言われているのは、何を隠そう、俺のいた世界でも、ほぼ同じなのだ。
それほど女は認められていない。それが今の社会というものなのだ。
レディースデーや女性専用車両なども、男が女性に対して配慮したもので、女性がそれを作ったわけではないのだ。
でも俺の信じる仲間たちも、みんな女性なのだから、女性は本来強いということを主張したい。
イジメを受けて、苦しませてくれた女子たちに対しても、俺は恨みはしたが、それでも多くの女性に自分の生き方を模索してもらいたいと、考えてはいる。
こんな息苦しい世界など、変えちまえ!
イーゼルたちは、笑ってリストレア姫の演説を聞いていた。たぶん、あの三人は心に余裕があるのだろう。俺なんかよりずっと強い。
そしてダ・ガールの女たちも心が大らかなのだろう。
演説の最後らへんは、もう皆、しらけていた。
こうなると、ダ・ガールのみんなはもう、分かっていたのだろう。
リストレア姫の侍女だったのだろうアイラと、その姉がステージに立ち、「もうそろそろお時間が‥‥‥」と、声をかけていた。
長い演説は終わりを迎えた。
あの姉妹も、小さい頃からああいう教えを叩き込まれて育ったのだろう。
今なら分かる。
しかし、あんなに俺を、イジメで苦しめた女子も、大変なのだなと思った。
俺のように、女子を恨んでいる男からしたら、いろいろ思うことはあるが。
それでも、この世界に来てからは、女子の強さは、計り知れないと、俺は思うようになった。
世の女性たちは、女性たちで生き方を決める時が来ているのだ。
今がその時だ!
それをちゃんと知ることだな、シア・ラースの姫よ。
自分も含めて人間は、心のどこかで男尊女卑の気持ちを持っているものです。それを洗いざらいぶちまけて、そこからスタートしようと思ってます。なので、しばらくこのエピソードにお付き合いください。