第百九十四章・シア・ラース・ア・リストレア姫の来訪。
ここからジェンダー論が出てきます。エピソードで一度は触れておく話ですので、女性の読者の人たちにはいろいろ思うことがあると思いますが、この先のどんでん返しまでお付き合いくだされば幸いです。
第百九十四章・シア・ラース・ア・リストレア姫の来訪。
ケイトは、ヴァンパイアキラーのリュクタアールを撃退した功績を認められ、ダ・ガール城に招待された。実際に負かしてしまったのは、ミイラのシーイだったのだが。
俺たちとともに王の間に案内されるケイト。すごく緊張しているようだ。
最初はケイトもかなり嫌がっていた。
まぁ、世捨て人のように300年以上も生きてきた彼女には、今さら大衆の前に出ること自体がストレスなのだろう。リュクタアールがやって来た時よりも緊張が強いのかもしれない。
戦いが終わって、静かになってからも、ヴァンパイアキラーの死骸には狂犬病があるかもしれないので、慎重に死骸を纏めていた。最後に全部、火で焼かなくてはならないので、そこはイーゼルの火炎魔法で手伝ってもらうことにしたようだ。
戦争はいちいちだが、後始末が大変なのだ。これぞ、戦争の現状なのである。
今回、誰も死なないで、生き抜いた。それこそが本来の完璧な勝利なのだ。
ケイトには、ダ・ガールから鍛冶職人としても、錬金術師としても、その研究費用などや資金に、報酬として全面的に援助金が出されることを約束された。
そこまでしてやっていいのかと思ったが、それでも彼女は報酬を受けることが出来たのだ。
* * *
俺たちは翌日の昼、『ガルーダの食堂』へと、ランチを食べに行った。
出てくるのはパスタやサラダだ。
ルルチェはゾミースープがよほど気に入ったのか、注文して、飲んでいた。豆腐や油揚げが欲しくなるだろうと、俺は思った。
まぁ、豆腐や油揚げはここには無いが、この広い世界だ。どこかにはあるかもしれない。
みそ汁があるくらいだからな。
「そういえば、今日はダ・ガールにシア・ラース王朝からリストレア姫がやってくるそうね」
ジェイドおばさんが言った。
どこからそんな情報が?
「シア・ラースね!ここより西の王朝よね」
ルルチェが言った。
「何しに来るんだ?」
俺は訊いてみた。
「どうせ、女性の扱いについての講演会でしょ」
「ほう。女性の扱い‥‥‥ね」
ジェイドおばさんも話に加わる。
「シア・ラース出身の女の子が、たまにこの店を手伝いに来るわ」
「へー」
「あの王朝は、男性が偉くて、女性はただ男性に従っていれば良いという考えが強い国なの」
なんか、前近代的だな。
それで、女性は満足しているのだろうか?
「国を挙げての風習らしいんだけど」
ジェイドおばさんはため息をつきながら笑った。
「それ、風習なのか?」
俺は訊く。
「女性は社会に出てはならないのよ。女性に進歩というのが認められない社会ですからね。女の将来は男性によって決まるのが常なの。男女の同権がなく、人間として女性が扱われないし、男性にとっての恋愛や結婚のための道具でしかないのが、シア・ラースの女性たちなのよ。だから、女性の主張などは絶対に認められないし、そんなのはほぼ無いの」
聞けば聞くほど、昔の時代の考えだな。
「そういう国の姫が、今日この国に来るんだな?」
「そう。シア・ラース・ア・リストレア姫よ」
情報通なおばさんだなぁ。
俺たちには関係ない話かもしれないが。
古臭い考え方を超えるためにこういうエピソードを書こうと思いました。しばしお付き合いください。