第百六十五章・寺院のバイブルとは?
今日も病院に行っていたので、更新が遅れました。スミマセン。
第百六十五章・寺院のバイブルとは?
この寺院に来た理由は、ルルチェにある。それは忘れてはいなかった。
「ルルチェは賢者なのですよ。彼女がここへ来たがったんだよ」
俺はルルチェをアルファに紹介した。
「初めまして、ダ・ガール・フォー・ルルチェです」
ルルチェは前に出た。アルファの前に立つ。
「あなた、ダ・ガールの?」
「はい、姫です」
「ダ・ガールのお姫様が賢者とはまた、酔狂ですね」
ん?アルファはルルチェを挑発してるのか?
ルルチェは表情を変えない。だが、心の中は分からない。
「あなたはなぜ、賢者になられたのですか?」
「いけませんか?」
「いいえ。でも動機は不純のようね」
「不純?」
「あなたは大賢者の方に拾われたのですね?」
「いいえ、自分から弟子入りしたのです」
「ご結婚のお話が突然来られて、それに抗うために城を出たのは良いが、行く当てが無くて、さまよっているところを大賢者と出会い、そのまま弟子入りした、それで間違いはありませんね?」
「な、なぜそこまで知っているのですか?」
ルルチェの顔が青くなる。
「その大賢者様も、この寺院に来られたのです。十年ほど前にですけど」
ニッコリと笑みを見せるアルファ。
ルルチェは試されていることが、分かったようだった。
俺もそれには気付いたが。
「あなたはまだ、若くて経験も未熟。それに無鉄砲なところもある。それで賢者を名乗られているのですね?」
このセリフはキツイんじゃないだろうか?
俺は心配した。
「あなたは自分をかえりみず、他の誰かを救うことができますか?」
「そ、それは‥‥‥」
「この世界はいつでも混沌としています。真の平和には程遠いといつも思うことです。魔王はいなくなってしまいましたが、それで平和が訪れたと思ってはいけません。いいですね?」
「わ、分かってます」
「人間の邪悪さも知ることです。人間同士の争いが絶えないのは、魔王の支配よりも厄介なものなのですから」
「そうですね。領土争いも絶えないですし」
「戦い方はだんだんと近代化していってるのに、その戦いの理由や原因は、もっとプリミティブなものです。それが人間だということを知るべきです」
「はい」
それを聞いた俺は、いろいろと、前世のことを思い出した。
なぜイジメは起こるのだろう?
クラスで「矢島龍一をイジメるか、否か」という議題で、ホームルームが費やされたことは、俺の中でも異色のホームルーム体験だった。
当然、担任の先生も参加したが、俺の被害妄想なんじゃないかと言われた意見もあったのだ。
今となっては異常なことだ。
俺はルルチェを信じることにした。あいつは俺を裏切ったりしない。
もちろん、イーゼルやコマドリも、その辺はお互いを信じているであろう。
「ルルチェ、あなたは良い仲間に恵まれましたね。その人望こそが、信じるに足ることなのです」
「わたしの仲間?」
「ええ。あなたの人生は多くの人が関わっているもの。そしてあなたが他人の人生に関わっているということ。それを忘れないで」
少しの笑顔の後、ルルチェは「はい!」と、強く言った。
「人間の不幸は、あって当然。でもその不幸を乗り越えるべき試練と考えるのなら、自ずと自分を高めることが出来ることとなるでしょう」
「ありがとうございます。すべてお見通しだったということですね」
「そうです。あなたはこの寺院のバイブルを受け取るにふさわしい。バイブルをあなたに差し上げましょう」
そう言うと、アルファはローブのポケットの中から小さな書物を取り出すと、ルルチェに渡した。
バイブルを受け取るルルチェ。
あれがバイブルなのか?
俺はその小さな書物を覗き込んだ。
それに気がついたルルチェと、中身を見た。
何も書いてない。
「これは‥‥‥」
アルファは、笑顔で「その中にはあなたが自分で書くのです。そして、自分なりのバイブルを作るのです。それは唯一無二のあなただけのバイブルとなるでしょう」と、言った。
結局、脳みそ全部預けるのが宗教ではないというのか。新しい考えや、行い、それに生き方はそれぞれだということなのか。
俺は、いや、ルルチェもそのことに気がついた。
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