第百五十六章・峠の茶屋での会談
ミスコンは、楽しく書いていましたので、読者様の反応が気になります。
第百五十六章・峠の茶屋での会談
俺はミスコンの翌日、着替えをのぞいてしまった女の子たちのところへ行って、詫びを入れた。皆、俺のケツに一発、蹴りを入れた程度で許してくれた。
うむ。気っぷの良い人たちだ!
俺はセクハラの罪で訴えられることを覚悟していたのだが、このダ・ガールの若い女性たちは、ただ笑って、蹴り一発だけで許してくれる。まったくすごい女性たちだ。
「でも、選ばれたのが、あのリンゴ売りのアリサってのは意外だったねー」
と、口をそろえて言う女の子たち。
「あの子はダ・ガールでも最もシャイな子で、勇気を出してミスコンに出場したらしいからね。今はダ・ガールでも人気者だよ」
へぇ、そうなのか。それは意外だ。
もっとも、俺のパーティーにも、イーゼルというシャイな子がいるのだが。そういう子ほど、勇気があるのかもしれない。いや、自分に自信がないからこそ、自分を変えたいと強く思うのだろう。
俺もイジメに遭ったからと言って、自分を弱いとかは思ってなかった。不登校になったのも、クラスにいてはダメだという理由で、学校を放棄したのだから。何せ、集団無視は殴られたり蹴られたりするよりも、よっぽどひどいのだ。心を壊される。
そこから逃げても、逃げた内に入らないのだと思う。
まぁ、逃げだと思う人は多いだろうが、そういう連中に限って分からないのだろうな、人の痛みってやつが。
俺はダ・ガールの城へと戻っていった。
* * *
午後になって、俺は魔族のロリっ子、ベアトリアースに呼び出された。
「どうしたんだ、今日は?」
「リューイチ、わたくしは出掛けたいのですが、誰か監視役が付いてないと、ひとりではダ・ガールの外へは出られないのです。お前について来てほしい」
ああ、そういうことか。
「いいけど、どこに何の用だ?」
「魔族のエミリディアから手紙の返事が来ましてね」
「ああ、カル・デールの!」
「そうです。彼女が今、旅の途中でダ・ガールの近くの峠の茶屋を通るというので、お前に同行して欲しいのです」
「な~るほど。エミリディアと会うんだな?」
「そうです。ついて来てはくれませんか?」
「まぁ、今はけっこう暇してるし、いいぞ」
「なら、明日の昼過ぎに峠の茶屋まで一緒に。約束ですよ?」
「ああ。分かったよ。このことはルルチェには知らせてもいいか?」
「いいですよ」
話は終わり。俺はベアトリアースの部屋を出ていった。
ルルチェはそのことを、俺が話してから、自分も一緒に行きたいと言い出してきた。
ルルチェが同行すれば、俺は別に一緒に行かなくてもいいんじゃ‥‥‥。
ま、いいか。
結局、俺とルルチェが一緒に行くということで、話はまとまった。
* * *
翌日、峠の茶屋で、ホットレモンティーを注文した俺は、ベアトリアースとルルチェとともに、エミリディアが来るのを待った。さすがにここにコーヒーはないので(コーヒーは悪魔や魔族が飲むものらしいから)、適当にハーブティーとかを頼むベアトリアース。ルルチェもミントティーを注文した。
そして一時間後、エミリディアと、監視役のカル・デールの衛兵が、店に入って来た。
「よう、久しぶりだな」
俺は声をかけた。
「そっちの付添い人はあんたか。リューイチだっけな?」
「ああ。ちゃんとベアトリアースは連れて来てるぞ」
「それはありがたい!」
さて、俺とルルチェとベアトリアースの前に座るエミリディアは、真剣な顔で見つめてきた。
「お前たちはお互い、手紙でやり取りしたんだろ?」
俺が口を開いてやった。
「ああ。実はカル・デールで王室とは別の、権力者がいてな。人間なのだが」
「権力者?誰ですそれは?」
ベアトリアースが訊いた。
「王都の郊外の、かなり離れたところにある領地を治めるエクル・エスペランザという女領主が、かなり力を持っていてな。自分の軍隊まで持っているらしいんだが」
「ほう」
ベアトリアースは真剣に聞いてくる。
「そのエクル・エスペランザは、自分の領地を増やすためにたくさん、奴隷を働かせているのだ。しかもフランジータ寺院の近くで」
「フランジータって、吸血鬼のケイトがわたしにバイブルをもらって来いと言っていた、あの寺院のことね?」
「その寺院のことは知らないが、最初は男たちが、近隣の村から連れて行かれたらしい。次に女性と子供。みんな駆り出されてしまったという話だ。とにかく、その奴隷を解放してやりたい。そのために一度、そのエクル・エスペランザのところへ行ってはもらえないだろうか?」
さすが、エミリディアは、元魔族の政治家だ。ちゃんと公務をこなしているようだ。
「軍を派遣できないのか?」
俺は口を挟んだ。
「軍は再編成中で、動けない」
「それって俺たちがエトカニア騎士軍団をぶっ潰したせいでか?」
「いや、それはもう関係ない。ポラリス姫もそう言っておられたしな」
「なんか、俺たちが行くって、冒険者を利用してるな、それ」
「気に食わなかったのなら謝る。しかし、こちらではどうにもならないことがあるっていう話だ。欲を言えば、あんたらに解決をお願いしたいのだが‥‥‥これは甘えかな?」
「どうする、ルルチェ?」
俺はルルチェの方を向いた。
「いとこのポラリスの国の話としては、放っては置けない事態のようね」
「相手は領主だぞ?」
「それでも見過ごすことは出来ないかもね」
こういう時、ルルチェは正義の人となるのだ。
それを俺は知っている。
「寺院に寄ったあと、帰りに検討しましょう」
ルルチェが動くとなれば、俺たちも行かなければならないだろう。
俺はそれを悟った。
今日は整骨院に行く日なので、少し早めに更新しようと思ってます。読んで頂いてる皆様に感謝です!!