第百六章・グロル貧民街
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第百六章・グロル貧民街
俺たちはクララの案内で、貧民街に来た。ここは王都でも一番不衛生かつ、治安の悪いところだった。
至るところにホームレスの住居であるテントが張ってあった。その種類は様々で、大きなものや小さなものもある。子供や大人、男に女もいる。
スラムってのはどこでも同じだな。
生前に観た犯罪映画で、こういうスラムを描いた作品があったな。あれはどこの国の映画だっけ?
クララの住んでいるところは、ボロッちい布をかぶせた城壁の壁側にある寝床だけであった。
こんなところに住んでいるのか‥‥‥。
俺はそのそばにあるバラックにいる奴を見つける。
見た顔だ。
「あいつがタケシ‥‥‥、カンダタだ」
俺は指さした。前にボッコボコにした相手がそこに座っている。俺はあの時ほどの怒りは感じなかった。お互い転生者同士だしな。進む道が違っていただけだ。
俺はカンダタに近づいた。
「よう、久しぶりだな」
俺は気軽な感じで話しかける。
「‥‥‥」
反応が乏しかった。疲れているのだろうか?
「俺だよ。リューイチだ」
「‥‥‥」
やはり無反応に近かった。
「邪教から一気に転落してしまったんだな。少しだけだが同情するよ」
俺の方に顔を向けるカンダタ。
「俺は‥‥‥、支配されてた」
小声だが、はっきりと聞こえた。
「俺は生前、両親の支配から鬱屈していたんだ」
こいつは前世の記憶を引っ張り出してきたのだと、俺は思った。
「だから、支配は悪いことではないと、俺は‥‥‥思った」
言っていることは言い訳臭いが、それでも心情を吐露することは出来ていたようだ。
「落ちぶれた気分はどうだ?」
「いずれ、ルシフィーネ様が俺に気付いて、助けてくれる。あの人は神だ。女神なんだ・・・・・・」
いや、さすがにそれは違うだろ。何を期待してるんだ?
「お前は教団を作って、暴力でその信仰を広めようとしていた。それは間違っているぞ」
「お前に‥‥‥、何が分かる‥‥‥」
‶お前に何が分かる″ってセリフを聞いたのは初めてだ。
ドラマでよくあるセリフだな。しかも午後のサスペンスドラマみたいなやつで言うセリフだ。こういうところはドラマ風ではある。
「カンダタ、お前はそれでも間違いを犯した」
「そのセリフは‥‥‥交通事故で死んだ俺に、何も同情してない奴の詭弁に過ぎない‥‥‥」
そんなことはないと思うが。
「邪教はいずれ、潰されるモンだ」
「俺は勉強も出来なくて、学校でも落ちぶれた奴で、人をイジメること以外に面白いことは無かった」
俺はため息をついた。
「イジメられる人の気持ちは考えたことあるのか?」
「そんなの、知らん」
「だからダメなんだよ」
「お前は俺の苦労を知らない。俺は悪いことしかできないんだ」
「なぜ?」
「それが俺の生き方だからだ。好き勝手に生きていたからだとは思わない。集団で一人の弱虫野郎をボコるのだけが楽しかっただけだ」
「それはただの卑怯者だろ?」
カンダタは黙った。
「まぁ、いいさ。でも人の痛みを知るのは大事なことだと思うぞ」
「何とでも言え」
俺はもう、カンダタを相手にする気は無かった。
仲間のところへ行く。
イーゼルたちはクララのところで休んでいた。
「よう、もう用事は終わったぞ」
イーゼルは立ち上がって、リューイチのところへ来る。
「どうした、イーゼル?」
「リューイチ、この子はどうします?」
そう言って、クララの方を指さすイーゼル。
「お姉さんはまだ戻らないのか?」
「そうみたいです」
その時、ブロンドの髪をしばった、クララとうり二つの盗賊の格好をした女の子が走ってきた。
そのあとを追うルルチェの姿が見えた。
「リューイチ、その子を捕まえて!財布と化粧道具を掏られた!」
「え?」
その子はリューイチたちの間を抜けていった。
コマドリが忍者刀で、その子の目の前に突き付けて、動きを止めさせた。
「動くな!」
「邪魔すんな!アマ」
だが、その子は止まった。
俺たちがその子を囲む。
「姉さん!」
「え?この子が君の姉さん?」
俺は驚いた。双子なのにおとなしそうなクララと違い、確かこの子はセーラだったかな?
セーラはすばしっこく、勝気な性格だった。
「君がセーラか」
「お兄さん、なぜ私の名を知っているんだよ?」
「この貧民街に用があって、妹さんに案内させてもらってたんだよ。その時に聞いた」
「クララが?」
全力で走っていたはずのセーラは、息切れすらしていなかった。大した体力だ。
「君は盗賊なのかい?」
「ただのスリさ。生きていくためのな」
「スリって‥‥‥クララはきちんと働いてるんだろ?」
「この王都で生きていくには、盗みか最低賃金で朝六時から夕方五時半まで休みなしで働くかだ。クララはとび職のメシを用意したり、重たい荷物を運んだり、大変な仕事を、朝から夕まで働かせられているんだ。私たちはお互い、それで支え合って生きてるんだよ!」
なるほどな。貧民街の様子が分かってきた。
「とにかく、ルルチェに財布と化粧道具を返してやれよ」
「今は盗った者の物だ」
「だめだ!」
「財布はかなり重いし、化粧道具は高価だから、これで三か月以上は生きていける」
「それでもダメだと言ってるだろ?人のものを盗んじゃいけない」
「じゃあ体でも売れとでも言うのか?」
「言ってない」
「あんたらはこの、グロルの貧民街を分かっていない!」
セーラの言葉は辛辣に響いた。
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