第九章・ドラゴンってこんなに強かったんだ……。
もう第九章までアップすることになったのか。けっこうしんどいな。でも、まだまだ書きたいことがあります。
第九章・ドラゴンってこんなに強かったんだ……。
そのドラゴンは、すさまじい声で「我が名はヴァーラント!竜の中の竜。この世で絶対的な存在なのだ!覚えておけ!!」と、叫んだ。
「今なら我を起こしたことを見逃してやろう。50年ここで眠っていたのだ。100年は寝ていたい。だから山を下りろ、冒険者どもよ」
ああ言ってらっしゃるんだ。おいとました方が賢明かもな。
チートの俺でもこの迫力にはチビリそうなんだ。
ヘタレですまんな。
俺は火口に降りて、イーゼルたちのところに来た。
「な、帰ろうぜ。戦闘するには相手が悪い。このお方は魔王より手ごわいかもしれない」
ヴァーラントは目つきを悪くする。
「お前たち、まさか我を討伐しに来たのではあるまいな?」
実はそうなんです。俺は反対したんだけどね‥‥‥。
「我は竜族の長であり、この世のすべてのドラゴンを束ねてきた。だがもう、人類が放った勇者たちのせいでドラゴンのほとんどが討伐された。我はその間、修行に修行を重ねて、魔王に匹敵する力と体躯、それに魔術と炎を手に入れた。今の我はかつての魔王より手強い。それでも我と戦いたいか?」
マジでか?こいつもドラゴンの中ではチートなんじゃないか?
いざ、戦ったら全員の身が危ないかもしれない。
というか、俺もチートなのに、まだここの世界に来てから、一度たりともモンスターと戦ったことがない。それなのに、いきなりこんなドラゴンとやり合えるとは思えない。
段階ってもんがあるだろ?その辺の山に登山に行くより先に、突然エベレストに登るようなマネだ。そりゃ、アホってもんだろ!
戦闘解除。逃げよう。
「じゃあ、帰ります。起こしてすみませんでした。サヨナラ!」
そう言うと、俺は帰ろうとした。
「このドラゴンを倒せば、経験値もドーンと上がるし、お金に変わると5000リールぐらい手に入るのよ?」
バカな賢者が、何か言い出したぞ?
この姫のルルチェが。
「やるのか、我と?」
ヴァーラントが起き上がる。
いやいやいや、やりませんよ!
俺はともかく、この三人のレベルで魔王クラスのドラゴンを倒すなんて無理だから。
俺でも勝てるとは思えない。だってまだ、誰とも戦ったことないもん。
自分のチート具合って、せいぜいイーゼルのミサイル攻撃でしか確かめてないし。
ここで命賭けて戦って、誰も守れなかったりしたら、目覚めが悪いどころじゃないし。
それにパーティーの一人は一国の姫だし、もし彼女に何かあったら俺、責任取って、それこそギロチン刑にされそうだし。
みんな、ドラゴンの怖さを分かってないみたいだ。
ヤメロ……本当にヤメロ!
その時、イーゼルが魔導書を読みながら呪文を唱えた。
ミサイルが、イーゼルの頭上に三本現れた。
「ファイアウィル!」
ドラゴンのヴァーラントは、そのミサイルを、三本ともまともに食らった。
やりやがった!
俺はあっけにとられた。
案の定、ドラゴンの体にはほとんど効いた形跡がなかった。ぼろぼろとデカいウロコが落ちるくらいで、致命傷にはなっていなかった。
ドラゴンを怒らせやがって、イーゼルめ………。
「我は竜族の末裔、ヴァーラント!今ここより目覚める!!死ぬがよい!」
ドラゴンは巨大な翼で空に舞い上がった。火口を出て、空から急降下しながら炎の塊を吐き出す。
「まずい、逃げろ!」
俺たちも慌てて火口から脱出した。火口はナパーム弾のように炎に包まれる。
命からがら俺たちはその炎をかわしたが、すぐに第二弾が襲ってきた。ドラゴンとは火を噴くが、それをさらに連発で撃てるらしい。
すごい威力の火炎放射器が二発、三発と放たれるようなもんだ。
これは避けられない。
俺は人間の盾になって、三人の少女たちを守った。
まともに炎を食らう俺。
熱いどころじゃない!これは死ぬ!!
燃えカスのようになりかけた俺を、ヒーリング魔法で回復させてくれたのはルルチェだった。彼女の対応は早かった。
もう一発食らえば俺もアウトだったかもしれない。
俺のチート能力だけでは敵わないらしい。
それほどまでにヴァーラントの炎はものすごい威力だった。
それに相手は空から、こちらの攻撃を食らわないところから炎を吐くのだ。
これでは勝ち目なんて一切ない。
「逃げろ!山を下りるんだ!」
俺は叫んだ。これ以上、焼き過ぎた焼肉のようになるのは御免だ。
俺たちはすぐさま逃げ出した。
ヴァーラントは知的なドラゴンだ。逃げる俺たちをわざわざ追いかけて焼き殺そうとするようなマネはしなかった。
ある意味助かったのだ。相手が見逃してくれたというのが正しい言い方なのだろうが、俺たち一行は自分たちのレベルの低さ、そして敵の強さを初めて実感したのだ。
うん、俺たちは弱い。確かに俺以外はレベル一桁だったのだ。
俺も、俺自身のチートが、俺だけだと全然ダメなことに気づいてしまったのだ。
ああ、アホな冒険をしてしまった。やっぱり冒険するには早過ぎたのだろう。
さ、帰ろうか。
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