悪魔契約
「はあぁ、この世界つまらないな。生きてても何の刺激もねえや。違う世界にまた転生しようかな」
赤の他人が聞いたらほぼ確実に痛い厨二病だなとでも思うようなセリフ。しかしこの男は違った。
転生...それは死んだ者がまた、新たに生を与えられる事。その大体の者はそれまでの生きていた記憶をリセットしてまた生を受ける。
そう、転生はそれまでの生きていた記憶を失って行われるもの。だがこの男は記憶を失くさないで転生を繰り返すことが出来る。理由は極端で転生の神に好かれているからだ。なんと偶然助けた猫が転生の神のペットだったと言うだけの話である。
そしてこの男、転生の回数はゆうに50は超えている。50という回数では凄さは伝わらないと思うが、平均寿命がたった20だとしても1000年も生きている事になる。この男だけで一つの歴史の教科書の半分は埋まりそうだ。
しかし、転生の神に好かれていると言ってもチートはこれまでに一回も許されなかった。ただ記憶を残してあげてそれ以外は平凡なお願いなら通るくらいだ。例えば妹が欲しいやら、リンゴの農家がいいやら、その程度なら大丈夫だ。女に好かれるとか、貴族に生まれるとかはNGだ。凄い嫌な顔される。
「ただなぁ、普通に敵がいる世界でも平凡にしか生きれないからなぁ、何かチートがやっぱり欲しい。いっそこの世界で爆破事件でも起こして自殺でもしようかな」
まあ流石に爆破は周りに迷惑をかけすぎるからやることはないが、何か...何か...やはり神様からチートを、、、あっ、凄い良いこと思いついたわ。
『悪魔呼び出して命差し出して自殺しよう』
べつにタダで死のうってわけじゃないさ。
そうと決まった俺はすぐ行動をした。悪魔を呼び出す儀式のために自分の血を集め、それだとかなりの時間がかかりそうだから他の人の血も集め、それでも足りないので今度は動物の血も集めた。
そして行動を始めてから二週間後、ようやく全ての材料が揃った。まあ集めた材料じゃ呼べるのは冷徹で卑怯な悪魔が殆どなので、正直成功するかはわからない。いい奴が来たら当たりだ。もしかしたら願いは叶えずに俺の命だけを持っていくかもしれない。まあその時はその時で普通にいつも通りの転生をするから特に問題があるわけではない。
さあ、始めようか。まずコップを用意してコップに沸騰した熱湯を入れる。その熱湯の中に今度は自分の血を2、3滴垂らす。そしてこの二週間集めに集めた血を自ら被る。全身が血にまみれてるが気にせず作業を進め、被った血を使い部屋の床に召喚紋を書いていく。
「よし、後はコップの中を飲み干せば終わりだな」
召喚紋を書き終わった俺は躊躇もなくコップの中の液体を飲み干した。まあこの手の悪魔召喚も三度目だ。流石に慣れる。最初は上手くいって、確か2回目は召喚後すぐに殺されたんだっけな。懐かしい。
頭の熱に呼応して、ずん、と辺りが暗くなる。部屋の中なのにまるで外の暗闇にいるみたいな感覚だ。これは、来るな。
『お前が私を呼んだのか。召喚の契約に誓い、対等な対価を差し出すのであればこちらも願いを叶えてやろう』
出て来たのは黒い皮膚に黒い髪、そして白目もないこれまた黒い眼。ずっと見てると気分が悪くなりそうなまでのハッキリとした黒。
それにしても対等な対価、ね。こいつらはそう言うが最初から最後までずっと足下を見るような奴らだ。悪魔の名に全く恥じない奴らだ。だからこそ、見る足下すら無くす為に初手から俺が出せる最高のものを差し出す。今回で言うならば...
「俺の命をくれてやる」
『ほう?自らの命を差し出すと言うことは、そんなに殺したい奴がいるのか?』
「いや、俺が望むのは力だ。どの世界でも誰にも負けない順応力を持った力を望む」
『命を差し出す対価としては少し多すぎるな。それに力を手にしてもお前は、』
「関係ないな」
ああ、俺には全く関係ない。なんせ今世はもうどうでもいいのだから。にしてもこの悪魔当たりだな。いい奴だ。
「多すぎると言うならば何か特典やらおまけやらでもそちらの善意で適当につけておいてくれ」
『くはは、面白いやつよ。悪魔である私に善意で任せるとは、頭がトチ狂ってるやつよ。良いだろう。その願いを叶えてやろう』
悪魔はそう言うと俺の額に手をかざしてブツブツと何かを唱えだした。それと同時に身体の奥から力が湧いてくるも、またそれに比例して意識も遠のいていく。
上手くいくといいな、、、、、、
俺の意識は完全に闇に消えた。