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魔法なんて要らない、くそ喰らえ  作者: レイア
夏休み ‐序‐ ver.1.0.2
3/10

003 取り敢えず戻ろう、いや急いで戻ろう

 本気を出して何かに挑んだ経験は、自分の場合はあまりない。せいぜい3才の頃に、ドイツ語とフランス語を勉強しようとして辞書を睨んだ時くらい。何故勉強しようと思ったのか、今でも分からない。ただ、これは言える。

 あの後お婆ちゃんに褒めちぎられた。今は食べられない、美味しい찰떡を沢山作ってくれた。

 んでもって、辞書は1年かけて読み切った。苦行でしかなかったけど、あのお蔭で、英語イタリア語スペイン語ラテン語ロシア語はすぐ覚えられた。10言語覚えても、使う場所なんてないけど。


 無駄な回想は止めて今度こそ寝よう、そうしよう。

 って、駄目!! (かおり)のこと放り出しているじゃん!! すぐにでも起きなきゃ!






 ……目が覚めた。見慣れない天井が視界に入る。そう言う自分はベッドの上で寝そべっている。

 どうやら保健室のようだ。なお、養護の先生はお出かけになられている模様。

 カーテンから漏れる光から判断するに、今は11時半くらい。魔窟入りしたのが9時頃だから、だいぶ寝落ちしている。

 馨は何しているんだろねー。気になるねー。途中で放り投げた体になっているけど、もしかして帰ってしまったかしらん。

 そろそろスクールバスの第1便が出る時間だし、帰ってもおかしくはないよな。申し訳ない。

 しかし、そうだとしたら、鞄はどうなっているんだ。見る限りベッドの横にもないし、取りに行けと。

 後輩を放置した罰としてそうしろと、なるほど。よし、取りに行くか。







 10分経った。まだ動けない。徹夜続きの所為で、体にガタが来たらしい。首から上しかまともに動かない。困った。

 まだ養護の東江先生は帰ってこない。いた所で、声が嗄れてカーテン越しで相手に届かないけどさ。

 隣に生徒がいる様子もないから、万事休した。真面目に困った。

 やることも特にはない。ぷよぷよでも積もうか。

 ところで思ったけど、「アルマゲドン」とか「シルベスタギムネマ茶」とか言っても通じないような。うーん。

 まだパン4円の方が有名か。会計52円です!

 さて、ぷよネタなんて通じないほうが普通なので、この話はここで止めておいて。

 これからどうしようかな。本当に何しよう。

 軽く悩んでいると、保健室のドアが開く音がした。


「はあ、疲れる。私、何やらかしたと言うの。ちゃんと人命救助に貢献したじゃない。カフェインは別に違法でも何でもないってばのに、あーあ、あの理事ぶっ飛ばしてやりたいわ、全く」


 聞いても得しない悪態を吐きつつ、先生が入ってきた。

 うーん、実際に一発ぶちかましたらいいと思うんだけど、どうでしょう。

 ともあれ助かった、これで鞄を取れる。

 声が出ないから、頭を枕に打ち付けて音を出す。


「あら? 起きたの?」


 起きていますよー、だから助けて下しあ。


「ごめんなさいね、理事に捕まってて持ち場を離れてしまったわ。責めるなら、理事にしてちょ」


 先生はそう言いながらカーテンを開けて入ってきた。

 あーうー、うん。何でもいいから助けてちょ。


「――光莉ちゃん? それとも光莉さん? まあいいけど、あなた相当無茶をしていたようね。馨ちゃんから聞いたわ。しかも声まで嗄らしちゃってるし」


 痛い。ペン先で手の甲を攻撃するのは、止めて欲しい。

 そして、できればちゃん付けじゃない方でお願いします。知っていて弄ってくるのは、流石に嫌です。


「感覚はあるから、単に筋肉痛かしらね? 普段動かないからよ」


 動かないということはないけど、筋肉痛するほどの無茶はまだやっていない。多分そうじゃない。


「さて? 携帯持ってる? 学校の決定で、生徒は全員帰さないといけなくなったの」


 残念なことに親が迎えに来るとは思えない。この時間だとどこかに出かけている。畑でも見に行っているかも知れない。そんでもって自力で帰れなければ、またとやかくうるさい。

 しかし、そうか。あれ程の事件があったら安全確保で、そりゃ生徒を家に帰すわな。号外で報道されているだろうから、お姉ちゃん、これ知って発狂していそう。

 はぁ、益々帰りたくない。宥めるの本当に疲れるし。とはいえ。


「タクシー呼んでください」


 安全が一番優先される課題だ。

 辛うじて掠れた声でそれだけ出すと、先生は驚いた顔をしながら頷いた。

 ……変な親なのです。


「ところで鞄はどこかしら?」


 恐らく図書館奥の魔窟かと。


「図書館から馨ちゃんが運んできたということは、図書館にあるかな?」


 よく分かりましたね、先生。

 ってか、馨がわざわざ運んだの? 自分を? ……これは後で礼を言わねば。


「じゃ、もう少しくそこで待っててね」


 まあ、動けないしそうするかね。







 タクシーに乗って家に帰ると、病院で手当てを受けてきたお姉ちゃんが迎えてくれた。包帯が痛々しい。


「……4徹なんかするからよ」


 とか言いつつもちゃんとタクシーの中から部屋まで引っ張ってくれた。うん、本当にごめんなさい。


「あんた、今日は寝ときなさい。動けないし」


 はい、大人しく寝ます。







 起きた。お腹空いた。部屋は静まり返っている。

 うーん、体内時計だと22時っぽいけど、さてどうしようか。右を見るとお姉ちゃんがすぴすぴ寝ている。左には誰もいない。千鶴がこの時間まで寝ていないのはあり得んだろうし、親の部屋でも行ったか。

 寝たら体が動くようになったから、やはり徹夜が原因だったようだ。

 お姉ちゃんを起こさないように部屋から出る。1階に降りると電気が点いていた。誰がこんな時間にここにいるんじゃ。

 とか何とか思っていたら、ただの一樹だった。


 納得。


 大方、家事でもやらされているんだろう。手入れ不届きの罰として。

 見ると、シンクの掃除をしている模様。てか、遅過ぎ。あれくらい、ひょいってやって、さくってやって、くるんってやればいいのに。

 意外と不器用? 見本を見せた方がいいんかね。

 キッチンに入る。


「あ、」


 一樹に構わず激落ちくんを奪う。棚からリンゴ酢も取り出す。


「こんな感じでぽんぽんぽんってやると速い」


 言いながら酢をばら撒き、激落ちくんで水垢、(もとい)、石灰を落としていく。

 何? 酢だけでも落ちるって? 君、撹拌って知っている? 混ぜ混ぜした方が、化学反応はより速く進みやすいんだよ?

 つまり人類の経験知。無駄にはすまい、成功への道のり。


 ……何を言っているんだか。

 まあでもこの方が速いのだ。これは経験則から正しい。


「……いや、知っているけど、摩擦力の限界を知りたかった」


 ……。スマソ。


「そりゃ悪いことした、すまんの」


 今やるべきことなのか、小1時間くらい問い詰めたかったけど、しかし、よく考えてみよう。逆に今以外このようなチャンスは来るのかどうか。

 有り得んな。お姉ちゃんが全部勝手に、家事を済ませてしまうのだ。

 暇潰しと言えばそうだけど、そんな暇を潰せる機会は……うん。


「……流すか」

「ごめんね、一樹」


 結局ご飯は食べないで、そのまま寝ることにした。

찰떡(ツァルトク)とは、餡子をたねにした焼き餅のこと

甘さがとても美味しいので、是非作ってみて下しあ

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