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魔法なんて要らない、くそ喰らえ  作者: レイア
夏休み ‐序‐ ver.1.0.2
2/10

002 想定外の事態には落ち着いて対処しましょう

 そろそろ止血を始めて3分が経つ。このままでは失血によるショックで死んでしまう。


 そう思っていたところで救急車が到着した。

 急いでストレッチャーを展開しつつ、救命士さんがこちらに駆け寄ってくる。安心してここで気を抜きそうになってしまうが、最後まで集中を切らさない。

 ここで東風平先生に亡くなられては、今後の数学科の立場がきつくなる。カリスマ講師が1人でも抜けると大事だ。それに、個人的にはお世話になっている。


 東江先生がどのような処置をしたのか伝えると、救命士さんがプロの手捌きで東風平先生をストレッチャーに載せていく。そして、


「大丈夫。適切な応急処置でしたので、きっと助かります」


 と残して病院まで搬送していった。

 その様子を見届け終わると、暫く放心状態になった。気付くと汗まみれになって、口の中が乾いていた。珍しい事に、この自分が緊張したようだ。息も上がって肩で呼吸している。

 そのまま床の上にペタンと座り込んでしまった。疲れた所為で目も開けられない。


 ああ、もう寝たい。風呂とかどうでもいいから、ここでこのまま寝てしまいたい。もう、ひたすら寝たい。

 いや、これだけ働いたんだから、これは寝ても別に問題はないだろ。よし、寝よう。須らく()べし。

 流れで意識を放そうとしたその瞬間。


「あ、光莉先輩、ここにいらっしゃいましたか。探しましたよ?」


 不意に声をかけられた。


 あのさ? 人間はね? 寝ないと死ぬ仕様ですよ? 少しくらい休ませて下さいませんかね?

 見るからに疲労困憊で死にかけていると分かる筈なのに、会話をしようとはとんだ無神経だ、見上げたものだ、素直に褒めてやんよ、ちくせう。

 よっぽど世界は自分に恨みでもあるのか、寝かせてくれないようだ。寧ろこっちが恨んでやりたくなる。

 恨み言はこの辺で止めるとして。わざわざ相手から出向いてきたんだから、応答しないとな。


「声から判断するに、さては貴様、(かおり)だな?」

「馨以外の誰がいますか?」


 ……。目を開けるのがだるい。試しに床をぺちっと叩いてみる。

 反射音が遠い。なるほど、時間が経って皆どこかしらに行ったんだな。そりゃ馨以外に誰も自分に声を掛けてくる訳がないな。

 まあ……、誰も自分に声を掛けてくれなかったのは、頂けないけど仕方ないね。


「うっわ、酷いお顔ですね。返り血と隈が酷いですよ?」


 放っとけ。


「いいでしょう、馨が代わりに拭いてあげましょう」


 それは是非とも()めろ。お前のハンカチに化粧が付いてしまう。

 急いで自分のハンカチを取り出して、自分で拭く。拭きながら、


「気持ちだけ受け取っておくのぜ」

「……」

「本当に、どうしようもなく、困ったときだけ頼んだのぜ」

「はぁぃ……」


 残念そうな雰囲気を醸し出すな。戦時中でも職務でも何でもないのに、好きでもない相手にする事じゃない。

 首周りも拭きながら立ち上がって鞄を手に取る。流石に目もきっちり開ける。


 さて、と。

 馨後輩は自分を探したらしい。

 恐らく、理由は部活だろうな。

 東風平先生の一件の所為で流され掛けたけど、自分は、講座のため、だけじゃなくて部活もあって、登校してきた。

 その途中、スクールバスの中でLINEの部活グルを開き、重要な連絡事項だけ覗くと、


『中學貳年生は、入部試験の監督と()て質問對應(たいおう)()たれ。吾は暑い沖縄()り離れて、弌層(いっそう)暑いドバイ迄出掛ける。又、以上を理由に部活をS(Small)O(Office)H(Home)O(Office)形式に()る。(サーバー)の用意は()て置いたので、各自励め。』


 何ともコメントに困る部長命令が下されていた。先ず以て漢字が読み難い所為で、内容以前に読む気を大変に削がれる。

 さて措いて、ソーホーと言うことは、学校に来る必要はない。要は家で部活できるからだ。

 ところが、自分を含め、中2は試験監督として学校に来ないといけない。七面倒なこった。


「……」

「どうした? 自分、何か変? 化粧崩れていたり?」

「いえ、何となく体がふっと軽く感じましたので。今もですけど」

「ガハラさんかな?」

「あれは怪異の被害者ですし、細かい所でも違うので、別物と思いますが」


 確かに比較対象としても如何なものかと。

 それにしても、馨も隈ができている。薄化粧で隠しているようだが、自分の目は誤魔化せない。何せ、自分もやっている。

 大方徹夜で入部試験をやっていたんだろう。

 あ、もしかして、ハイになって体まで軽く感じるようになったとかかな。だったら末期じゃん。


「それより、早く図書館行きましょう」


 せやね。

 どうせこの後輩は止まらない。そんな柔な奴ならとっくに音を上げる。








 図書館の奥の奥。通称、魔窟。

 魔窟の入り口にはアニメ絵の描かれた暖簾が垂れている。

 暖簾を潜って中に入ると、大量の、売れば合わせて1300万を下らない機械の空間が、熱を出している。


『IT技研』という部活の総本山だ。

 そしてこのIT技研、設立が1986年。今年で設立29周年。

 校内では比較的歴史は浅いが、伝統的に入部試験がある。試験内容はと言うと、ユーティリティーソフト1本と、ウイルスを1つ。期日までに提出するというもの。


 この課題は鬼畜だ、とよく言われる。と言うのも、期日が短い上に、ソースコード――つまり、プログラムの中身もびっちり調べ上げられるからだ。

 つまり、アルゴリズムやインターネットなどに関する、幅広く、しかも細かい知識が要求されるという訳だ。いえ、別にサーバー空間を破壊できればいいから、インターネットのあれこれは、最悪知らなくてもいいですが。

 そして夏休みの間は、二次試験としてウイルスを作って、ソースコードだけ提出することになっている。

 でもさ? あのさ?


「言い訳を聞こうか」


 ディスプレイに表示された、0()()1()()()()を指して馨に訊く。

 これは一体何なのだ、と。

 自然と疲れた声になってしまった。


「見ての通り機械語です」

「見たら誰だって分かる。別にそれ自体は咎めない、ってか、機械語は禁止だなんて、試験の要項に書いていないけども!」


 こんな、0と1だけの文字列を、しかも解釈しながら、生で読める人なんて相当に少ないぞ、おい。

 自分たちの学年じゃ、精々自分とお姉ちゃんが、辛うじて読める程度。それでもスラスラ流れるようには読めない。逆アセンブリ(内容理解)しながら読むのは結構疲れる。

 ……案外先輩たちなら、ラノベよろしくぱっぱと読めそう。


「機械語で書くって言うことは、特定のパソコンでしか動かなくなる。それだと採点対象としてはアウトだ。環境の再現が極めて難しいし。目が滑るから、せめてアセンブリで記述して。どうしても拘りたいなら、理由も提出してちょ」

「採点されないのは流石に困りますね」


 説得しても諦めなさそうな顔だった。仕方がない、好きなようにやらせてみせるかな。


「…………どうしても機械語に拘るのな……」

「はい。ですから、お願いです。機械語で書かせて下さい!」

「ああ、分かった、分かったから……。まずは離れて」


 顔が近い。


「あ、すいません」


 全くだ。


「そんじゃ企画書と一緒に、先明後日までに提出。ちゃんと仕上げ、t







 気が付くと、自分は宇宙空間をふよふよ漂っていた。

 何を言っているか分からねぇと思うが、自分でも分からん。気が付いたらそうなっていた。


「………………」


 さて困った。どうやら自分は寝落ちした挙げ句に、明晰夢を見ているようだ。

 ……あれ? まあいっか。

 しっかし、星空が矢鱈と綺麗だぜ。久茂地にあったプラネタリウムと、比較にならん。海洋博公園で投影される映像に近い。


「…………」


 何もない。あ、そうだ。試しに月にでも行こうかな。

 などと思った瞬間には、いきなり月面にいた。

 へぇ、思っていたより大きいな。てか、地平線だ。日本だと水平線はあっても、地平線なんて見れないから、何となく感動。見ていて飽きないぞ、これ。

 いつの間に月面に座っていた。

 そして、声が直接頭に響いてきた。


『そんな暇、あるの?』


 大丈夫大丈夫。寧ろ、今まで寝ていなすぎた。このまま夢の中で昼寝してもいいだろ。


『そうだったの。だったら邪魔したね』


 いや、そうでもない。人間、喋らないと言語能力は勿論だけど、脳まで退化するように出来ている。


『……』


 そう言えば、お前さん、誰?


『私? 私は……。君たちの言う所の宇宙人だね。或る用事でここまで来たんだけど…………、この分だと探し物は見つかりそうにもないな』


 あっそう。

 ……そうだ、手伝ってあげようか?


『……へ?』


 いや、自分暇だしやることないし、どうせ暫くの予定は寝ているだけだし。


『だったら、ね。私、或る人を探しているんだけどね。できれば魔法を使う素養がある人、が見つかったら教えて欲しい、なんてね』


 は? 魔法?

 こりゃまた胡散臭い。どういう目的で?


『教えてあげてもいいんだけどね、生憎私はまだ君のことを信頼できていない』


 そりゃあ、商売でも人間付き合いでも何でも、信頼が確かに重要だわな。


『そういう訳だから、申し訳ないけど教えてあげられない』


 ふーん、だったら交換条件だ


『何?』


 ()()()が望むような人を見つけたら、あなたの目的について教えてくれちょ。

 ……。

 …………。

 静かになった。返事が来ない。いなくなったのか、残念。面白そうな話し相手だったのに。


『…………考えておく』


 あ、まだいた。

 そんで? 魔法が使えるような人って、具体的な特徴はどんな?


『自己を強く信じている者。自我が滅法強い人。そういう人を探して欲しい。そうだね、もっと分かりやすく言うなら、夢を見続けて醒めない人。

 どうやらこの恒星系では第3惑星に、素質のある人が稀にだけど確かにいる』


 なるほど、分からん。


『……故郷の星が、いつ消えるかも分からない。だから急いでいるんだけどね』


 ――…………。

 …………それじゃあ真剣になるのも当然だ。よし、こっちも本気出すか。


『期待しないで待っている……』


 そこは期待して欲しいんだけど、ちょっと。

 この自分が本気出すんだよ。


『それこそ結果次第だ』


 あっそう。

 宣言しておこうか。()()()はぎゃふんと言うことになる。


『頑張ってね。最後になってしまったけど、連絡手段を伝えておこうか。「テレビス ロベイオ サーロラメッハ デゥ スレム」これ、唱えたら、私に直通でテレパシーできるよ』


 …………テレパシーとは、怪しさ満点ですな。


『分かった?』


 わまりかしたよ、全く。次に会う時には期待せず待っとけ、こんにゃろ。

白昼夢ですかね

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