伍 名前は大事
「うーん。ロッドのお勧めは星に降りる事か。チルはどう思う?」
「私も降りる方ですね。どんな世界が広がっているかと思うとワクワクします」
最終的決定権は俺だとしても、他のみんなの意見を聞かないというのはよろしくないからなあ。まあ、自分だけで決めたんじゃないんだよ…という責任逃れの部分もあるけど。
「じゃあ降りる事にするか」
「やったー!」
「分かりました」
チルはバンザイして喜んでる。ロッドは相変わらず冷静だ。
「ただし!考えられるだけの準備はするように」
そして俺は偉そうにしてみた。
降りる事を決めたが、精神的に疲れた。癒しを求めて木の間に行った。そこでは木が時折光の筋を発している。その周りをアリアンが飛んでいた。
俺が来た事に気が付くと、
「わーい、クリスだー」
と嬉しそうに飛んできた。いつも楽しそうだな。癒される。木も、先程より少し多めに光の筋を発している。
木の根元に座り背を預ける。アリアンが肩に座ってきた。
「どうしたの?」
「お前の意見を聞くのを忘れてたけど、下に降りる事にした。ごめん」
すると顔を軽く横に振って
「いいよーそんなの。下には何があるのかな?美味しいものあるかな?」
瞳をキラキラさせながら嬉しそうに笑った。
うん、フェアリーだもんな。色気より食い気ってのがらしいと言えばらしいよな。
ただそう言って、俺の気持ちを楽にしてくれてるんじゃないかと思えるのが嬉しい。結構人間?が出来てるのかな?ロッドに相談されてないから、きっとそうなんだろうな。今までの行動を見ていると首を傾げたくなるが…。
「そういえばお前、随分ここが気に入ったみたいだな」
「うん!この子と居ると、とっても楽しいよ」
そう言うと再び木の周りを飛び始めた。
この子って?これ、コンピューターだよな?本気で自我が芽生えてるのかな?
「ねえねえ、この子ってどんな名前なの?」
「名前って…木だろ?」
「うん。でも船の仲間だし、名前が無いのは寂しいよ」
アリアンはほんの少し、哀しそうに答えた。物凄く罪悪感が…。
そういえばこの手の妖精はお伽噺なんかだと、木とか花とかの植物と仲が良いみたいに書かれてるし、それに愛着のある物に名前を付ける人もいるしな。
「うーん、そうだな。なんか良い名前はあるか?」
丸投げしてみた。この木を気に入ってるみたいだし、まず変な名前を付けないと思う。…思いたい。
「クリス、なんか失礼な事考えてない?でも名前か…どんなのが良いかな?」
両手を腰に当て、頬を膨らまして”怒ってます”アピールをしたと思ったら、直ぐに両掌を幹に添えて考え始める。
もしかして本当に話とかしてる?それともしっかり考える為に手を添えてるんだろうか?まあ、害にならなければ良いか。
何も考えたくなかったので、木に凭れたまま目を瞑った。
「よしっ、決めた!この子の名前はジュリにする!」
少し眠りかけたくらい時間がたったと思うけど、アリアンの声で目が覚めた。
「お?やっと決まったか。結構悩んだな」
「えへへ、友達の名前だからねー。変なのは付けたくなかったから」
ちょっと照れ臭そうに笑ってる。
そんな様子が可笑しいというか可愛いというか…、自然に顔が綻んだ。
「そうか、じゃあ、俺は部屋に戻るな。みんなにも知らせないといけないし…」
言いつつ立ち上がろうとしたら
「もう、どういう意味なのかとか由来はあるのかとか聞いてくれてもいいのにー」
俺の目の前をふわふわ飛んで腕を組み、唇を尖らせてプンスカと怒っている。仕様が無い、フェアリーの基本行動律を分かってて買ったんだからな。
「どうしてその名前にしたんだ?」
苦笑しながら水を向けると
「んとね、ジュリのジュは木って意味が有って、リはね、花の名前なんだって。この子にピッタリでしょ」
鼻息荒く”エッヘン”と聞こえそうなくらいに腰に手を当て胸を張る。それに合わせるように光の筋が増えた。
またまた可笑しくなってしまった。
こうして中央コンピューターの名前はジュリとなった。