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メンヘラ男のセラピートラベル  作者: 神代 遥
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参 無聊を慰める者

医務室で俺は、ジャンク屋で買った程度の良いバイオドールの一体を医療ポッドの中に入れた。

中古なので性別や年齢、人格などは既に設定されている…はずだ。

まあ、見た目の性別と年齢は設定済みなのは取扱説明書で分かるが、問題は人格設定だよな。

あまりきつい性格だと、正直アンインストールして設定し直した方が良いかもしれない。

バイオドールは基本的に「人」と同じ体組成だ。違いは自然交配で生まれたか人工的に培養・生成されて生まれたかに過ぎない。

たったそれだけで、バイオドールには様々な制約が付く。

例えば主人の命令及び自己防衛以外で人に危害を加えてはけない。行政が行っている各種福利厚生を受ける事が出来ない。男女問わず売春行為の禁止等々。

これはまだ主人がいる場合だ。主人がいないと更に悲惨になる。

自己防衛そのものは認められているので反撃が出来ない訳ではないが、やはり暴力沙汰ではあるので捕まると不利になる。

当たり前だな。守ってくれる主人がいないのだから。なので厄介事に巻き込まれないように逃げるのが基本だ。運が良ければ人の良い主人に拾われる事もあるだろう。

女性タイプだと、犯罪者に捕まった後は推して知るべし…になる。尤もこれは男性タイプでも言えなくもないか。アッー!!!

…この制約は培養される時に遺伝的に付与され、更に人格設定で調整される。本能のようなものになるって事だ。

ここまでは正規品の話。

非正規品ともなれば、もう何でも有りになる。

売春用・奴隷労働用・戦闘用等々。考えると鬱が悪化するな、止めよう。


もう一体、医療用ポッドの中に入っている。

小型のバイオドールで掌に乗るくらいの大きさだ。妖精型でフェアリーと呼ばれているタイプ。羽の形は蜉蝣型。要するにペットみたいなものだ。

生成時に超小型の重力制御装置が骨格に埋め込まれており、軽い体重と相まって軽やかに飛ぶ事が出来る。

ただし上昇能力限界も有り、一G環境下では頑張っても二十メートル程だという。人格設定が怖いが、基本的に無害。のはずだ。この二体は後二、三日で起動するはず。

もう今日はストレージボックスの中身を出して、取り敢えず倉庫に保管しておくか。

「調査はロッドに任せるとしても、あとは盆栽だな。どれだけオプションを付けてあるのやら」

購入時に宇宙盆栽が残っている事は確認済みだ。

大体購入費用の七割近くが盆栽入りコアと相転移縮退炉の費用なんだから。

状態を確認する為に部屋がある居住区画に行く。別段ブリッジでも出来るんだけど、趣味の物をいじるにはブリッジでは雰囲気が出ない。

自室に入ると早速データを呼び出す。

服も部屋着に着替え、だらしなさ全開モードになる。これだよな、これ。

「恒星は一つ、惑星数は十二個。その内可住惑星三にガス惑星が四、氷惑星が二でそれ以外は固体惑星か」

派手さは無いけど手堅いチョイスだ。初心者向けともいう。

連星だと惑星管理が非常に難しく、連星の数や種類によって難易度が千差万別になっている。好きな人に言わせると、その難しさが面白いのだとか。

趣味は人それぞれなので何も言う気は無いけど、俺には解らん。

ざっと見たところ恒星も惑星も安定しているようだ。一つの宇宙盆栽としては完成の域になっていると思う。

船を売った理由に、この盆栽に飽きたというのもあるのかもしれない。星系一個亜空間から取り出すよりは新調した方が手間も掛からず安いだろうしなあ。

別の目的がある俺にとっては有り難い限りだ。この状態からが俺の目的、いや趣味になるのだから。

こうして暫くは日長一日盆栽をいじる事にしたのだった。


いくら熱中していたとしても、腹が減れば飯を食う。ここ二、三日は居間で一人で食べていたのだが…。

「クリス、クリス。ご飯美味しいね」

空色の髪をサイドテールにした羽の生えたちっこいのが、にこにこ笑いながら座卓の上でぱくついている。瞳の色は何故か金と銀のオッドアイだ。

いや、バイオドールのフェアリーだってのは分かってはいるんだけどね。

「アリアン、口に物を入れたまま喋るのは行儀が悪いよ」

こちらはショートカットの髪も目も黒い少女だ。設定年齢はおそらく五万歳くらいだろう。原種人類なら十五、六歳といったところか。

活動的らしくはきはきとものを言う。が、悪意は無いし不快感は感じない。ちょっと困った顔で注意している。

名前はチルといった。食事の前にキッチリ挨拶をされた。

「今日からここでお世話になる事になりましたチルと言います。よろしくお願いします」

きちんと正座し、姿勢良く、勢いよく頭を下げられた。

「あ、うん。よろしく」

俺も微妙な角度で頭を下げた。ちょっと苦手かもしれない…。

まあ買っちゃったものは仕方が無いし、悪い人格設定でもないようだ。どうやらロッドが事前にチェックしていたらしい。

流石はロッド、手抜かりが無いというか、痒い所に手が届くというか。

「あたしはアリアン。よろしくねー!」

ちょろちょろ飛んでいたちっこいのが俺の斜め上から突っ込んできた。

ゴン(クチャ)!!

「目がー!目がーーー!!!」

丁度目の辺りにぶつかった。俺は片目を抑えながら蹲ってしまった。目の端にはおでこを抑えながら蹲るちっこいの改めアリアンが映っていた。



チル達が変わった服を着ていたのでロッドに聞いてみたら

「セーラー服です」

と言われた。そんな服持っていなかったはずなんだが、船内の生産設備で作ったらしい。デザインは下太古時代だそうだ。

そんなデータまであるのも凄いが、見つけた方も凄いな。よくやるよ…。

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