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メンヘラ男のセラピートラベル  作者: 神代 遥
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弐 現状確認

「痛てててて…ロッド大丈夫か?」

「はい。船体及び船内チェックは終わらせました。コア及び各施設、動力炉も異常ありません」

流石代々我が家に仕えるアンドロイド、優秀だな。骨董品だけど。

「周辺状況はどうなっている?」

「救難信号を出していますが応答無し。また近くに惑星がありますので、それも調べました」

どっか田舎というか未開発の星系に飛ばされたのか?まだそれなら何とかなるんだが…。

「周辺恒星の位置及び距離などを観測した結果、現在私達は太陽系に居るものと推測します。ただし過去の、ですが」

なっ、なんだってえええええええええええええ!!!

全身でそれを現した。うん。俺メンヘラなんだよ…。テンションのアップダウンが激しいなあ。こればかりは万能と言われる医療用ナノマシンでも直せなかったようだ。

しかしロッドには普段通りスルーされた。まあ慣れだよな。

一つ咳払いして

「で、地球(仮)に降りるのか?一応人類発祥の星らしいし」

並行世界とか平行世界とか世界線とかやめてくれよ。帰り道がわからん…。ああ、でも本当に地球だったらタイムスリップか…うん。なんかどうでもよくなってきた気がする。

「いえ、いきなり降りることはありません。ある程度時間をかけて現地の情勢と植生、動物など生態や分布を調査します」

相変わらず冷静だなあ。

「分かった。俺は木の間や前回手に入れたバイオドールの起動と調整とかやっているよ」


俺はまず木の間に移動した。部屋としてはそこそこ大きいはずなんだが、全体に暗く、木にのみ光が当たっているような感じだ。

実はこの木、多重積層生体量子コンヒュータだったりする。船のすべてを管理し、またデータベースとしても機能している。

スペックとかはよくわからん。ただこれは最終タイプで、これ以上の技術革新が出来なかったそだ。

元々は世代間外宇宙探査移民船として、完全循環型宇宙船を目指していたらしい。有名なユグドラシル計画だな。

ところがある程度までは大きくなるんだが、とても計画目標には育たなかった。

目標の大きさは全長?全高?10キロだったらしい。しかもそれでも実験船だったようだ。

ここで第一の問題が起こる。

普通の木以上に育たなかったようだ。大きくても高さ20メートルほど。しかも育てば育つほどスペックが落ちたらしい。

居住スペースはおろか、全体を管理すべき木の性能が落ちてしまっては意味が無い。それ以後、性能重視に開発は切り替わっていく。

そして利用されたのが宇宙船等の中央管理コンピューターだった。

何せ設置すれば勝手に船の状態を把握し、的確に管理・保全してくれるのだから…。便利だ、という事で多くの船舶に利用されている。

ここに第二の問題が起きる。

確率から言えばまさに極僅かなのだが、木が「自我」を持っているのではないかと言われるようになった。

一つ目の証拠として、亜空間に固定してあるにも関わらず、風もないのに葉が騒めく。

二つ目として、葉がキラキラと輝き、光の筋のようなものを飛ばす。

気味悪がる者も出始め、木を廃棄し、そこに積層シリコン量子コンピューターを設置したり、廃棄処分となって、ジャンク屋に回ったりする。

今回俺が買った船もそんな船の一隻だ。売った金持ちもこの際だから船を新造しようとしたんだな。従来の積層量子コンピューターに換装してもいいとは思うんだが、やはり薄気味悪いと思ったんだろう。しかしただ廃棄するより新造船の下取りに出したほうがコストを削れると思ったんだろうな。流石金持ち。これ位ケチじゃないと金は貯まらないんだろうな。俺も見習わないといけないかな?

当然メーカーとしては迷惑な話だ。何せいわく付きだからな、買い手がつかない。

恐らく何十年か展示したら、商品価値無しとして廃棄処分にするつもりだったんだろう。

実際直営店の係留所の片隅で寂しく鎮座していた。

ただ、元は金持ちが使っていた船、内部設備は充実していた。

船内内装の豪華さ(金目の物は全くないが)や資材倉庫に亜空間を固定しての容量アップ、別途、亜空間内に設置された各種生産設備や医療設備。

各種ロボットの生産設備やメンテナンス設備。極め付きは「宇宙盆栽」と言われる一つの恒星系を丸々入れる事が出来る「コア」と呼ばれる施設だ。

完全な金持ちの道楽なのだが、ここに可住惑星を作っておけば、いざという時に避難場所として使える。勿論普段は客を招いて自慢したり、自分たちのレジャーの為に使ったりする。

俺はこれを一目で気に入った。というか憧れの品だ。色々木の事を説明されたが半分上の空だ。どうせ航海を始めれば船と船員は一蓮托生。逆に自我があるなら、危険な時に自分も助かろうと必死になるんじゃないかな?とか考えてしまってたし。

そんなこんなでこの船を買い、動力炉として相転移縮退炉と換装した。まあ、枯れた技術とまでは言えないけどきちんと運用実績は出ているし、何より最大出力は測定不能。

そして燃料の補給がいらない。俗にいう永久機関だな。これに換装する事により、外宇宙でのガス欠問題も解決した。…はずだったんだけどね。まさかの事態になったのは笑えない事実だ。ちょっとへこむ。

さて、取り外した反応炉はモスボール状態にして、倉庫に放り込んである。何かに使えるかもしれないしね。なんだろう、貧乏性?

こういう事情もあり、安くはないが、決して高いとも言えない船を手に入れる事が出来た。当然の事だがメーカー保証も付いている。しかも普通より長期で。…今は意味が無いけど。


木は葉をキラキラさせながら、光の筋をまるで踊っているかのように出している。

綺麗なんだよね、これ。

一応というか当たり前というか、木の周りは相当広い範囲が土になっている。しっかり根を張る為だな。管理は…まあ自分でやってるんだろう。

木の根元に座り背を預ける。ほっと息を吐き体の力を抜く。ああ、癒しだ。

木も気を使ってくれてるんだろうか?あまり光の筋を出さず、葉の騒めきも耳に心地好いほどのものになっている。ああ、なんだか眠たくなってきた。

「クリス様」

「どわっ!!」

「そろそろバイオドールの方をお願いします」

ロッドはいつの間にか入ってきていた。骨董品とはいえ元は戦闘用アンドロイドだからなあ。忍び寄るのはお手の物だ。

「ロッド…心臓に悪いからやめてくれ」

「寝そうになっていたのはどなたですか?」

呆れ顔で言われた。

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