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メンヘラ男のセラピートラベル  作者: 神代 遥
11/11

拾 その笑顔は

 現在この星は寒冷期らしい。気候が変わり、農業生産に相当な打撃があったらしい。ただ氷河期や無氷期と違い極端な変動ではないので、生物層的に見ればそれほど変化がある訳じゃ無いんだけどね。ただ農業という、栽培によって食料を得ている人類にとっては死活問題となる。その為、他人の土地から奪おうとする者が続出した。当然、奪われる側も指を銜えて見ている訳にはいかない。まあ、乱世の始まり始まり、ってところだな。

 技術的に進んだ地域は、地域内での争いをしつつ、新しい土地を求め更に外に広がろうとした。これを大航海時代と呼んでいる。

 …大航海時代かあ。宇宙開拓の初期でも使われている言葉だな。地球を含む太陽系の資源の枯渇・人口の増加。戦争による汚染や、それに伴う地球環境の変化による可住域の減少。ご先祖さん達は苦労して銀河中に散っていったんだろうなあ。往時が偲ばれます。

 そして問題なのが、人類の版図がほぼ地球全体に及んでいるのに、移動手段が極端に脆弱な事だ。当然、通信手段も発達しておらず、地域による文明レベルの差が極端に大きくなっている。人と関わっていくと決めた以上、どこかに腰を据えなければいけないとは思うんだが、どこにすれば良いのか全くわからん。

 真面目な話をする時はブリッジと(俺は)決めていたので、みんな集めて相談する事にした。

「という訳で、みんなの意見を聞きたい」

「はーい。食べ物が美味しいところー」

「あのねえ、否定はしないけど、それだとどこでもよくなっちゃうわよ」

妙に食い意地が張っているアリアンに、突っ込むチル。もはや日常風景だ。

「そうですね。余りにも文明レベルの低い所では国としてすら纏まっておらず、各民族、更には各部族に分かれて居住していたりします。下手に関わると神様扱いになりそうですね」

俺達が神のように崇められている…そんな光景でも想像したのか、ロッドが苦笑しながら言った。俺も想像してみたけど…滑稽過ぎて、逆にへこみそう。

「それは勘弁してほしい」

「だと思います。基本的に知識レベルというのは教育によって大きく変わっていきます。また世界観や宗教観、道徳観等も教育によって変わってきます。但し、例え一から教育するにしても、それは全体でやらなければいけません」

「どうしてだ?」

「例えば、一つの地域のみに高度な教育を施したとしましょう。当然その地域では問題は有りません。しかし、当然全ての人を管理出来る訳ではありませんから、そこから漏れ出してしまいます。漏れ出した人々は別の地域へと進出するでしょう。その時彼らは現地の人々をどのように感じるでしょうか?」

「きちんとした教育を施されていれば、無碍には扱わないんじゃないかな?」

「確かに大半の人はそうでしょう。しかし自分達よりも劣った知識、技術レベルもまるで比べ物にならない。さて、どれ程の人達が優越感に浸らずにいられるのか、私には判りません」

「私もロッドさんの意見に賛成です。例えば私達バイオドールですが、確かに道具として造られ、人格も後付けの物です。感情すら本当に私自身のものかと問われれば、反論する術を持ちません。しかし、だからといって酷い扱いを受けて嬉しい訳ではありません」

 そう言ったエイルの顔はまるで能面のようで、ただ眼だけが冷たく鋭かった。…なんか物凄く怖い。真面に自分に向けられてたら、多分逃げ出してると思う。矛先が俺じゃなくて良かったよ。それにしても普段からどこか他人を突き放したようなところが有るけど、ここまで怖いと思った事は無い。

 まあ、仕事はきちんとやってくれるし、頼めば呆れたり溜め息を吐きながらだったりするけど引き受けてくれるしな。身を護る為にもなるべく怒らせないように気を付けよう。うん。

「私も二人の意見と同じです。私も虐待されてきましたから…。クリス様なら理解して貰えると思います」

 どこか諦めた様な、切なく悲しげで、それでも尚、優しさの籠った顔でババクが俺を見た。

そうなんだよな。俺も虐待を受けて育ってきた。受け続けていればそのうち心が折れる。まだ将来に希望が有ればマシだが、無ければ絶望するしかない。そんな連中を増やす訳にはいかないし、ましてや優越感に浸って、他人を踏み躙って平気な人間を作る訳にもいかない。はっきり言えばそんな奴ら大っ嫌いだ。でもなあ、俺もただの人間だから解るんだよ、優越感に浸りたい気持ちが…。そして俺の中にそう言った気持ちが無いかと言われれば、無いとは言い切れない…というか、大いに有る。ただそれを、どこまで抑える事が出来るのか?というのも理性の一つだと俺は思ってる。尤もどこまで出来るのか分からないけど…俺、鬱だし。

「そうなると、余りにも未発展な地域は駄目ね。それと発展し過ぎている地域も」

「ほう、それはどうしてだい?」

チルの意見にババクが興味深そうに聞く。俺やエイルも当然興味がある。ロッドは少し眉を顰めているけど。アリアンは…既に居なくなっていた。

「まず未発展の地域だけど…なんて言ったらいいのかな、余りにも高度な技術は魔法と変わらないって言葉そのままになりそう」

指を顎にくっつけて少し首を傾げながら持論を展開する。

「次に発展している地域だけど、どうもね、征服した国の人達を奴隷としてるみたいなのよ。しかも同じ人間としてみてないみたい」

眉を潜ませて、大きく溜め息を吐いた。ババクやロッドも沈痛そうな顔になる。そしてエイルは、冷たい光を目に宿したまま薄っすらと笑みを浮かべている…。これはやばい!!場の雰囲気が一気に緊張した。人格設定を変えてどっしりとした雰囲気になっているはずのババクはもとより、ロッドですら頬に一筋汗を垂らし少し引き攣っている。

「あ、だけどね、殆どが元の世界のデータからの推測だから。この世界でも同じって決まった訳じゃ無いから!!」

慌ててフォローを入れるチル。チルも顔が引き攣り、冷や汗を流している。その気持ち、物凄く解るぞ。とにかく話を進めて、少しでも早くこの話題から離れないといけない。

しかしなかなか難しいな。未発展過ぎれば俺達は神様扱いになりかねないし、発展してはいても万が一チルの言う通りだったらエイルが暴れだしそうだ。まあ、発展しているといっても極々初期の火器が使用され始めたばかりで、潰すだけなら簡単だろうけど…、人の心までは無理だからなあ。

「うーん。適度に発展している場所か。候補地とかある?」

「いくつかピックアップはしてあります」

「でもねえ。それぞれ問題が有るのよね。主に社会制度や宗教関係。厄介なのは宗教観が社会制度や権力と結びついてる事かな」

「それは相当厄介ですね。宗教は心の問題と切り離せません。特に権力と結びついているともなれば、教義の違いが原因で戦争が起きても不思議ではありません」

みんなあからさまにホッとしている。ロッドが候補地を判り易くした地図を出してチルが説明を加える。ババクも態と話題に乗っている。

「実際元の世界の歴史でも起こっていますね。この世界でも恐らく起こっているでしょう」

「世界が変わっても、人の本質は変わらないって事ね」

ロッドの推測にエイルが顔を顰めて呟く。

「そうですね。どちらかと言えば、知的生命体には避けては通れない問題なのでしょう」

「そうかしら?」

「ええ。勿論、感情を持たない知的生命体に会った事が無いので断言出来ませんが…」

「そうね。感情を持たない高等生命体はまず存在しないわ。脳が発達し、知的行動を取る事が出来る生物には感情が有るもの。あなたの言う通りかもしれないわね」

ロッドが冷静に、そしてエイルが疲れたように答えた。

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