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ララは、プカプカ森に住んでいるりんごの精だ。頭の上に小さなりんごの木が生えていて、ピンポン玉くらいのりんごがなる。もいでももいでも、次の日には新しいりんごがなっている。甘くて少し酸味がある、おいしいりんごだ。
森の住人たちはみんな、普通の人とは少し違う。背中に亀の甲羅のあるおじいさんや、手のひらが本になっている女性、頭に翼のある赤ちゃんなど、一風変わった姿をしているが、仲良く穏やかに暮らしている。
その中でも、ララは人気者だった。長い髪からはりんごの香りがするし、頬はほんのりピンク色で、小鳥がさえずるような声で話す。
ある日、森の近くの村に住む少年が、蔓草であやとりをしているララを見つけた。少年はあやとりの馬を見て、すげえ、と目を輝かせた。
「オレ、ユウタ。時々絵を描きに来てるんだ。ねえ、それどうやるの?」
「簡単よ。まずは蔓草を輪にして、しっかり結んで」
二人はあやとりをしながらお互いのことを話した。ユウタは三人兄弟の長男で、妹と弟は学校の勉強が得意だが、ユウタだけは走ったり絵を描いたりするほうが好きなのだという。ララは朝起きたら一番にアップルパイを焼くこと、散歩する時は空に向かって歌うことを話した。
ユウタは森の奥に入ったことがなかったので、赤い星の草むらやマリモ小人の住む湖を見て驚いていた。マリモ小人にもらったボールで、二人はサッカーやキャッチボールをした。ララはあまり上手ではなかったが、ユウタに教えられ、だんだん力いっぱい蹴ったり投げたりできるようになった。
ララは頭の木からりんごをもぎ、ユウタにあげた。ユウタは一口食べ、目を丸くした。
「おいしい! こんなりんご初めて食べた!」
「もっとあげる。お土産に持って帰って」
「そんな、悪いよ。明日はオレも何か持ってくるから」
ユウタは毎日森へやってきた。町で買ったガラスの腕輪や髪飾りをくれたり、母親の作ったシチューを鍋ごと持ってきてくれたりする。でも、何よりも楽しいのは、二人で話しながらお茶を飲んだり、森の中を駆け回ったりすることだ。
「ここには銀の花が咲くのよ。絵に描いたらきっと素敵だわ」
「まだ緑だね。オレ、ララを描きたいな」
草の中をスキップしたり、歌いながら歩くララを、ユウタはパステルの色鉛筆で描いた。ユウタの描くララはきらきらの星をまとっていて、頭のりんごの木も輝いていた。
「私、本当にこんなにきらきらしてるのかもしれないわ。だって、ユウタといると楽しいから」
「オレもだよ。ララと一緒だと、最高に楽しい!」
ユウタと過ごすうちに、ララの頭の木にはりんご以外のものもなるようになった。ガラス玉に入った花や、小さなスープ皿、サッカーボールや雲の切れ端。指で弾くと不思議な音がした。
「あれはこの前オレが持ってきたお菓子だね。あっちはララの歌に出てくるカラス。あのキノコは何だろう」
「ユウタと話してたら思いついたの。キノコの上でトランポリンができたらいいのにって」
ララの木に増えていく不思議な実を、森の住人たちも楽しみにしていた。自分のミニチュアを見つけて喜んだり、そっと撫でて可愛がったり、音を鳴らして笑い合ったりする。
ララは幸せだった。ガラス玉の子守唄で眠った赤ちゃんを眺めて、こんな日々がいつまでも続くようにと願った。