04街
俺は今、【セントラル】城門で待ち惚けを食らっていた。城門に殺到するPCはそれぞれに不満の声を漏らし、それに対応する門番も困ったような顔で勧告をしている。
「先ほど、セントラル南方の草原でユニークモンスターの出現を確認しました!街に被害が及ぶ可能性もある為、ギルド本部からの通達で一時的に全面出入り禁止となっております!冒険者の方々は今暫くお待ちください!」
PCからはブーイングの嵐だ。それもそうだろう、延々とあの街道を歩かされて、やっと最初の拠点に着いたと思ったら入り口で堰き止められるんだから。
「ガルボさん、ボク達いつになったら街に入れるんですかねえ……。もうお腹ペコペコですよぉ……」
「まぁ、たぶんギルドが出てくるくらいだから調査隊とか討伐隊とかが組まれてひと段落する位じゃないと入れねぇんじゃねぇのかな?」
「ええ‼︎そんなに待てない!ボクの空腹値がもう限界!って言ってますよぉ……」
他の例に漏れず、カーヌまでブーブー言い始めた。
空腹値というのは隠しパラメータの様なもので、一定値を下回ると弱体化の状態異常になってしまい、そのまま更に放置するとHP残量に関わらずデッド扱いとなってしまうらしい。
あの門番の対応といい、空腹値といい、本当に良く作り込まれている。
「ユニークモンスターって、どんな奴なんだ?」
「大した事無さそうな奴だったら俺たちで何とか出来るんじゃねーのか?!」
血の気の多そうなマッチョなおっさん達が叫んでいる。
またも門番は眉毛をハの字に歪ませながら
「ホーンラビットという、草原に多くいる種の上位種です。本来であれば森の奥などにいて、ここまで人里の近くに出てくる事もないのですが……討伐ともなると、腕利きの冒険者でもパーティーを組まなければ厳しいかと思います」
「なんだ、あのウサギの親玉だろ!楽勝じゃねーか!」
「どこに居やがるんだ!俺たちで行って討伐でも何でもしてやろーじゃねぇの!」
門番の言葉は火に油を注ぐが如く、マッチョなおっさん達を更に過熱させた。
と、ここで、ガルボはある事に気付く。
「ホーンラビットの上位種……?さっき倒したやつか?」
「なんか、そんな気が……します。ガルボさん1人で倒してましたよね?」
「おーい!門番さん。そのユニークモンスターってのはこれの事か?」
ガルボはラージホーンラビットからドロップした巨大な角を見せながら門番に尋ねる。周りがザワザワし始めるが気にも留めない。
「こ、これは……‼︎でも一体どういう?あなたが討伐されたんですか?」
「コイツが絡まれてたから俺が倒したんだ。まさかユニークモンスターとか言う奴だとは、思いもしなかったけどな」
「いや〜、ちょっと森まで入って探索してたらグーゼン!ホーンラビットが沸いてたので矢を射ったら追っかけられちゃったんですよね〜〜〜」
「ん、森?」
…………
「「「犯人はお前か!!!」」」
「え、なんのこと?」
兎にも角にも、この一連の騒動の原因がカーヌだったとは……。正に自業自得ではあるのだが、本人にその自覚は無いらしかった。
少しして、ギルドからの討伐隊が城門へと到着したのだが、既にモンスターが討伐済みである旨を門番が伝えるとその面々は大層驚き、
「本当にキミが討伐したのか?!」
「まだまともな装備も身に付けてはいないじゃない?!」
「こんな身なりでラージホーンラビットを討伐するなんて……」
と口々に感嘆の意を述べていた。一応は討伐者である俺がギルドに報告するのが理らしく、街に入ったら寄るようには言われた。
その後討伐隊は他に何か問題が起きていないかの確認も兼ねて、(元?)現場へと去っていった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
【セントラル城門前広場】
大小様々な建物が立ち並び、作りも煉瓦だったり石だったりと〈雑多〉という印象の強い街並み。
道端には露店が開かれ、武器や防具だけでなく鮮魚や果実などの食料品や、日用雑貨までもが売りに出されている。
中央に見える巨大な建築物までの幅広の道はこの街のメインストリートなのであろう。所々に路地への入り口も見えるが今はまだよそう。道に迷ってまた道草でも食おうものなら目も当てられない。
「どうですかぁ、ガルボさん?ここが僕らの拠点となる街【セントラル】です!この露店もほぼNPCが開いているんですよー♪」
早速露店で買ったりんごの様な果実を頬張りながらカーヌは言う。
「これは……すごいな。正直ここまでとは思って居なかった。この中世ヨーロッパ風の街並みもまたファンタジーっぽくて……何より街の活気がこんなにも溢れてるなんて!」
道行く人々の多くはNPCなのである。が、露店で買い物をしていたり、主婦達が井戸端会議を開催していたりと、現実世界の人のようにそれぞれに個性があり、生活があるように感じた。
「ホントにこのゲームのNPCはよくできてますよねー。ボクも最初に話した時は"中身入り"なんじゃないかって思うくらいでしたよー。あ、あの真ん中のおっきな建物がこの街のギルドになります!ギルドの中はもっと凄いんですよ!」
そう言って尻尾を振りながら俺の手を引っ張って走る。
右手にはウサギ肉の串焼きが握られていた……。
▲▽▲▽▲▽▲▽
【セントラル総合ギルド】
「おぉ……これは」
要塞と言っても過言ではないような建物が目の前にあった。入り口の重厚感漂う木製の扉は開け放たれており、多くの人々が出入りしている。石材を緻密に積み上げて作られたであろう壁は多少の攻撃ではびくともしなさそうである。上部には旗が四本付けられていて、中でも一際大きい旗がこのギルドのシンボルであろう事は想像に難くない。それらと綺麗に整えられた石畳も相まって確かな存在感を醸し出していた。
「これがこの街を取り仕切るギルドの本部です!早速中に入って討伐の報告と装備の支度をしなきゃですね!」
「装備の支度って……ここで鍛治も出来るのか?」
「そうなんです!このギルドの中には、〈冒険者ギルド〉〈生産者ギルド〉〈商業ギルド〉あとは、全てを統轄している〈総合ギルド〉が入っているんです。〈生産者ギルド〉では工房の利用も出来るので覚えておいて損はないですよ♪取り敢えず一通り回ってみます?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
俺は言われるがまま、ギルドの中へと入っていった。
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「まず、中に入ってスグが冒険者ギルドのロビーです!」
外に飾られていた旗の中の一つ。剣と盾のシンボルを掲げているのがここだ。待合室のようにもなっていて、無骨な冒険者達が酒を飲んで騒いでいたり、目ぼしい依頼書を物色していたりと様々だ。
「基本的に依頼の類はここで受注・報告します。まぁ、他にも各ギルド毎に特殊な依頼とかもあるので一概には言えませんがね。冒険者ギルドではモンスター関連の依頼が主ですね」
「じゃあ、俺はここであの巨大角ウサギの報告をしたらいいのか?」
「んー、たぶんあれは総合ギルド案件だと思いますよ?"街ニ被害ガー"とか言ってたので」
「そうか、じゃあその総合ギルドとやらは何処だ?」
「まあまあ、そう焦らずに♪ボクがキチンと案内しますので」
そこから少し歩いて行くとまた開けた場所が見えてきた。掲げられた鎚とツルハシ、そして金床のシンボルから察するに恐らくここは生産者ギルドだろう。小柄ながらもガッシリとした身体つきの髭もじゃのおっさん達が、なにか石コロの様な物を運び込んでいるのが見える。
「ここは生産者ギルドです。鉱石や革、木材なんかも扱ってまして、裏手にある工房をレンタルできます!スキルの【鍛治師】等、生産系統はここで教えて貰えるんですよ♪」
「工房レンタルはタダ……なのか?」
「いえいえ、勿論お金は掛かりますよ。でも自前で工房を持つとなると一体幾ら掛かることやら……レンタルの方が安上がりなんですぅ」
「鍛治師も不便なもんだな。ただ高性能な装備ならNPC製でも買えるのにな。それなのに素材集めて自腹で生産して……なんて」
「言ってくれないでくださいorz でもボクはPC製の武具に可能性を感じてるんです!ガルボさんが客寄せパンダになってくれるのでウハウハの未来しか見えません♪」
「おい、客寄せパンダってなんだよ!しかも確定してるのかよ……」
「はい♪今すぐにでも装備を作って差し上げたい所ではありますが、まずはギルドに報告してからにしましょう。次行きますよ!次!」
終始カーヌのペースに乗せられつつもギルド観光は続く--。
続いて見えてきたのは馬車とコインのシンボル。商業ギルドで間違いは無さそうだ。しかし、シンボルにコインか……。分かりやすくはあるが金って……。
ロビーにはやけに金ピカの調度品が置かれ、如何にもな雰囲気を漂わせている。座っている人達は何故か皆小太りで、宝石の指輪やネックレスなど高価そうな物を身に付けている。一言で言えば、「カンジワルイ」だ。
「ここは商業ギルドです。以上!」
「うむ。さぁ、次行こうか」
「スルーなんですね(笑)ガルボさん本命の総合ギルドはこの建物の二階部分になります。コッチで〜す」
商業ギルドのロビーを抜けて、階段を上がっていくと外にもあった、大きな旗〈剣と鎚、コイン〉がそれぞれ重なるようなシンボルが掲げられていた。至る所で職員と思わしき人々が忙しなく動き回っている。
「ここがギルドの中心部となる、総合ギルドですね。この街の行政、あとは各ギルド間の調整を担っています」
「ふむ、騒がしいな。いわゆるお役所って所なのか」
「そうですねー、あ!あそこが受付ですよ!早速報告しちゃいましょう!」
またも、俺の手を引っ張りながら駆けていく。
「受付のおねぇさん!ユニークモンスターの件で報告しに来たんですけど?」
「いらっしゃいませ♪はい、討伐隊より話は伺っております。あなたが討伐された方ですか?」
「ボクは追っかけられた方かな(笑)討伐はこのおにぃさんがしたんだよ!」
「討伐者が報告しろと言われてな。これがその証だ」
ラージホーンラビットの巨大な角を受付へ差し出す。
「わぁ……すごい……大きいです/// じゃなくて、かしこまりました。確かにラージホーンラビットのものですね。それではこちらへお越し下さい。同伴の方もご一緒にどうぞ」
受付嬢に連れられて、俺達は奥の部屋へと通された。調度の良いこの部屋は応待室なのであろう。座って暫し待つように言われ、素直にそれに従う。
少しして、痩せぎすの男が出てきた。眼鏡を掛けており、多くが白髪になってしまっているその長髪は、後ろで一つに束ねられている。一目で良いものと分かるその貴族風の服と、疲れ切ってやつれた顔とのミスマッチがちぐはぐな印象を与える。しかしその瞳には鈍い光が宿っていた。
「私がこの街のギルドを預かる、〈オーキナー=アネモネ〉で御座います。この度は南方の草原に現れたユニークモンスターを討伐してくださったとの事で……。なんと感謝申し上げていいのやら……」
「感謝だなんて、とんでもない。俺はこの犬っころが、あのデカイウサギ達に絡まれているのをたまたま助けただけだからな。しかも聞けばわざわざ森まで入ってトレインしてきたようで。騒ぎの元凶はコイツだぞ?」
「んう?」
「それでも、討伐してくださったのは確かですので!私どもも森の比較的浅い所にアレが居るのは把握してはいたのですが、実害がなかったので放置していたのがこのような形で騒ぎになってしまったと考えております」
「まぁ、そちらがそう言うのであれば俺はあとは何も言わないが……いいのか?」
「結構でございます。それでですね、今回の恩賞といっては何ですが、通常ユニークモンスターの素材は希少な素材の為、一度ギルドでお預かりしてからお渡し可能な部位のみ、冒険者の方に融通して居りました。が、今回このような事になってしまったので、素材は全てお持ち頂いて構いません。又、討伐報酬という形で金貨10枚をギルドから支給させて頂きます。宜しいでしょうか?」
「ワォ、金貨10枚!すごい大金だよ!ガルボさん‼︎」
「俺はまだ通貨のレートが分からんからイマイチピンとはこないんだがな……。しかし、良いのか?至れり尽くせりじゃないか」
「えぇ、えぇ。正直、ギルドとしてここまで破格の待遇は他に類を見ない事でありまして。しかし、その様に碌な装備を持たずにユニークモンスターを討伐してしまうほどの、将来有望な冒険者の方を抱え込みたいという打算もあっての事ですのでお構いなく」
「なるほど……ねぇ。それを本人を前にして、口に出してしまうのはどうかと思うがね。それも計算のうちなんだろうな、アンタにとっては。わかった!その条件で呑ませて貰おう。こっちにとっては利益しかないしな」
「お察し頂き、有り難い限りで御座います。では、こちらが報酬の金貨10枚になります」
俺はオーキナーより金貨の入った袋を貰う。ずっしりとした重みが腕に伝わった。袋を開け、金貨が入っているのを確認すると
「確かに、金貨10枚。じゃあ、世話になったな、オーキナー。 また何かあれば寄らせて貰おう」
「バイバイ、オーキナーさん!」
「あなた方の旅路がどうか幸運と興奮に満ち溢れたものであります様に、ここからお祈り致して居ります」
俺達はオーキナーに見送られながら、応待室を後にした。
「しかし、良かったのですか?あの様な破格の待遇……」
「私は、彼らのこの先に投資したに過ぎないよ。順調に行けば、これが何倍にもなって返ってくるよ?」
「もし、そうならなければ……?」
「私の人を見る目がなかっただけだねえ……なに、優秀な冒険者はまだごまんと居る。彼らの代わりをまた探すだけさ」
この時から水面下では何かが動き出していたのかも知れない--。
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【ギルド本部:生産者ギルド内工房】
「じゃー、待ちに待ったチキチキ、ガルボさんの装備を作ろうターイム‼︎」
「随分とテンションが高いんだな」
「だって、工房だよ?!テンション上がるでしょう‼︎それにオーキナーさんの計らいでレンタル料もタダになったし♪」
「あのギルドマスターは只者ではないだろうな。雰囲気こそ、疲れ切ったオヤジだったが……もっと奥底には何かを抱えているような」
「まぁー、小難しい事は置いといて、鍛治ですよ!鍛治!さあ、ガルボさん!さっさと素材を出してくださいな‼︎」
カーヌにそう急かされたので、思考を一旦中断し、ラージホーンラビット達のドロップ品をワークベンチの上へと広げる。
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[大一角兎の螺旋角]×1
ランクD−
・長年の闘争についには打ち勝ち、大一角兎へと成長を遂げた個体の角。太く渦巻くその角はまさに男の勲章。
生半可な金属よりもよほど硬く、逆にへし折ってしまう程だ。
[大一角兎の剛毛皮]×5
ランクD−
・長年の闘争についには打ち勝ち、大一角兎へと成長を遂げた個体の毛皮。
丁寧に舐めす事によって上質の革材へと変わる。
[大一角兎の爪]×10
ランクE
・突進を繰り返すうちにより強固に、より巨大になった大一角兎の爪。これがスパイクの様な役割を果たす事で驚異的な突進を可能にした。角ほどではないが冒険者にとっては十分な脅威となりえる。
[一角兎の角]×多数
ランクF
・一角兎の角。とても鋭く、その突進と相まって初級冒険者にとっては脅威の一言に尽きる。
[一角兎の毛皮]×多数
ランクF
・一般的な動物の皮よりも遥かに丈夫で扱い易い。防具などに加工される他、日用品としても幅広い需要を持つ。
その他、多数……
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「うわぁ、ホーンラビットのドロップ品の量がエグい……」
「しょうがないだろ?あの街道歩いてるだけでとっかかってくるんだからよ!だいたい、あの初心者用のフィールドにアクティブモンスターばかり出るのもどうかとは思うぞ?!」
「ボクもそれは思いますねぇ……選んだ武器が遠距離系だから良かったものの、矢の補充が大変ですよ……トホホ」
一通り素材の確認を終えて、装備の製作へと入るカーヌと、それを横から退屈そうに見守るガルボであった--。
新たに称号が更新されます。
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[name:ガルボ] [種族:人族(通常)]
[称号:新星]
・開始直後に一定値以上の名声を得た者。
(NPC好感度アップ、LUK増減 中)
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