03ハプニング、そして出会い
最初こそ、あまりのリアルさに恐怖さえ覚えた俺だったが、今ではすっかり病み付きとなってしまっている。
現実では持病によりベッドの上から降りる事もままならず、唯一身体を動かせられる(気になるだけだが)他のVRゲームも最近ではやる気が起きず、疎遠になりつつあった。
ただただ病室の窓からビルの森を眺めるか、くだらない番組ばかりやっているテレビを時折乾いた笑みを浮かべて見るだけ……。
そんなつまらない日常に、腐り果てるのを待つだけの俺に、この【TotentanZ On-line】は新鮮な空気を届けてくれているような……そんな気がしていた。
街道のそばにある広大な森。そこに息づいている小動物達。優しく、暖かく、撫でるように吹く風も。今踏みしめているこの地面も。
何もかにもに感動し、そしてまだ見ぬこの先に期待した。
自分が生まれて二十余年。ここまで生を謳歌していたことは、感情というものが昂ぶっていることは、無かったかも知れない--。
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俺はあのあと幾つかチュートリアルをこなし、最初の拠点となる街、【セントラル】へと向かっていた。
太陽が真上で燦々と燃えるなか、綺麗に整備された街道をひたすらに突き進む。時々絡んでくる角ウサギを、軽くクリティカルで仕留めながら。
遠く地平線の向こうに見えるあの城壁がおそらくは、街なのであろう。
チュートリアル開始地点からここまでの道中、少なくない数の他のプレイヤー達も居た。あるいはモブ相手に戦闘に勤しんでいたり、あるいは所々にある草花(薬草の類?)を摘んでいたり、あるいは……不運にも例の角ウサギを五匹も引き連れて全力疾走していたり。
そして、不運なのは彼だけではなかったようで……。
「おにぃ〜さあぁぁぁん‼︎そこの双剣担いだおにぃさん‼︎こ、これ‼︎なんとかしてェ〜〜〜‼︎」
あろう事か彼は、俺に向かって走ってきたのだ。
致し方無し。深くため息を吐いてから、抜刀。迎撃の体勢を整える。
「良いかァ!よく聞け!助けてやるから、お前はそのまま俺の横を走り抜けろ!」
「ハイィ〜‼︎神様仏様お代官様ぁ〜‼︎ありがとうございます〜〜〜(泣)」
そう泣き叫びながら彼は俺の横をまさに風の様な疾さで駆け抜けて行った。
「ったく!人が折角大自然を堪能しながら居たってのにっ……よォ!」
追い掛けて来た角ウサギ達を得物の双剣でそれぞれ一撃のもとに仕留めていく。一体、二体、三体、四体……とここで、最後の一体だけが他のウサギに比べて一回り以上も大きい事に気付く。胴体には半ばから折れた矢の様な物が突き刺さっていた。
それでも俺は弱点(と勝手に思っている)の首へ双の刃を振るう。
ザクザクッ
確かな手応えは感じたのだが、倒れる気配はない。
それどころかターゲットが移り、急停止してこちらへ向き直ってきた!
「オイオイ!なんだ、このデケェのは?!他の角ウサギとは違うみたいだが?」
「ボクもわかりません!遠目からボウガンで射ったら周りに居るホーンラビットもリンクしちゃって……」
意識を目の前の巨大な角ウサギへ集中させることでステータスを表示する。
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【ラージホーンラビット】【興奮】
ランク D−
・ホーンラビットの上位種で、群れを率いる個体。
その体格から繰り出される突進は驚異。
厚い皮は加工する事によって良質の素材となり、角は武器の加工などに重宝される。
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これまでに出てきたモンスターは精々がランクFやF+であったのに対して、今対峙しているこのモンスターはD−と、明らかに群を抜いた個体である事がわかった。
しかし、俺はニヤリと笑うと更に得物を強く握り締めた。
「上等じゃねぇか!やってやんよ!」
ラージホーンラビットが此方へ向かって突進してくる。それに合わせて俺も走り出した。
1人と1匹が交差する刹那、ガルボは急所へ対して渾身の斬撃を放つ。
ガギィン! 「‼︎」
ラージホーンラビットは角を振るい、その双撃を浅いものへと留める。
反動を抑えきれずに双剣は、手から弾け飛んでいった。
更に言えば、それがダメージとなってHPの半分程をも失っていた。
その強固な角に攻撃を阻まれながらも、浅く斬りつけられたのは僥倖ではあったのだが……。
「あ‼︎おにぃさん!双剣が‼︎」
「分かってらァ!だが、まだ詰んだ訳じゃねぇ!」
ダメージの蓄積により、最初に比べると明らかに動きの鈍くなったラージホーンラビットへと向かって再度走り出す!
一方はと言えば、丁度突進の勢いを殺し、振り向く直前であった。
ようやっと振り向いたラージホーンラビットであったが、目の前にはもう、無手の人間が迫って来ていた。もはや突進を繰り出すだけの体力は残っておらず、角を振り回す他無かった。
しかし、ガルボの方もHPは残すところあと半分。初期装備の自分にとっては、その苦し紛れの攻撃でさえ致命傷となりえるものだった。
「武器もないのに、どうして?!あ、角が……危ない!」
「いや、まだだ!まだお前の体に俺の切り札が残ってる!」
事も無げに角を躱し、身体をよじ登って刺さっていた矢を引き抜く。それさえもダメージに入るのか、この巨大なウサギは身を捩って苦しそうな呻き声を溢した。
そして、引き抜いた矢を手に持ち、ウサギの眼球へと突き刺す!
この一撃が致命傷となり、ウサギは一度身震いするとそのまま、息絶えた。
「……す、すごいですよ!おにぃさん!あんなおっきなホーンラビットを倒しちゃうなんて!それに、あの攻防!思わず魅入っちゃいました〜!」
「喧しいわボケ!なんであんなバケモントレインしといて人任せにしてんだよ!いい迷惑だわ!」
途中で吹き飛んだ双剣を回収しながらそう怒鳴る。
「ごめんなさい〜(泣)まさかあんなにいっぱい追っかけて来るとは思わなくって!あ、ボクはカーヌって言います!一応、ボーガン使いで鍛治師ですね。ここで会ったのも何かのご縁♪フレンドいいですか〜?」
「まあ、まさか攻撃したらリーダー格だなんて思いもしないか……。俺はガルボ。見ての通り双剣使いだ。PCの鍛治士だなんて好き者だな」
軽くお互いの紹介をしてフレンド登録を済ませておく。
ゲーム内でならフレンド同士は通話でやり取り出来るようになる。
「この手のゲームはNPCの鍛治師が優秀ですからね。でもそれにも負けないオリジナルな装備をPCの鍛治師だって作れるんですよ?ボクはそれをみんなに教えたくって!」
「ほう?そこまで言うんなら俺の装備一式、今回の詫びも兼ねて支度してもらうかな(笑)」
「それは勿論!丁度あそこの森から新しい素材も手に入れたので作らせて貰いますよ!お詫びも兼ねて(笑)」
「そうと決まれば、まずあの街まで辿り着かなきゃな。俺はまだ街に入った事もないから」
「え、おにぃさん初心者?!とてもそんな動きには見えなかったけど……」
「ゲームにはちょっと自信があってな。他のだって軒並みやっては来たから、その応用だよ」
「応用でそこまで出来るのはもはや才能だね♪これは装備作るのもボク頑張んなきゃ!街の中はボクが案内するよ!レッツゴ〜〜〜♪」
何か初っ端から面倒に巻き込まれた気もするが、悪い奴では無さそうなので良しとした。
だいぶ道草を食ってしまったから、【セントラル】まで急がなければ。
キャラクターステータス
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[name:ガルボ][種族:人族(通常)]
[称号:首刈り]
・クリティカルヒットにより数多の敵を屠った者へ与えられる。(クリティカルダメージ上昇)
[取得スキル]
【P:双剣術Lv5】【A:双撃Lv3】
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[name:カーヌ][種族:亜人(獣人:犬)]
[称号:---]
[取得スキル]
【P:自動弓術Lv7】【A:コントロールアローLv4】
【P:鍛治師Lv6】【P:加工術Lv3】【P:細工師Lv3】