第五話「殺意の弾丸」
ホバーヘリのパイロットルームの後ろに居た新井隊長が隔壁のドアを開けて体を乗り出して叫んだ。
「あと5分で作戦空域に到着する。全員バイザーを装着しろ!」
(まず、最初にドローンを発電所内に侵入させ、敵の存在を認識させる)
「……新井隊長、発電所のコントロールルームにドローンを数機侵入させて警戒するように管制室に進言してほしい。
監視カメラはハッキングされてダミー映像が流されるのはよくある事だ。
その手は俺たちだってたまに使う。
今回のミッションは事が大きい、可能なあらゆる手段を使うべきだ」
「管制室、ドローンを数機、発電所内のコントロールルーム周辺の警戒に当たらせて貰いたい。
可能か? ……うちの隊員の進言でな。
あらゆる手段を講じるべきだ。確かにな。
そうか、頼んだぞ。
……デフィ、管制室は3機の昆虫型偵察ロボと2機のドローンを建物内に侵入させる。
もう満足だろう。
他はないな? 全員バイザーを装着したな?
管制室! ファントム・ハンズの21名全員準備完了です」
***
兵員輸送ホバーヘリは前回と同じ目的地へ到着、他の隊員達と共にデフィもホバリングデバイスを腰につけて降下した。
デフィが自分の待機場所へ向かう最中、前回と同じアクシデントが発生する。
「発電所内のドローンが一機、破壊されました!」
「そんな馬鹿な? 映像を確認しろ!」
(ここで敵の侵入経路を伝える)
「敵は地下から発電所内に侵入している!
発電所地下のマップを全員のヴァイザーへリンクしろっ!
一刻も早く狙撃するんだ!」
「発電所半径1キロの地下マップを……情報リンク完了」
「攻撃能力のあるドローンを全て急行させろっ!」
「オウルα、オウルβ、クロウα、クロウβ、発電所内部のマップと地下マップを確認し、侵入経路となりうる地点を重点的に、内部に向けて直ちにフリースタイルSCR狙撃を行い続けて下さい。
……オウルβ、目標待機地点へ向かう道はそっちではありません」
デフィは前回の待機地点ではなく、その広場の隣にあるビルの中の階段を駆け上がっていた。
ビルの3階まで駆け上り、ハンドガンで強引にドアのロックを打ち抜いて開け、窓際の壁、窓枠の下しゃがみこむ。
「オウルβ、一体何をやっている?」
「待機地点を少し変えただけだ。問題ない」
「そうか、既にほかの隊員は狙撃に入っている。すぐに掛かれ」
「ラジャー」
ガォン……という音が窓の外で響いた。
デフィは窓から少し顔を出して外を確認する。
地面を見下ろし、観察するとデフィの本来の待機地点の30メートル前方の道路に小さなクレーターが出来ていた。
デフィは素早く身を隠す。
同じ炸裂音が5、6発連続して鳴り響き、外の地面のあちこちでガラスの割れる音やタイルの砕ける音が響き続ける。
(SCR狙撃だ! 明らかに俺を狙って探している!
何故だ!? 早すぎる!
前回はこんな事は無かった!
俺が撃たれたのはあと5、6分後のはずだ!
何が変わった!?)
「どうしたオウルβ! 何故狙撃しない!?」
(くそっ、先にスナイパーを排除しなければ!)
SCRバレットのブレイン情報リフレッシュ用のパネルに指を当てる直前、デフィの中に恐ろしい考えがよぎる。
(……敵も……同じことを……まさか……あり得ない……)
「オウルβ!」
「ドローンの映像を見ろ、オウルβの居る隣の地面、弾痕が幾つもある。
何だあれは? 元からあったか?」
「解析結果……SCRバレットの着弾痕と思われます。今ドローンを向かわせています。
……識別情報無し。
我々の狙撃チームが使用しているSCRバレットではありません!」
「そんな馬鹿な! SCRライフルは国家機密……」
(敵も同じなら……敵も位置を変えている……。
……そうだ……落ち着け。
そもそもここは日本、俺達のフィールド、利はこちらにある
……もしも敵に時間の余裕があったなら、兵員輸送ヘリから降下中の俺を狙う。
恐らく敵の繰り返しの時間からの猶予、最短時間はさっきの狙撃タイミング。
そして徒歩での移動で変えられる位置、距離には限界がある。
元々大型トラックに乗って来たのなら、それで移動するはずだ)
「管制室!」
「オウルβ、まさに神回避だったな。元の待機場所は……」
「今すぐ今から言う地点の監視カメラ類、ドローンの撮影映像を解析させろ!
敵の上陸地点から核融合発電所までのエリア、横は幅2キロまでの大型トラックの移動場所、停止場所の情報を……10分前からさかのぼって割り出せ!
そして俺に同期しろ!」
「大型トラック? 大型トラックと言ってもそんなもの幾つも種類もあるし、それだけのエリア、この都市部、何台走ってると思ってる!?
それより狙撃に移るんだ!
発電所内に敵兵が地下から乗り込んで制圧しようとしているのを確認した!
他のスナイパーはその排除を行っている最中だ!」
「それを言ったのは俺だろう? いいから大型トラックの情報を集めて俺に送れ!」
「…………分析班! 聞いたか? 大型トラックを探れ!」
俺はの部屋の壁に立てかけられていた梱包用の緩衝材シートロールを手に取ると、床に寝かせたSCRライフルと共に自分も横になり包まって全身を隠した。
再び2発ほど、外でSCRバレットの着弾音が聞こえ、自分の居るフロアの窓際と廊下のガラスも同時に割れた後、廊下の奥で着弾音が響く。
(奴は一体、自分の狙撃の成果をどうやって確認している?
ここら一帯を飛ぶドローンは全て味方のもの。
制空権は取っている。
敵のものが飛んでいれば即座に撃墜するはず。)
さらに6発、SCRバレットのソニックブームの炸裂音や着弾音などが聞こえ、しばらく静かになる。
(……8発……、敵のSCRバレットのワンカートリッジ、フルチャージは恐らく8発だ!
「オウルβ、敵の上陸地点から発電所までのエリアの大型トラックの運行記録の解析情報を送る。
……で、どうするつもりだ?」
デフィはヴァイザー越しに俯瞰マップを表示し、縦に並んでリストアップされた車両名のARパネル状で指で順番に上からなぞって行く。
デフィの指が当たる車両名が変わるごとに、俯瞰マップ上の時間別移動ルートを示す水色のグラデーションのラインが切り替わっていく。
その間にも再びSCR狙撃の第三ウェーブが始まっていた。
窓の外で断続的に着弾音が響く。
そしてある車両でデフィの指が止まる。
そのラインは海岸沿いの道路を外部隣の町から移動して近づき、敵の侵入地点から左折してしばらく発電所方向へと移動、50メートルほど移動すると再びルートを変えて元来た方へ移動し、地下ハイウェイへと潜り込む道路、トンネルの途中で停止していた。
(これだ! そしてお前のトリックは見破った)
デフィがSCRバレットのブレイン情報のリフレッシュをしている間、外で7発目の着弾音が響く。
デフィは素早く梱包ロールを解いて立ち上がり、割れた窓の外に向けてSCRライフルを載せて固定する。
8発目の敵のSCRバレットが音速で空を裂く音が響き渡る。
だがデフィは姿を窓の外に、大きなSCRライフルを構えてさらしたまま動かない。
……そして、着弾音も無い。
(お前は今まで、最後の弾を偵察に使っていた。
この一刻も惜しい状況、お前は情報のロスとさらなる無駄な打ち込みよりも、確実な次の一発を取る!
俺がお前の位置を特定などしていない……そう考えてな)
デフィは引き金を引いた。
***
薄暗いトンネルを抜け、ビルの3階から外へと飛び出す。
空中で軌道を変え、巨大なビルとビルの間を上昇しながら突き進む。
周囲に浮かぶのは静止した無数のドローン。
俺はその間を抜けて上昇、核融合発電所の上空50メートルを超える。
さらに前進して右へと軌道変更。
緩やかなカーブの道路に沿って進む。
道路は途中から沈み込み、地下へと潜るトンネルに消えている。
俺は高度を下げてトンネルに突入する。
黄色い電灯の灯るトンネルを進見続けると、大きなトラックが見えてくる。
トラックはこちらに箱状の荷台の入り口を全開放しており、そこには一人の兵士が片手にホロスクリーンデバイスを持って見つめて静止していた。
隣の床には見たことのないSCRライフルが設置、固定してある。
俺はぐんぐん近づき、バイザーで鼻から上が隠された男が口を半開きにして見つめているホロスクリーンデバイスを見た。
そこには、割れたビルの窓からカメラに向けてまっすぐSCRライフルを構える俺の姿が映っていた。
俺は男の顎の下から脳天へ突き抜けるような軌道を取る。
男の剃り残しの青髭の残るあごがどんどん近づく。
***
「オウルβ、一体何を撃った?」
「ドローンで地下高速に潜り込むトンネルを確認しろ。
今すぐにだ!」