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第一話「SCR狙撃」

「2115年、アンドロイドの救世主」の登場キャラクター、デフィの物語です。

まだ本編活躍は少なめですが、後ほど物語に絡んでくる予定です。

「……おい、おいっ!」

「……」


 兵員輸送ホバーヘリの中でデフィはうたた寝状態から目覚めた。


「どうした? 酷く疲れた顔をしているな」

「そうか?」


「任務の前にそんな状況で大丈夫か?」

「問題ない」


 西暦2111年。

 山口県の核融合発電所から10キロ離れた地点に、正体不明の兵士集団が潜水輸送艦から上陸した。

 兵士集団は市街地を警官や国防軍の地区方面隊と戦闘を行い、制圧を繰り返しながら核融合発電所へと着々と進軍している。

 デフィ達、特殊部隊20名はそのカウンターとして緊急出動したのである。

 機内のパイロットルームの後ろに居た新井隊長が隔壁のドアを開けて体を乗り出して叫ぶ。


「あと5分で作戦空域に到着する。全員バイザーを装着しろ!」


 機内後部の待機ルームで、2列になり向き合って座っていたデフィを含む隊員たちは素早く頭部を覆う特殊なヘルメットを装着した。

 デジタルな視界に切り替わり、無数のインフォメーションの文字列が視野の端を登っていく。

 新井隊長もコックピット後部でバイザーを被りしばらく沈黙したあと銃を構えて口を開く。


「管制室! ファントム・ハンズの21名全員準備完了です」


 特殊部隊の行動は基本は部隊長が判断し、ここの状況は訓練された隊員が対応する。

 だが根本の戦略を組み立てて指示するのは各種軍事情報が集約され、政府と直結した管制室である。

 管制室から隊員全員に指示が流される。


「マップ情報を確認してください。

 上陸した所属不明の兵士達はウォーキング・セントリー数十体と共に市街地のビルを縫うように進軍中です。

 また、上陸艇には対空装備を確認。

 偵察ドローンが12体、撃墜されています。

 接近し過ぎれば対空攻撃の可能性がある為、目的地の北北西、3キロのサークルエリアで降下を行ってください」


 各隊員のバイザー越しの視界には3Dのマップ情報が表示される。


「問題なく展開に成功した場合、予想される最速の敵との遭遇可能性エリアは核融合発電所の第二障壁。

 敵が中を制圧した状態となります。

 ただし不確定要素が多く、相手がセキュリティロボ群の抵抗で時間を浪費した場合、我々が先に発電所内を確保出来る可能性もあります。

 間違いのない、迅速な行動を心掛けて下さい」


 唇を噛んでマップを眺めていた隊員の一人が呟く。


「分が悪いな……。市街地用のセキュリティロボと軍用のウォーキング・セントリーじゃ戦いにすらならない。

 時間稼ぎにもならないだろう。

 敵の方が早く着くぞ……」

「オウルα、オウルβ、クロウα、クロウβはSCR-X2を装備し、予備弾薬を3パック携帯してください。

 オウルαはこの夕凪ビル10階の渡り廊下に展開してください。

 既にビルのセキュリティシステムを確保済みで、エレベーターは我々のコントロールで動作します。

 展開後最大限の警戒をこちらで行います。

 衛星情報とリンクし、ウルフチームの支援をSCソニック・コントロール狙撃で行ってください。

 オウルβは……」


 SCR-X2。

 ソニック・コントロール・ライフルと呼ばれ、弾丸に搭載されたチップに、狙撃手のブレイン情報をコピーして音速で射撃する。

 弾丸はマッハで飛行するが、内臓チップ内の狙撃手のコピーブレインが超高クロックのCPUによる判断で、弾丸をコントロールする。

 この弾丸には狙撃手の魂が乗り移ったように、意思と判断力を持ちながら、超スローで世界を捉え、ビルの間をジグザグ飛行しながらターゲットに命中する。

 弾丸にコピーされたブレイン情報が、着弾の瞬間、死の恐怖を感じているという疑惑が報告されたが、少なくとも熟練した狙撃手の撃つ弾丸が異常行動をしたことは無い。

 ……異常行動をするような狙撃手は振るい落とされているとも噂されているが……。

 なお、狙撃を行った本人と弾丸は完全に別なので、狙撃手が弾丸の視界や思考を知ることは無く、処理速度的にそれは不可能である。

 もちろん、狙撃手はSCR狙撃の為、自分が弾丸に備えられた特殊レンズの視点になってコントロール、障害を回避しつつ目標に着弾するトレーニングもシミュレーターで行っている。


「……以上。狙撃チームは目標地点に到着後、速やかに弾丸へリンクし、全弾丸のブレイン情報のリフレッシュを行ってください」

「あ――あ――。まぁた俺の分身が何人も死ぬよ。

 狂ってるよなぁ?

 このライフル。なぁデフィ」

「お前も承諾したんだろ。狙撃チームに入り、脳に手術を加える契約に。

 今さら何言ってる」


「俺はレールガンのが好きなんだよなぁ。ドカンと戦車を撃ちまくりたいぜ」

「核融合発電所の近くで撃つ馬鹿が居るか」

「目標地点まであと20秒。総員低高度降下に備えて下さい」


 隊員たちは全員、自分の持つ装備と、腰に大きなベルトのように備え付けたホバリングデバイスのチェックを行う。

 隊員達の座っていた椅子が後ろの壁引き込まれ、一人一人の床下が直径1.5メートルほどの丸いエレベータのようにゆっくりと下へ落ち、全員腰までが隠れた状態になる。

 隊員達は全員両手を胸でクロスして体に密着させた体勢を取った。


「ステータス、オールグリーンを確認。後部側より順次降下に備えて下さい。

 5、4、3……」

「デフィ、今回はお前のスコアを超えてやるぜ。

 くっくっく……」

「さっさと行け」


「2、1、射出開始」


 待機ルームにて10人、2列に並んで座る隊員が1秒間隔で後ろから二人ずつ、床下へ落ちるように姿を消していった。


「忘れんなよデフィお前……ひゃっほぉぉぅ――!」


 うざったい隊員がふざけた叫び声と共に下へと消える。

 1秒後、デフィも射出された。


 ***


 隊員達は兵員輸送ホバーヘリの底面から射出され、ビルとビルの隙間、高度300メートルの高さから点々と落下していた。

 デフィの視界もホバーヘリ内部から、一瞬でビル群の間の空中へと変わる。

 だが、5秒ほどで腰のホバリングデバイスが稼働。

 急激な加重を与えつつ落下速度を落とし、ゆっくりと隊員達を地面へ運ぶ。

 隊員達は地面へ着地するとホバリングデバイスのスイッチを操作し、その場に脱ぎ捨てて走り始める。


「隊員全員の無事降下を確認。フライングバロンは索敵補助の為、ドローンビット6機を射出してから3キロ後方へ離脱して下さい。

 各隊員のバイザーに目的地への最短ルートを表示します」


 デフィ達を運んで来たホバーヘリは、人ほどの大きさの、ブーメラン型の偵察ドローンビット6機を一気に射出して、Uターンをして帰っていく。

 小型のパレットガンを構えてあちこち警戒しながら前進するデフィの頭上30メートルほどをドローンビットは飛んで追い越し、先行した。

 デフィのバイザーにAR表示された警戒ポイントの表示が次々とブルーに変化。

 デフィは前進速度を上げた。


 ***


 5分後、デフィは空中歩道の地面から3層目、原発からは大きなビルを挟んだ逆側の地点に辿り着いた。

 デフィの移動目標の狙撃地点である。


「オウルβ。目標地点に到着した」

「オウルβへ戦況情報です。

 敵は核融合発電所の第一障壁の外を進軍中。

 各警察署や駐屯地から原発へ集合させたドローンビット群への対処で想定よりも進軍が遅くなっています。

 戦況分析コンピュータはウルフチームが先に制圧出来る可能性は高いと判断しています。

 バレットのブレイン情報のリフレッシュ後、即座にSCR狙撃での攻撃を行ってください。

 狙撃対象としての優先目標を同期します。」


 デフィのバイザーに管制室から送られた戦況情報が映し出された。

 空を無数に飛び交う索敵ドローンが収集、集約した地形と敵の位置、そして作戦指令室が判断したデフィ向けの攻撃目標である。


「情報を確認把握した。これよりSCRバレットのブレイン情報のリフレッシュを開始する」


 デフィは肉体改造で首に付けられたコネクタにケーブルを装着し、もう片方をショルダーバッグのように担いでいた、弾丸が格納されたケースへ接続した。

 リフレッシュ状態の進行度ばバーで表示され、100%になる。


「同期完了。SCR狙撃を行う」


 デフィはビルの壁面にもたれ掛かるようにして地面に座り、両ひざを立てて開き、踏ん張る。

 さらにSCRーX2と呼ばれる身長ほどもある巨大なライフルを地面に垂直に立てて、抱きかかえるようにして構えた。

 そしてデフィは引き金を引いた。


 ***


 薄暗いトンネルの先に、曇りがかったぼんやりとした白い空が見える。

 次の瞬間、トンネルの先へと進み始め、どんどん加速する。

 一気にトンネルの外へと飛び出し、周囲には沢山のビルが見えた。

 高度500メートルを超えるビル群の隙間を空に向かってぐんぐん昇る。

 だが途中から斜めに軌道を変え、ビルの側面へと抜けた。

 ゆっくりと角度を水平にしながら、デフィがもたれていたビルの側面から原発の方へと移動する。

 無数のドローンビットが空中を埋め尽くすように静止している。

 実際は微妙に動いているのだが、弾丸の視点からすれば静止しているのとほとんど変わらない。

 一つ一つのドローンビットが国防軍の物、警察の物、味方であることを確認し、その一つ一つに衝突しない様に軌道を変えてさらに進む。

 高さ300メートルの巨大な障壁がグングン迫る。

 核融合発電所の一番外側、第四障壁である。

 その上を飛び越えてさらに第三障壁、第二障壁、第一障壁の上を通り抜ける。

 まだ敵の姿は無い。

 核融合発電所の施設を見下ろしながら飛び越え、今度は反対側の第一障壁を超える。

 そこには十何人かの重武装した兵士と、随伴するウォーキングセントリーの姿があった。

 セントリーは全て空中を飛び交うドローンと交戦中。

 ゆっくりと弾丸があちこちを登っていく。

 地面を歩いて進む兵士達のいくつかの銃口から発射された弾丸はゆっくりと直進しているものの、兵士の動きは静止しているも同然である。

 もっとも先頭を進み、ゲートへ攻撃を行おうとしている兵士に狙いを定め、進行方向を地面側へ徐々に変更。

 兵士のヘルメットのトップへとぐんぐん進む。

 そして兵士のヘルメットに付着する埃や小さな傷が見えるほどに接近した。


 ***


 デフィが垂直に構えたSCR-X2が轟音と共に火を噴く。

 そして激しいソニックブームの音がビルとビルの間に響いた後、核融合発電所の裏側、第一障壁のゲートを攻撃しようとしていた兵士の頭頂部が撃ち抜かれた。

 兵士の頭は炸裂し、胴体が肉片と化す。


「こちらオウルβ、戦果情報を求む」

「オウルβへ。目標に命中を確認。次の目標を指示します。

 即座に次のSCR狙撃を試みてください。

 状況は逼迫しています」


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