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待てない待ち人

作者: よしはらゆうみ

 私は待つということが苦手だ、なぜならとても退屈だからだ。

 私は、今待っている。もうかれこれ二時間も待っている。息が白くなる寒さの最中、外で待っている。

 本当は喫茶店あたりで温かいコーヒーでも飲んで待っていたいが、友人が外で待っていろと言うので、仕方なく外で待っている。

 この二時間で私は、時計を何回見ただろうか、何回見ても前見た時より少ししか動かない時計に苛立ちを覚えつつも私は外で待っている。

 そもそも、私が張り切って一時間も速く来てしまった事が長い時間待つことになった原因なのだが、しかし実は相手にも原因があり、三十分前に一時間くらい遅れると電話を入れて来たのが原因のもう一つである。

 時間にルーズな人間は人としてどうなのかと思うが、しかし、友人同士の約束。多少雑な約束になってしまうのも事実であり、仕方がないことなのでは無いのかなと思っている。

 私も友人との約束をすべて正確に守ることはできてはいない、そして遊びの約束をそこまで正確に守り過ぎるのも、友人関係を長続きさせるためにはあまり良いことではないのかもしれない。

 本当は多少、遅れたことに対して友人を責めたい気持ちもあるが、連絡を貰ったので遅れることについて咎めないようにしておこう。

 お互い、仕事で咎められてばかりだ、こんな時くらいはストレスフリーな状態でありたい。

 そんなわけで今現在、外で待つというストレスを抱えている私をストレスから開放するため、友人に一通のメールを打っておく、内容は待ち合わせ場所を今の待ち合わせ場所から近い喫茶店に変更する。という内容である。

 友人も遅れてくることに多少なりとも申し訳ないと思っているだろうし。これくらいのことは私の独断で決めてもいい。と、自分に言い聞かせメールを送信する。

 メールを打った後、携帯をしまい、喫茶店を目指していると。ぱらぱらと雪が降ってきた。

 今は十二月、雪が降るのも決して珍しいことではないが、待ち合わせ場所を変えたと同時に雪が降るということに、私はなんだか少しラッキーだと思った。

 私はうまく雪から逃げるように喫茶店に入った。

 喫茶店に入るとウエイトレスが、

「いらっしゃいませ。」

 と元気な声で迎えてくれる。その後に、

「お一人様でしょうか、当店は全席喫煙席となっております、お好きな席へどうぞ」

とウエイトレスがこれまたハキハキと説明してくれる。

 今の時代、全席喫煙席とは珍しい、まあそれが目当てでここに入ったのだが。

 私はヘビースモーカーとまではいかないが、愛煙家だ、それもとても年季の入った愛煙家だ。

 そして私はウエイトレスに言われたように好きな席に座った。雪が降るのが見える、窓側の席だ。

 ジャケットのポケットから煙草とライターを取り出していると、さっきのウエイトレスがおしぼりとメニューを持ってきてくれた。

 私くらいの歳の人間はおしぼりで顔を拭くなんてことをする人間も多いが、私はしない。歳はどう頑張っても取っていくが、せめて立ち振舞だけでも若く立ち振舞をしたいからだ。まあ今が冬であるため、冷たいおしぼりで顔を拭くのは顔が余計冷たくなるという理由もあるが。私はあくまで、若い立ち振舞をしたいという理由で顔を拭かないのだ。

 とりあえずホットコーヒーは頼むとして、何か食べたい。メニューを開くと、ある一つのケーキがとても魅力的に見えた。私は迷うこと無くそれを頼むと決め。注文お願いしますとウエイトレスを呼んだ。

 ウエイトレスは元気な声で返事をしながらこちらに来た。さっきと同じウエイトレスだ。

 「えっと、ホットコーヒーとガトーショコラを。」

 魅力的に見えたケーキはガトーショコラだ。

 私は甘いものも好きだ、しかし甘すぎるものはあまり得意ではない、あんこのような逃げ場の無い甘味は苦手だがガトーショコラならいい感じの苦味と甘味で私の舌を癒やしてくれると思ったのだ。

 ウエイトレスが私の注文を紙に書き、読み上げ確認した後、厨房の方に消えていった。

 私は煙草に火を付けた。ハイライトの独特なラムの香り、煙草の中でもかなり多い煙が私の目の前を白く染めていく。窓の外も雪がぱらぱら降っており景色を白に染めていく。

 私はコーヒーとガトーショコラを待つ間少しだけ今日会う友人のことを考えた。大学の時の友人で会うのは十年ぶりくらいになる。

 私は十年という時の速さに驚きを覚えた。そうかあの時の同窓会からもう十年が経ったのか。

 そんなことを考えながら煙草の煙を三回ほど肺に入れたころ、ウエイトレスがホットコーヒーとガトーショコラを持ってきた。

 ミルクと砂糖を貰い、ウエイトレスが、

 「ごゆっくりどうぞ。」

 とニコッとするとまた厨房の方に消えていく。

 私はとりあえずホットコーヒーを一口飲んだ。少々の酸味と香ばしい香り。そして苦いだけではない苦味。これがコーヒーの良さだ。そしてここのコーヒーはとても私の口に合う。このコーヒーと煙草を堂々と吸うためにリピーターになってしまいそうだ。

 さてもう少しコーヒーを飲み、ガトーショコラに臨む、シンプルなガトーショコラだ、生クリームが乗っているわけでもなく。ただ表面に薄く砂糖が振るってある、まるで今の外の景色のようだ。

 そしてこのガトーショコラ、見た目どおりの味であれば私好みのカトーショコラになっているであろう。

 フォークで三角形の頂点を削り、一口目を口に入れる。うん、これは私好みの味だ。甘みがしっかり存在しているが、しつこくない甘さだ。それに甘みだけではない、カカオの独特の苦味や風味もしっかりある。

 一口目を味わった後、四角形になったガトーショコラをまた三角形になるように削り食べ、今度は四角形に削るように食べ、それを繰り返していく。そして口がチョコでいっぱいになったら、コーヒーで口をリセットする。

 これは至福のおやつの時間だ。

 しかし、これだけ美味しいコーヒーとガトーショコラを出す喫茶店というのに客が私しか居ない。やはり、今時全席喫煙の喫茶店はあまり好かれないのだろうか。

 丁度ガトーショコラを食べ終わった頃。店のドアが開きウエイトレスがいらっしゃいませとこれまた元気な声で出迎えに行った。

「あのーここで人を待たせて居るんだけど。」

 聞き覚えのある声だった、私は席を立ち、ウエイトレスとその客の近くまで行き、

「おお久しぶりだな、この野郎、遅刻しやがって。」

 私は少しにやけて言った。

 「こちらのお客様がお待ちの方でしょうか」

 ウエイトレスが少々困ったように言うので

 「ああはい、すいません。」

 と私が少し謝りをいれ彼が「お待ちの方」であることを言う

 「かしこまりました、ではご一緒の席でよろしいですね。」

 とウエイトレスが言うので、はい。と答え私が座っていた席に移動した。

 待つということは退屈なことが多いが今日はとても楽しく待つということができた。

 外は雪の振り方が強まり積もりそうな振り方になっていた。






ちょっと前に書いた掌編です。

季節感が今とぜんぜん違いますが冬の寒さを感じていただきたいと思います。


なんでも良いので感想お待ちしております。

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