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第2話 甲羅を纏った狼


 その日、陽も沈み暗闇が濃くなってからシンとギン他3名とシバと他犬2匹が山の中に分け入った。先頭に立つシンとシバは他の仲間に聞こえないよう囁き声で会話をしていた。

「やっぱり、止めようよ」

「そんなに危険なの?」

「多分、多分だけど狂った狼がいる」

「狂った狼?狂ってなきゃ、大丈夫なの?」

「そうじゃないけど、僕が怪我したのも、その狂った狼のせいだと思うんだ」

「シバはその時のこと覚えているんだ?」

「薄らとだけど、確かお腹が空いてお乳を飲もうとした時だと思う」

「え、それなら狂った狼って、シバのお母さん?」

「違うと思いたいけど、そうかもしれないし、兄弟かもしれない」

「わかった。それ確かめてみよう」

「確かめるって?」

「シバのお母さんに会うんだ」

 目的を持ったシンは俄然やる気が出てきたが、それに引き換えギンたち4人は今にも引き返そうかという態だった。シンは不思議とそこにあるものなら、あまり怖いとは感じず例えそれが狼でも幽霊でもかまいはしなかった。幽霊がそこにあるのか、わからないが見えるものならあるのとかわりないというシン流の解釈だったのだ。松明を点けると狼が逃げるというギンの意見だったが、今一番松明が欲しそうなのはギンのようで、いつ帰ろうと申し出てもおかしくなかった。暗闇の中、シバの案内で太い尾根に辿り着いた一行は狼の痕跡を探してみたが、人にはできない相談でもっぱらシバがその役目を担っていた。あまり熱心に探さなくてもいいよというギンの願いも虚しく、ついにシバは1頭を見つけてしまった。見つけたのは向こうも同じで、その1頭は直ぐに姿を眩ましたが、それは仲間に知らせにいったのかもしれない。と、その時けたたましい遠吠えが聞こえてきた。

「集合の知らせだ」

「皆集まってくるの?」

「そう、でもまだ臨戦の知らせじゃない。今の中に山を降りれば助かるかもしれない」

「ギン、皆を連れて山を降りて」

「シンは?」

「僕はシバのお母さんに会う」

「シバがいなくて、どうやって山を降りるの?」

「松明点ければ降りられるよ」

「迷ったらどうするの?」

「それは…迷っちゃいけない。とにかくここで別行動にしよう」


 松明を点けたギンたちは山を降りて行ったが、幸いにもその後を追う狼は2、3頭しかいなかった。ということは群れの残りは全部シンたちに向かっていることになる。

「シバ、どうしようか?」

「どうしようかと言われても…知り合いは1頭もいないし、打つ手無しですね」

「そか、それほど切羽詰まっているのか」

 狼が次々と現われているようで、シンには見えないがシバが逐一報告してくる。

「もういいよ。これ以上1頭や2頭増えたって変わりはしないよ」

切羽詰まっている割にシンは平然としている。何か打開策があるようにも見えないが、ただ運命を受け入れているだけなのだろうか?

「シバのお母さんに会いたいね」

シンはただそれだけを思っていたのだ。

シバの思いは「ボスを倒せればなんとかなるかもしれない」で、可能性としては極めて低いと思われた。


 そこへ前に進み出てきた1頭がいた。

「そこにいるのは人か?人なら母さんを返せ!母さんを元に戻せ!」

「え、どゆこと?シバ、詳しく聞いてみて」

「そこにいるのは、この群れのボスさんとお見受けしますが…」

シバが質問しようとすると、

「その匂いはローか?ローではないか?」

「???」

「生きていたのか、ロー」

「???」

ようやく、シバにも事情がわかってきた。

「もしかして、お兄ちゃん?」

「そうだ。お兄ちゃんだ」

群れのサブリーダーと思われる1頭が、口を挟んできた。

「若頭、そこにいらっしゃるのはどなたで?」

「俺の弟だ、しかし人と一緒とは解せん」

「この人は僕を助けてくれたんです。悪い人じゃありません」

「う~む。悪くない人がいるとは…俺にはわからん。お頭のところへ連れて行こう」

こうして、シンは取り敢えず難を逃れたようだが、まだ安全と決まったわけではない。


「お頭、ただ今戻りました」

 お頭は老狼で、立ち上がるのもようやくといった状態だった。

「おーそかそか。ん、そこにいるのは人か?」

「へい、なんでも悪くない人だとかで。人のことならお頭に聴いてみようと思いやして」

「おーそかそか。ん、悪くない人?確かにわしの飼い主は悪くない人じゃったが…」

この老狼は、遠い昔人に飼われていた犬だったらしい。どのくらい昔かはこの老狼は覚えていないようだが、それはそれは遠い昔のようだ。

「いい人か悪い人かはわしにもわからん。お前たちが決めろ。だが、お前の母親を元に戻す方法を聞いてから決めるがよかろう」

「おい、人。母親を元に戻す方法を教えろ」

「???」

そう言われても、シンには事情が掴めない。

「お兄ちゃん、事情を話して」

「そか、かくかくしかじかで母さんは甲羅を背負って息も絶え絶えなんだ」

「なんだって。シンそういうことのようだよ」

「結論はわかったけど、かくかくしかじかがわからない」

「話すと長くなるかもしれないが、いいか?」

「いいよ」

「それよりお兄ちゃん、お母さん狂ってないの?」

「当たり前だろ。でも、時々発作を起こす。俺の右目も母さんの発作でやられた。お前の行方不明も発作のせいだ。3人の妹は発作でやられてしまった」

「治す方法は?」

「それをこの“人”に聴こうとしている」

「シン、治せる?」

「そんな出来ないよ。ん、遺伝子操作」

シンが知るはずもない言葉が飛び出した。シンは何者なのだろうか?


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