第4話
「さあ~て、オレはユヅキの珈琲が楽しみで来たんだから、うんと美味いのを落としてもらおうかな」
画面が消えてポッカリとした空気が流れたところで、ブライアンが言い出した。
「あ、いいな~、オレもオレも~」
怜がハーイと幼稚園児のように手を上げて言う。璃空は苦笑いして、柚月に目配せを送る。柚月はそれにかすかに頷いて、
「いいわよ。あ、そう言えば、この前焼いたラングドシャがあるの。それもついでにつけてあげるわね」
と、思い出したように言う。
「お、ひっさしぶりだな、今澤ちゃんのラングドシャ! 会社にいる頃よく焼いてきてくれたよねー。すんごく美味いんですよ。ねえ、知ってます? 指揮官?」
「あたりまえだろう」
「うへっこれはこれは、食べる前からごちそうさまでした」
怜が手を合わせて璃空をおがむ仕草などするのを笑って見過ごして、柚月はキッチンへと立っていった。
「あっははー、璃空くんに礼を言われちゃったよ」
こちらはパソコンの電源を落としながら、冗談めかして言う忠士。
「バカね。なんでいつもそうなの?あんな態度ばっかりとってたら、そのうち本当に口も聞いてくれなくなるわよ。好きならもっとちゃんと協力してあげれば良いでしょ?」
「俺に素直なよい子ちゃんになれってぇ~? あームリムリ。特に璃空くんはからかうと面白いんだもんね。なあんかさー、顔見るとついついいじめたくなっちゃうの」
そうなのだ。忠士は初めて会ったときから、璃空に対してはなぜかからかい口調で話しをしてしまっていた。嫌いなわけではない。いやむしろ…
惚れちまったんだよなきっと。
璃空は強烈な個性もカリスマ性も持ち合わせてはいない。だが、うまく言い表せないが、彼には人をひきつけて、惚れさせてしまう何かがあるようだ。男女を問わず。
まあそれを一般的にはカリスマ性と呼ぶのだろう。しかしなぜか璃空に対してはそんな俗っぽい言葉を使いたくない。
これは重傷だね、まったく。
するとタミーが少し嫌味をこめた口調で言う。
「好きだから素直になれない?じゃあ、私の前ではいつも良い子でいるから、私のことは好きじゃないのね」
そんな彼女を驚いた様子で見つめていた忠士が、そっとその身体を後ろから抱きしめて耳元でささやく。
「バカだな、好きと愛してるは違うんだよ」
愛してる、ね。
ふっと微笑みつつ、タミーはとりあえず今の状況を口にする。
「はいはい。でも私、昨日本部で携帯食食べてから、何も食べてないのよ。実際お腹ぺこぺこ。だから何か食べに行きましょ。うんと美味しい物ごちそうしてくれるわよね?」
「かしこまりました、お嬢さま。それでは最上級のレストランにご案内いたしましょう」
一度離れてうやうやしく頭を下げ、忠士はおもむろに腕を差し出す。タミーがその腕に腕をからめて、二人は楽しそうに笑いながら部屋を後にした。