第3話
「‥‥悪魔?」
誰もが不意を突かれたように黙り込んでいたが、璃空が最初に立ち直って魯庵に聞く。
するとそれを合図に魯庵は先を話し出す。
「ええ、なぜあちら側にいるのか見当がつきませんが。なるほど。悪魔がいるなら自分の意志で動けなくなるのもわかります。たぶん術をかけられたのでしょう」
「というと?」
「こちら流の言い方で言うと催眠術とでも言いましょうか。でもおかしいですね、術をかけたのなら、私が気づかないはずはないのですが」
魯庵が首をひねったそのときだった。
「呪文のようなものなら、オレが聞いたよ」
そう言いながら部屋に入ってきた男が言った。
遅れてきたブライアンだ。さっきインターフォンが鳴り、柚月がそっと立ち上がったのを璃空は横目で見て知っていた。
「呪文?」
「ああ、それなら私も聞いたわ」
タミーも言い出す。
こちらはあのあと、「ちょっと席をはずすわね」と璃空たちの返事も聞かずに画面から消え、さっさとシャワーでも浴びてきたのだろう、濡れた髪をタオルでぬぐいながら言う。
「あのときね。たしか魯庵が、負傷した第3チームの子をかかえてスポットから出ていったあと。まるで魯庵がいなくなるのを待っていたようなタイミングだったわ」
「ああ、そうだった」
魯庵は魔物の力で、軽い負傷ならその場で応急措置できる。ただ、戦闘しているところでは皆の邪魔になるため、一度スポットを出ていく事が多い。
「それなら納得がいきます。でも貴方たちは呪文を聞いたにもかかわらず、平気だったのですね‥‥どんな呪文か少しでも覚えていますか?」
「いや、申し訳ないが」
ブライアンが答え、画面の中ではタミーが肩をすくめて首をふっている。
「わかりました。でもこれで一つは謎がとけましたね」
「ああ、いきなりおかしな動きをする訳はな。ただし、なぜエスが彼らを連れ去ったのかはまだわからない。‥‥‥」
璃空はそう言って少し考え込む様子だったが、しばらくすると顔を上げて言った。
「皆、時間をとらせてすまなかったな。今日はこの間のミッションで気づいたことがないかを各人に確認して、何かあればそれをもとに今後の方針を立てようと思っていたんだ。だが今回は、期せずして広実の情報で意外なことがわかった。これで少しは対策の立てようもある。広実、お前のお陰だ、礼を言う」
と、パソコンの画面に向かって頭を下げる。その顔は少し悔しそうだが。
「へっ?ああー」
忠士は一瞬キョトンとした顔をしたが、なぜかあらぬ方を向いて頭をガシガシかいている。そしてタミーに替われと言うように彼女を画面の前に押しやった。
「悪魔が相手なら、魯庵と相談するのが一番早いか。……広実、すまないがさっきの映像を俺のパソコンへ送ってくれないか」
「もうやってるわ」
「ああ、タミーか、さすがだな。なら、今日はそれが届いたあとは、魯庵と俺とで今後の方針を決めておく。こちらにいるメンバーは好きにしてくれてかまわないが、タミーは疲れているだろう、もうこの辺で通信を終わるぞ」
「よくわかってるじゃない指揮官。そうなの~もうヘトヘトよ。なあんてね……あ、画像送信終了。じゃあ私はこれでね。みんなもゆっくり休むのよ~」
タミーが色っぽくウインクなどをしたあと、通信が途絶えた。