第2話
「お前も知っていると思うが、最近エスはたまにチームの人員をあちら側へ引き込むようになった」
忠士が言う。
「ああ」
短く答える璃空。
「それで、俺のチームは好都合とばかり要員を戦闘員に紛れ込ませていたんだ。だが」
そこで一度話を切って、少し考え込みながら話す忠士。
「どうやらエスは、引き込む人間を選別しているらしい」
「選別?」
「ああ」
今度は璃空が考え込む。そして、おもむろに言う。
「どういう基準で選別しているのか」
「それが皆目わからないんだ。だからまだ第4チームは潜入には成功していない」
「それなら打つ手無し、だな」
璃空が冷たく言うと、画面の向こうで肩をすくめる忠士。
けれどその後ニヤっと笑い、
「そうだねえ~。じゃあもう璃空くんにはそのあとの話は教えてあげな~い」
さも面白そうに言う。
璃空は忠士のこういう人を小馬鹿にしたような所が嫌いだ。それも、なぜか璃空に対してが多い。だからなおさらだ。
「なら、言わなければ良いだろう。お前に聞かなくても、上に聞けばわかる話だ」
「あれ、指揮官ってば冷たいのね~。でもいいよ、特別に教えてあ・げ・る」
璃空はムッとして黙り込んだが、
「それはぜひ、教えて頂きたいですね。何があったのですか?」
「俺も俺も~。ヒミツとか大好き~」
魯庵と怜が横から割り込んでくる。
璃空が「お前たち!」と驚いたように言うと、忠士はまたおかしそうに笑った。
「ははは、指揮官は良い部下を持ってるねえ、うらやましい限りだ」
そう言って話し出す。
「例の音声画像転送装置。それをさ、開発チームに頼み込んでコンタクトレンズ型に改良してもらい、この間の第3チーム全員に装着させた。残念ながら画像のみになってしまったが。そして、お前も知っての通り引き込まれた人間がいただろう? そこから画像が送られてきた。それがこれだ、こいつはまだ上層部しか見ていない」
言いながら忠士はパソコンを操作しているようだったが、いきなり空中に画面が増えて、少し画像の悪い映像が映し出された。
『天井が写っている。
しばらくすると、起き上がってまわりを見渡しているような画像。
それがある一点で止まる。そこには何人かの人間がいる。これも女性ばかりだ。
こちらに気が付いた一人がやってきて、なにか会話をしているらしいが、残念ながら音声はない。
拘束されているような様子はない。逃げようと思えば簡単に逃げられそうな状況なのに、なぜかその場で固まったように話を聞いている。
どのくらいそうしていただろう、かなり長い話だった。
すると、ふるふると首を振ったような映像になり、そのままうつむいて自分の手のあたりが写る。そうして画像が乱れて、しずくがボタボタと手の甲とシーツに落ちていった。どうやら泣いているらしい。何があったのだろう?
そのまま突っ伏そうとしたようだが、ふと何かに気が付いたように部屋の出入り口に目をやる。
そこには珍しく、若い男性が部屋を出て行く様子が写っていた。』
「?おや?」
画像を見ていた魯庵が小さくつぶやいた。
「広実さん。すみませんが、今のところをもう一度写して頂けませんか?」
「ああ、お安い御用。どのあたりだい?」
「最後に男が写った所を‥‥ああ、これですね。停止は出来ますか?」
「ほれ」
と言って、画像が止まる。
魯庵はしばらくその男を眺めていたが、
「少し不鮮明すぎるのと、小さいのとで確信は出来ませんが」
「それなら鮮明にして、拡大してやるよ」
忠士はパソコンを操作して男の顔を拡大し、画像解析をしているようだった。すると、だんだん男の顔が鮮明に見えてくる。それを見てうなずく魯庵。
「ああ、やはり」
皆の目が魯庵に集まる。
「彼は悪魔ですね」