第3話
「いいのよ白川さん。お休みと言っても、今日は特に用事もなかったし。それに…璃空と一緒にいられる時間が長くなるのは嬉しいし」
そう言って、ほんのり頬を染めながらうつむく柚月だったが、ふと思いついたように璃空に聞く。
「でも、対策会議をうちなんかでしていいの?なにか重要なことを決めるんじゃないの?」
「ああ、通常の対策会議なら、もちろん本部でするさ。けれど、今日はそこまで込み入ったものではなくて、ただ、第3チームの様子を見て、何か気づいたことがないか皆に聞きたかっただけなんだ」
3人はソファにそれぞれ腰掛け、テーブルにはパソコンが置かれている。
璃空はそれを立ち上げて、空中に浮かぶディスプレイにもう二人の部下を呼び出した。
バリヤ第1チームは5名で構成されている。
指揮官の璃空、メンバーの魯庵と怜。
あとの2名は、遅れて行くと連絡がはいったものと、そもそも最初からパソコンで参加すると言っているものと。
ディスプレイのひとつには男の横顔が大写しになる。どうやら車を運転しているようだ。
「ハロー、今向かってるよ。それにしても指揮官は相変わらず部下を酷使するね。今日くらいは休ませてくれてもいいのに」
「無理にこちらに来てくれとは言っていないが」
「いや、久しぶりにユヅキの入れる珈琲が飲みたくなった」
笑いながら言うのは、ブライアン・オルコット。第1チームで一番腕の立つスナイパーだ。
もう一つの画面にはベッドと盛り上がるシーツが写っている。
ごそごそとそれが動いたかと思うと、
「ううーん、うるさいわね。もうちょっと寝かせてよ」
と、色っぽい声が聞こえた。その声とはうらはらに、起き上がってしかめつらをしながらこちらを睨むのは、タミー・アヴリーヌ。第1チーム唯一の女性で、ライフルの名手。
「もうとうに連絡してあった会議時間だぞ。うちの姫より寝坊する奴がいる‥‥!」
そこまで言って、苦笑していた璃空の顔から表情が抜け落ちる。
タミーの美しい顔の横に、後ろから肩にあごを乗せるように笑いながら写っているのは、
「よお、相変わらず固い奴だな」
第4チームのボス、広実 忠士 (ひろさね ただし)。璃空にとっては天敵ともいえる人間だ。温厚な璃空がなぜか彼には突っかかってしまう。
「お前がなんでいる?」
「久しぶりに帰って来た恋人と、熱い夜を過ごしちゃいけないか?お前も同じだろ。そこにいるのは彼女じゃないのか?」
面白そうに言う忠士にムッとしながらも言い返せない璃空。けれど気を取り直してタミーに言った。
「タミー、今日は第1チームだけに話があったんだ。悪いが会議の内容はあとで報告する。お前は今日はゆっくり休め。では、切るぞ」
そう言って通信を終わろうとする璃空に、
「おや、せっかく第3チームのその後を教えてやろうと思ったのに」
と挑戦的に言う忠士。
「なぜそれを知っている?」
「うちのチームの実力をなめてもらっちゃ困るね」
第4チームは潜入部隊、いわゆるスパイを専門とするチームだ。
「Je suis désolé タダシには会議があるからってちゃんと伝えてあったのよ。でも、なかなか離してくれなくて。ちゃんと起きられなかったじゃない」
「それはあたりまえだろ?Parce qu'il aime 」
言いながらタミーの頬に口づける忠士。とぼけているが絶対わざとだ。璃空が送ったメールの内容をタミーに聞いたに違いない。
昨晩、眠り込んだ柚月の横で、対策会議を午後から行うと各人にメールしておいたのだ。
タミーは今までもパソコンで会議に出ることが多かったので、そのように返事が返ってきたときも、油断していた。彼女の恋人が忠士であるのは重々承知していたはずなのに。
「さあーて、それでは会議を始めましょうか、新行内指揮官?」