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バリヤ ~ barrier  作者: 縁ゆうこ
バリヤ第1チーム
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第2話



「うわー!ホントに指揮官、今澤ちゃんの所にいる~。あのねあのね、本部で報告終えた後、指揮官すんごく急いでたから、もう家に帰るんですかぁって聞いたら~」

 と、そこでちょっと言葉を切って、ムフーっとうれしそうに笑いながら怜が言う。

「いや、家へは帰らない、なーんて、カッコ良く言うんだもん。これは絶対!今澤ちゃんの所だよーって言ってたらぁ、みんなが違う違うーって。だからメールしておいたの。電話は我慢したんだよーさすがに。で、夜中に、明日は午後から対策会議だってメールがあってー。今朝になって電話がかかって来たからさ、対策会議は指揮官の家でするんですかって聞いたらぁ、今澤ちゃんの家だって!もう、サイコー!」


 部屋に入って璃空の姿を認めるなり、ひとり大騒ぎしている彼は、神足 怜 (こうたり れい)。

 バリヤ第1チームの一員だ。この優男が、実は、身体能力が璃空と向こうを張る程高く、銃も凄腕であるのは驚きだ。

 そしてもうひとつ驚くことに、彼は柚月と同じ会社で働いていた、元サラリーマンである。その人当たりの良さから、いつでもトップの営業マンだった彼が、なぜバリヤなどと言う戦闘集団に応募したかというと…

「カッコ良かったんですもん!指揮官!」



 そのころ璃空は、上の命令で、バリヤ隊員募集のコマーシャルに無理矢理出演させられていた。璃空の最後の抵抗により、深夜にしか放映されなかったそのCMをたまたま見ていた怜は、璃空の真面目で誠実な語り口調に「惚れた!隠れた男っぽさに惚れた!」んだそうだ。

 まったく何を考えているのやら…と、最初は思っていたが、偶然柚月と璃空を引き合わせたのもまた怜だった。


 一般応募の第1段階は、隠れた能力を発掘するため、いっさい規制がなかった。老若男女、それこそゼロ歳から百歳を超すものまですべてオールパス。

 そこに柚月をはじめとする勤め先の会社の面々が何人か、怜に無理矢理連れてこられていたのだ。「お祭りみたいなもんだからさ。いこーよー」などと言って。

 その言葉通り、会場はまるで体力測定と健康診断のお祭りのようだった。行きつくまではブーブー文句を言っていた会社の人たちも、遊びのようにスタンプカードを持って体力測定のブースを回るので、とても楽しいと大喜びだ。

 おまけに血圧測定や骨密度検査までしてくれる。が、それが応募者をふるいにかけるものだとは来場者は気づいていなかっただろう。

 この段階で、身体能力に異常な数値をはじき出した怜は、別室に呼ばれて面接を受けることになった。けれど怜は一人で行くのがイヤだとごねて、柚月ともう一人の同僚と三人で面接室に入らせてもらう。その時の面接官が璃空だったのである。


 今となっては、柚月は怜に感謝してもしきれないくらいだ。



「怜くん。いい加減にしなさい。柚月さんもお休みのところ申し訳ありません」


 もうひとり、礼儀正しく謝るその彼は、白川 魯庵 (しらかわ ろあん)。

 じつは、現在確認されている異次元世界はもう一つあり、彼はその世界からの来訪者。異界の魔物である。聞き慣れている名前で呼ぶとすれば、悪魔。

 ただし、魔物と呼んではいるが、彼らの基本的な性質は紳士淑女であり、また思考の次元が高いため、エスと違って争いは好まない。

 彼らはこちらの世界へは鏡を使って行き来する。そのためこちらの人間は向こうの世界に行く事は出来ない、完全な一方通行。


 魔物と呼ばれる種族は、かなり以前からこちらの世界へ出入りしていたらしいが、彼らは、ただ異世界を楽しむためだけに来るので、何の害もおよぼさない。そして、たいていは正体をばらすような真似はしない。

 ただし、彼らのなかにはこちらの世界が気に入って、ずっと住み続ける者もいる。人とのあいだに愛情が生まれて、そのまま一緒になるというパターンも多い。

 けれど魯庵の場合はそうではなく、たまたまこちらの世界に来たときに、柚月たちが参加させられた一般応募のお祭りが開催されていたからだ。エスに対してあまり好印象を持っていなかった魯庵は、ふとした興味からこのお祭りに参加し、当然ながら別室に呼ばれることになる。


 しかし、面接室に入り椅子に腰掛けてもしばらくは沈黙が続いた。

「………」

「?」

「………」

「?私の顔に何かついていますか?」

 魯庵は自分の頬をなでながら言う。

 このときの面接も、偶然、璃空が担当していた。

「あなたは…こちらの人間ではありませんね」

「ほほう。さすがに私と同じ血が流れていらっしゃる方は違う」

「やはりわかりますか。そう、俺の父親はヒューマンハーフです」

 ヒューマンハーフというのは、異界の魔物と人間の間に生まれた者の事を言う。

「ではお母様はこちらの?」

「はい、でも俺が生まれてすぐに亡くなったそうです」

「そうですか…」

 面接とは名ばかりで、威圧感もなく、なんのことはない質問を淡々と続ける璃空。なぜかそれが心地よく、つい、いろんな事を話したくなってしまう。気が付けば、随分時間が過ぎていた。こちらにもこんな人間がいたのですね。彼の場合、四分の一は私たちの血ですが。

 そんな経緯があって、魯庵も怜と同じく、璃空に「惚れた」うちの一人である。




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