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バリヤ ~ barrier  作者: 縁ゆうこ
最終章
33/35

第1話


「結局、ダフネは取り逃がしちまったな」

「ええ。でも、王妃の協力を得て必ず見つけ出しますよ」



 璃空たち第1チームが玉座の間に到着したとき、ダフネはもうそこにいなかった。

 ばかりか。

 王冠に刻まれた文様を見た魯庵が言う。

「これは…フェイクですね」

「え? 偽物なのか?」

「はい。たぶんダフネも気が付いたのでしょうが、指揮官に悟られてはいけないと、とっさにウソをついたのでしょう。そこに座るのも、国王かどうか定かではありません」

 

 そして魯庵が何か唱えてそれに手をかざすと、文様が溶けるように消えていった。

 そこにいたメンバーたちは驚いてその様子を見ていたが、制御装置を調べていた技術チームが「あっ」と声を上げる。

「どうした?」

「お、新行内、戻ってきたのか。それより見てくれ。今までどうやっても動かなかったこいつが、魯庵が王冠の文様を消したとたんに、起動しだしたんだ」

「これは……」


 制御装置に埋め込まれたパソコンらしきもの。そのディスプレイには国王からダフネにあてたメッセージが浮かび上がっていた。


《ダフネよ。よくぞここまで来てくれた。しかし、ここにあるものはすべて敵をあざむくためのもの。真実のわたしは、キングとクイーンが永遠を誓った…》


「キングとクイーンが永遠を誓った、なんだっていうんだ?」

 技術班がつぶやく。

 そうしてそのあとも何か色々試していたが、

「どうやらダフネがここを去るときに、データを壊したらしい。ただ、時間がなかったのか、完全に壊せなくてこれだけが残ったみたいだ」

「壊れたデータは復元できないか?」

「出来るには出来るが、かなり時間がかかる。ここではいつまたアンドロイドが襲ってくるかわからないし…」


 その上装置はかなり大きく、人の手だけでは運ぶに運べない。


「…もしかしたら、シルヴァ王妃なら、永遠を誓ったと言えば何かわかるかもしれません」

 魯庵が言うと、璃空も賛成した。

「そうだな。やみくもに探し回っても時間のムダだろう。もし王妃に聞いてもわからなければ、この装置を運ぶ手立てを考えた方がいいかもしれない。ここは、いったん引き上げた方が良さそうだ」

 そうしてバリヤのメンバーたちは、ほとんど収穫もないまま、高い壁の向こうへと帰って行ったのだった。




 王宮に帰ったあと、各チームの指揮官はつぎつぎに手塚への報告を終えていく。


 璃空も報告をすませると、柚月がいると聞いた部屋へ急ぎ向かった。そこは、前に璃空がこちらへ引き込まれたときに寝かされていた、あの部屋だ。


 じつはその部屋は、璃空の母親であるリリアが若い頃、ずっと使っていたものだという。

 部屋に入ると、ベッドに柚月が寝ているのが見えた。璃空は起こさないようにそっと近寄ったのだが、

「おかえりなさい」

 柚月は目を覚ましていたようだ。微笑みながら手を差し出して言う。

「ああ、ただいま」

 璃空はその手を取って言葉を返した。


「柚月、ありがとう。俺を助けるために来てくれたんだって」

「当然のことをしたまでよ」

 そんなふうに言う柚月に、璃空は苦笑いする。

「でも、もうあんな思いをするのはごめんだな。倒れていく柚月を見たとき」

「だけど、私は……璃空が私を呼んでくれる声がすごく嬉しかった」

「ああ…」

 珍しく恥ずかしそうに言う柚月に、こらえきれずに覆い被さって口づける璃空。


「えー、コホン!」

 入り口で怜の咳払いが聞こえ、璃空は慌てて振り向いた。

「えっへへー。珍しいもの見ちゃった~。アタフタする指揮官」

「からかうんじゃない」

「ラジャー! で、突然なんですが、シルヴァ王妃との会議の準備が整ったんで、すぐに例のダンスフロアに来いって、リーダーが」

「わかった。すぐ行く」

「続きが終わってからでいいですよ~」

 楽しそうに言う怜に、コラ!と怒りながら、璃空は柚月の方を振り返って言った。

「だそうだ。悪いが行って来る。柚月はもうしばらく休んでいればいい」

 そう言いながら、柚月のまぶたにもう一度口づけを落として、璃空は部屋を後にした。


 扉の外には魯庵をはじめ、ブライアンやタミーもいる。

 璃空は彼らと一緒に歩き出したのだが、どうにもピリピリした気持ちになるのを押さえられない。

「どうしたのですか?」

 魯庵が聞く。

 そうなのだ、壁の向こうにいるときから、魯庵の顔を見ると。

「なんでだろう? 魯庵の顔を見ると、いや、変な言い方だから気を悪くしないでくれ。どうにも、むかつくんだ」

 すると、なぜか怜が「ひぇっ!」と言って少し彼らから離れてしまう。

「?」

「当然ですよ。私はあのとき、柚月さんにkissをしましたから」

「え?!」


 先を歩いていた怜は、「うわぁー」と叫んで震えだし、ブライアンとタミーはぽかんとした顔で、2人を見やっている。


「指揮官の状態を見るためには、いちばん手っ取り早い方法でしたから」

 しゃあしゃあと言う魯庵に、璃空もあきれてものが言えない。

「殴ってもかまいませんよ。私はそれだけの事をした」

 璃空はしばらく考えていたが、笑いながら言い返した。

「いや、やめておこう」


 ホーっと息をはいて安心する怜。

 そのあと何事もないように歩いていた璃空だったが、急に振り向くと言った。

「魯庵。悪いが、やはり一発殴らせろ」

 いきなり飛び出したカウンターに、さすがの魯庵もよけることが出来ず、よろけて壁まで後ずさった。

 あっけにとられる無言の第1チーム。

「すまない」

 璃空の一言で、怜が大笑いしだした。

「あっははー。指揮官かっこ悪リィー。やきもち~?」

「ああそうだよ。嫉妬深くてすまなかったな」

 魯庵も笑いながら、「良かった。この方が私もスッキリします」などと言っている。


 すると、ブライアンがさも感心したように言う。

「ワオ。指揮官も彼女のことになると、見境がなくなるんだね。まあわかるけど」

 タミーは肩をすくめると、

「もう、本当に男って」

 などと言いながら、スタスタと先へ歩いて行く。

 怜がそのあとを追いながら、「ほんとうに男って、なにー?」などとふざけている。

 魯庵はそんな彼らを見て、柚月がもらした言葉を思い出していた。

「やっぱり、第1チームは最高!」





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