第1話
「結局、ダフネは取り逃がしちまったな」
「ええ。でも、王妃の協力を得て必ず見つけ出しますよ」
璃空たち第1チームが玉座の間に到着したとき、ダフネはもうそこにいなかった。
ばかりか。
王冠に刻まれた文様を見た魯庵が言う。
「これは…フェイクですね」
「え? 偽物なのか?」
「はい。たぶんダフネも気が付いたのでしょうが、指揮官に悟られてはいけないと、とっさにウソをついたのでしょう。そこに座るのも、国王かどうか定かではありません」
そして魯庵が何か唱えてそれに手をかざすと、文様が溶けるように消えていった。
そこにいたメンバーたちは驚いてその様子を見ていたが、制御装置を調べていた技術チームが「あっ」と声を上げる。
「どうした?」
「お、新行内、戻ってきたのか。それより見てくれ。今までどうやっても動かなかったこいつが、魯庵が王冠の文様を消したとたんに、起動しだしたんだ」
「これは……」
制御装置に埋め込まれたパソコンらしきもの。そのディスプレイには国王からダフネにあてたメッセージが浮かび上がっていた。
《ダフネよ。よくぞここまで来てくれた。しかし、ここにあるものはすべて敵をあざむくためのもの。真実のわたしは、キングとクイーンが永遠を誓った…》
「キングとクイーンが永遠を誓った、なんだっていうんだ?」
技術班がつぶやく。
そうしてそのあとも何か色々試していたが、
「どうやらダフネがここを去るときに、データを壊したらしい。ただ、時間がなかったのか、完全に壊せなくてこれだけが残ったみたいだ」
「壊れたデータは復元できないか?」
「出来るには出来るが、かなり時間がかかる。ここではいつまたアンドロイドが襲ってくるかわからないし…」
その上装置はかなり大きく、人の手だけでは運ぶに運べない。
「…もしかしたら、シルヴァ王妃なら、永遠を誓ったと言えば何かわかるかもしれません」
魯庵が言うと、璃空も賛成した。
「そうだな。やみくもに探し回っても時間のムダだろう。もし王妃に聞いてもわからなければ、この装置を運ぶ手立てを考えた方がいいかもしれない。ここは、いったん引き上げた方が良さそうだ」
そうしてバリヤのメンバーたちは、ほとんど収穫もないまま、高い壁の向こうへと帰って行ったのだった。
王宮に帰ったあと、各チームの指揮官はつぎつぎに手塚への報告を終えていく。
璃空も報告をすませると、柚月がいると聞いた部屋へ急ぎ向かった。そこは、前に璃空がこちらへ引き込まれたときに寝かされていた、あの部屋だ。
じつはその部屋は、璃空の母親であるリリアが若い頃、ずっと使っていたものだという。
部屋に入ると、ベッドに柚月が寝ているのが見えた。璃空は起こさないようにそっと近寄ったのだが、
「おかえりなさい」
柚月は目を覚ましていたようだ。微笑みながら手を差し出して言う。
「ああ、ただいま」
璃空はその手を取って言葉を返した。
「柚月、ありがとう。俺を助けるために来てくれたんだって」
「当然のことをしたまでよ」
そんなふうに言う柚月に、璃空は苦笑いする。
「でも、もうあんな思いをするのはごめんだな。倒れていく柚月を見たとき」
「だけど、私は……璃空が私を呼んでくれる声がすごく嬉しかった」
「ああ…」
珍しく恥ずかしそうに言う柚月に、こらえきれずに覆い被さって口づける璃空。
「えー、コホン!」
入り口で怜の咳払いが聞こえ、璃空は慌てて振り向いた。
「えっへへー。珍しいもの見ちゃった~。アタフタする指揮官」
「からかうんじゃない」
「ラジャー! で、突然なんですが、シルヴァ王妃との会議の準備が整ったんで、すぐに例のダンスフロアに来いって、リーダーが」
「わかった。すぐ行く」
「続きが終わってからでいいですよ~」
楽しそうに言う怜に、コラ!と怒りながら、璃空は柚月の方を振り返って言った。
「だそうだ。悪いが行って来る。柚月はもうしばらく休んでいればいい」
そう言いながら、柚月のまぶたにもう一度口づけを落として、璃空は部屋を後にした。
扉の外には魯庵をはじめ、ブライアンやタミーもいる。
璃空は彼らと一緒に歩き出したのだが、どうにもピリピリした気持ちになるのを押さえられない。
「どうしたのですか?」
魯庵が聞く。
そうなのだ、壁の向こうにいるときから、魯庵の顔を見ると。
「なんでだろう? 魯庵の顔を見ると、いや、変な言い方だから気を悪くしないでくれ。どうにも、むかつくんだ」
すると、なぜか怜が「ひぇっ!」と言って少し彼らから離れてしまう。
「?」
「当然ですよ。私はあのとき、柚月さんにkissをしましたから」
「え?!」
先を歩いていた怜は、「うわぁー」と叫んで震えだし、ブライアンとタミーはぽかんとした顔で、2人を見やっている。
「指揮官の状態を見るためには、いちばん手っ取り早い方法でしたから」
しゃあしゃあと言う魯庵に、璃空もあきれてものが言えない。
「殴ってもかまいませんよ。私はそれだけの事をした」
璃空はしばらく考えていたが、笑いながら言い返した。
「いや、やめておこう」
ホーっと息をはいて安心する怜。
そのあと何事もないように歩いていた璃空だったが、急に振り向くと言った。
「魯庵。悪いが、やはり一発殴らせろ」
いきなり飛び出したカウンターに、さすがの魯庵もよけることが出来ず、よろけて壁まで後ずさった。
あっけにとられる無言の第1チーム。
「すまない」
璃空の一言で、怜が大笑いしだした。
「あっははー。指揮官かっこ悪リィー。やきもち~?」
「ああそうだよ。嫉妬深くてすまなかったな」
魯庵も笑いながら、「良かった。この方が私もスッキリします」などと言っている。
すると、ブライアンがさも感心したように言う。
「ワオ。指揮官も彼女のことになると、見境がなくなるんだね。まあわかるけど」
タミーは肩をすくめると、
「もう、本当に男って」
などと言いながら、スタスタと先へ歩いて行く。
怜がそのあとを追いながら、「ほんとうに男って、なにー?」などとふざけている。
魯庵はそんな彼らを見て、柚月がもらした言葉を思い出していた。
「やっぱり、第1チームは最高!」




