第4話
ドォン!
いきなり銃声がして、目を開くとアンドロイドが倒れていくのが見えた。
「は~い、一丁上がり~」
怜だった。
「神足くん!」
「今澤ちゃーん。だーめじゃーん。よい子は言いつけを守ってね。おっと、こっち!」
怜は銃声を聞きつけたアンドロイドがパラパラとやってくるのを見て、柚月を促して走る。安全そうな物陰に隠れ、そこからアンドロイドを倒していく怜。
「大丈夫?」
「平気ですよー、俺を誰だと思ってるんですか?」
それを聞いた柚月はふっと悲しそうな顔で微笑む。
「?」
「そのセリフ、璃空がよく言ってる」
「えっへへー、指揮官の真似。でもねー、指揮官も手塚リーダーに吹き込まれたんですよ」
「そうなの?」
「そ!男はね、すこーしうぬぼれ屋くらいの方がいいんですって。でなきゃこんなとこで、こわくて戦えやしない」
「…」
「だけどね、そのためには自分にすんげえ自信を持たなきゃ駄目だって。でね、自分に自信を持つためにはどうすっかって言うと、人知れずコツコツと、ちまちまと、小さな努力を積み重ねるしかないって」
そんな話をしながらも、怜は次々とエスを倒していく。なんて集中力!
「現実はドラマやアニメみたいに一足飛びじゃあいかないってこと。あー魯庵!きたー」
「申し訳ない。私としたことが。でも、やはり柚月さんはすごい。指揮官はこの先にいました。では、柚月さん、これから指揮官と対峙しますよ」
「はい」
「怜くん、援護」
「わかってますって」
そう言うと魯庵は柚月を胸に抱いて飛び出して行く。魯庵の回りにはバリアのようなものが張られていて、たまに飛びこんでくる弾丸を素手ではじき返す。
怜はそのまわりを縦横無尽に動き回って、敵の攻撃を防いでいく。
そして少し離れたところに、無表情な璃空の姿が見えた。
「ああ、かなり強い魔力だ。柚月さん。これから移動して貴女を指揮官の目の前にお連れします。それまではむごい事をしますので、目を閉じていて下さい。そして、私の合図で目をあけて指揮官の目に照準をあわせたら……どんなにつらくても悲しくても決して目をそらさないで」
「はい」
「その前に、まず指揮官の状態を…」
と言って、あろう事か、璃空に見せつけるように柚月にkissをする魯庵。
あまりの出来事に、柚月は対応できずただほうけるだけ。怜も呆然としていたが、
「ろ、魯庵!なにするんですか?!指揮官に殺されますよ、っとおー」
敵に向けてドンドンッと銃を撃つ怜。護衛がおろそかになっていたようだ。
「なにも反応無し。そうとう深いところまでかかっていますね」
そう、璃空はそれを見ても無反応で無表情のままだ。
「でも、これならどうでしょう。目を閉じて、柚月さん」
思わず目を閉じると、柚月をかかえて移動しながら何かを唱えている魯庵。
「まず玲くん…0・1秒」
「魯庵、ひでぇ!俺が指揮官に撃たれてるー!」
「しかし急所ははずしてますよ、殺してはいない。では、タミー…同じく0・1秒。と言う事は、ブライアンも当然…0・1秒。それでは手塚リーダーは…0・2秒、か。では私…おや?これはこれは、瞬殺ですか…さっきの、潜在意識では見ているようですね。それでは最後、柚月さん………1秒かかりましたか。それも腕をね。すごい」
魯庵は何を言っているのだろう?
「柚月さん、もうそろそろです。でも大丈夫。指揮官は必ず救えます。自分を信じて」
「はい」
そして、どんっとだれかにぶつかる。あ…璃空の匂いがする。
「今です!目を開けて!」
目を開く。目の前に愛しい璃空の顔。しかし彼の左目には魔方陣のような模様が浮かんでいる。柚月はその目に自分の右目の照準をぴったり合わせた。とたん、
「!!!」
柚月の心に璃空が今まで闘ってきたものへの想い、悲しみ、苦しみ、ありとあらゆる負の感情が押し寄せてきた。そして自分がエスの血を引いていると知ったときの驚き。
なに?
つらい、悲しい、苦しい。俺は何のために生きている。璃空は今までこんな思いをして、こんな中で闘ってきたの?柚月は涙を流しながら目を閉じたい衝動に駆られた。が、
「頑張って!必ず救える!彼の目を見て!」
と叫ぶ魯庵の声を聞いて我慢する。
「まだッスかー魯庵ー」
「ああ、結界がもつかどうか。早く!早く!」
二人とも相当苦戦している様子。
と、その時、ギュイーンという銃声がこだまして、敵が倒れる音がする。
「情けないわねえ、二人とも。なにやってんのよ」
タミーの声がした。
「やはり銃は俺だね、怜」
お次はブライアンの声。
「おっそいよー、ふたりとも」
怜の嬉しそうな声もする。
そうね、みんな頑張ってるんだもの、私も頑張らなきゃ。璃空、りく。柚月は、ありったけの想いを込めて彼を見つめ続ける。けれどもこの状態は本当につらい。胸が張り裂けるんじゃないだろうか。もう目を閉じてしまいたいと言う誘惑に、耐えきれなくなりそうになったそのとき、
「今澤 柚月さん?」
自分を呼ぶ璃空の声を聞いた。
あ…これは初めて璃空に会った、面接会場での彼の声。そのあとも、押し寄せるように彼が自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「柚月さん」
「ゆづき、さん?」
「あ、えっと…ゆ・柚月」
「柚月」
「柚月」
「ゆづき…」
柚月を呼ぶ璃空の声が響いてくる。はじめは堅苦しかったその声が、どんどん柔らかくなっていく。それとともに璃空の悲しみ苦しみが慈しみに入れ変わっていくのがわかる。
そうして少しずつ自分を取り戻していく璃空。柚月は自分の流している涙が、いつの間にかあたたかいものになっているのに気が付いた。
やがて璃空の目から魔方陣が薄らいで落ちていき、瞳が柚月をとらえたその瞬間…
「柚月、愛してる…」
今までのどの声よりもいとおしく自分を呼ぶ声が聞こえたとたん、柚月は意識を失った。




