表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バリヤ ~ barrier  作者: 縁ゆうこ
バリヤ第1チーム
3/35

第1話



「そろそろ起きられてはいかがですか、お姫様」

 そう言いながら璃空が寝室のカーテンを開ける。昨日の雨はもう上がって明るい日差しが差し込んでいる。

 今日は良い天気だ。

 まるで自分の心のようだと柚月は思う。璃空が帰って来ただけで、こんなに晴れ上がる。


 もう少しうとうとしたかったのにな。心地よい疲れを感じながら、柚月はシーツで裸の胸を隠しながら起き上がる。そして、璃空が「ほら」と差し出した湯冷ましを口にする。乾いた喉にそれは甘く落ちていった。

「おいしい…」

 そう言うと璃空は、

「ひどい声だな」

と、苦笑いしながら言う。

「だって…」

「ああ、連絡も出来ずに、悪かった」

 本当に。

 新行内 璃空。柚月の恋人にして、少し前に緊急措置として政府が立ち上げた、バリヤ第1チームの指揮官である。

 バリヤ……それは、その名の通り、壁。


 この世界には、次元の違う世界が並行してある、とは誰もがいちどは夢物語として考えること。


 だが、今世紀に入ってそれが事実として存在していることが確認された。と言うのは、ある日、異次元の一つがそこを蹴破って侵入をはじめたからだ。

 もともと争いを好まない性質のこちら側。驚いた政府はあわてて次元を閉じるための作業をはじめたが、侵略者と至近距離で行うその作業が命がけのため、政府は、作業員の護衛と、侵略を阻むために、チームを立ち上げた。


 そのチームは(バリヤ)と名付けられ、構成員はポリスマンなどの専門職のほか、一般人からの応募も呼びかけた。争いを好まないとはいえ、こちら側にいる者は、もともとの身体能力が高く頭脳も明晰だ。争えない、のではなく、争わない。

 ポリス内でもすばぬけて優秀だったため、指揮官に決まっていた璃空は、(バリヤ)最前線の第1チームに配属され、一般人の選考にもかかわっていた。


「今回はずいぶん大変だったのね」

 遅い朝食をとったあと、並んでソファに腰掛けて珈琲を飲みながら柚月が聞く。

「ああ…」

 もともと雄弁なタイプではない璃空だが、今日はそれにも増して何かを言いよどんでいる。なにかあったのかな。柚月は辛抱強く璃空が口を開くのを待った。


 そのあとぽつりぽつりと話してくれたところによると、璃空たちは、ふたつある異次元からの侵入口のひとつ(イグジットE)で、すでにひとつ違うミッションを終わらせて、帰還しようとしていたところだった。その矢先、もう一つの侵入口である(イグジットJ)での第3チームの苦戦を知り、そのままそちらに向かったと言う。


「俺たちが到着したときはひどい状態だったんだ。いつもならあっさり引き下がる(イグジットJ)のエスが、なぜかその時は大量にロボットをつぎ込んできて、倒しても倒してもやってくる。それはまあなんとか持ちこたえたんだが…」

「うん」

「特に今回は第3チームの指揮官から直接こっちに応援要請があって、そのまま戦闘に加わったから状況を聞く暇もなかった。到着してからは本部に連絡する暇もないくらいな。それで本部にも、……柚月にも心配かけたんだな。すまなかった」

 そう言いながら、柚月を抱き寄せる。


「いいのよ、ちゃんと帰って来てくれたんだから」

「ああ、だがそのうち一人の戦闘員の様子が、あるときから突然おかしくなったんだ」

「え?第3チームに裏切り者がいたの?」

「はは、小説の読み過ぎじゃないか?柚月。でも、そんなじゃなく。なんというか、自分の意志で動いていないような感じで…」

 小説の読み過ぎと言われて、ぷうっとふくれる柚月の頭をなでながら、璃空は深刻に考え込んでいる。


「じゃあ、なんでそんなになったか、あとで聞けば良かったじゃない」

「それが、そうなった奴は、次元の向こうに吸い込まれてしまったんだ。話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだった」

「!」

 思わず柚月は璃空の顔を見上げる。自分の意志で動けない?そればかりか向こうに吸い込まれる?それは、本当に今までのエス(侵入者の頭文字をとって、こちら側では便宜上ヤツらをそう呼んでいる)とは違っているようだ。


 ふたつの侵入口のうち、璃空たちの領土にある(イグジットJ)に入って来るロボットは、戦闘能力はあるにはあるが、どうやら戦闘用には作られていないらしく普段は攻撃してこない。それでも何かの拍子に危害を加えてくることもあるため破壊している。

 それと正反対なのがもう一つの侵入口(イグジットE)。こちらはチームメンバーのひとりの母国に近い所にある。こちらのエスロボットは、ただただ破壊と殺人を繰り返す戦闘用だ。ただし、コンピューターで制御されているらしいそれは、戦闘に変化がなく柔軟性にも欠け、予想外の動きに対応できない。そのためこちらから臨機応変な頭脳戦で攻め込まれて、退却していく。


 そいつらがもしこちらを自由に操れるとすれば…怖くなって、自分で自分を抱きしめるような格好をした柚月の肩をそっと抱いて、なぜか申し訳なさそうに璃空が言う。

「で、な。もうすぐその対策を…」

 と言いかけたところで、インターフォンがビンボンビンボン!とけたたましく鳴り響いた。


「?なんだろ?ちょっとごめんね」

 柚月がモニターのボタンを押すと、「今澤 (いまさわ)ちゃーん、オレオレ!指揮官いる~?」と大騒ぎするような声が聞こえて怜 (れい)の顔が大写しになった。

 あっけにとられた柚月が璃空の方を振り返ると、「すまない」と彼が頭を下げた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ