第2話
そして、魯庵が予告したとおり、翌朝には相乗魔術を取り入れた魔方陣が無事出来上がり、今はルエラにそれを見てもらっている。
ルエラは感心したようにそれを眺めていたが、ちょっと微笑みながら言う。
「相乗効果は完璧ね。ただし」
「?」
「貴方、まだほんとうに誰かを愛したことがないでしょ?」
「? はい、残念ながら」
「これを埋め込むのは柚月さんの瞳。彼女の彼への想いが直接流れ込むようにしなくちゃ」
「?」
「あのね、こっちの人間の愛ってものを馬鹿にしちゃいけないのよ、ロ・ア・ン。いくら計算式が完璧でも、奇跡を起こすのは、いつでもどこでも愛のちから、なんちゃって」
いたずらっぽく言って何かを唱え、魔方陣に手をかざすルエラ。魔方陣に新たな文様が刻み込まれた。
魔方陣が思いがけず早く出来上がったので、出発も早くなるのでは? と、思っていた柚月だが、手塚は急ぐ様子も見せなかった。
せっかく早く出発できそうなのに、と、柚月にしては珍しく、焦りの気持ちが先に立って思わず手塚に聞いていた。
「あの、出発は予定通りなんですか?」
「ああ、そうだぜ。なんでだ?」
「もうとっくに魔方陣は出来上がっていますから、早く出発してもいいのでは、と思いまして」
そんな柚月を驚いて見ていた手塚が、急に優しそうな瞳になって答える。
「珍しいな。今澤くんがそんなこと言うなんてな」
そして、うんうんと頷きながら説明を始めた。
「今澤くんの焦る気持ちもわからない事もねえが…。午後2時だと決めた以上、バリヤのヤツらはその時間に合わせて準備を整えてるんだ。荷物だけじゃなくて、精神的にもな。10分20分ならいいが、何時間も早まったんじゃあ、焦っちまって任務に支障が出るかもしれない。特に今回は初めて行く場所だ。だからよけいにだ」
そう言って柚月の肩をポンとひとつたたいて言った。
「いまさら何時間かの違いなんてどうってことないぜ。俺の率いるバリヤチームだ、信頼してやってくれ」
柚月は驚き、また、自分一人の感情でものを言った事が少し恥ずかしくなった。
「あ、はい。あの、いくら璃空が心配だからって、自分の都合しか考えなかった私が恥ずかしいです。申し訳ありませんでした」
「いやいや、俺だってもしルエラがとっ捕まってたりしたら、何するかわかんないぜ」
そう言ってニカッと笑った手塚は、柚月に打ち消し魔方陣を瞳に埋め込むために、魯庵のいる部屋へ行くよう指示をした。
別室に待機していた魯庵の元へ行くと、ルエラもそこにいた。やってきた柚月をニッコリと笑顔で迎え入れたルエラは、ふたりに紅茶を勧めてとりとめもない話をしだす。
それはまるで柚月の気持ちをほぐしてくれているようだった。
そして、そろそろ時間がせまってきたと言う頃、
「さて、はじめましょうか」
と言って、奥にある座り心地の良さそうな椅子を指さした。
柚月が腰掛けると、シートのようなものを持った魯庵が来て、それに手を当てる。しばらくしてシートが光り出したかと思うと、魯庵の手に何かの文様が浮かび上がる。
その手を今度は柚月の右目にあてる。
「まぶしければ目を閉じても大丈夫ですよ」
と言うが、我慢出来ない程の光ではなかったので、そのまま目をあけている。数秒で魯庵はかざしていた手を離した。
「終わりました」
「え、もう?」
あまりの早さに、拍子抜けする柚月。本当に移し込んだのだろうかと、あたりを見回して鏡を探す柚月の目の前に、「はい」と言うルエラの声とともに手鏡が差し出された。
のぞき込むと、確かに右目に魔方陣が見える。しかし、柚月自身の目の見え方には何の変化もなかった。
「へえー、こんなふうになるんですね。でも全然見え方は変わらないわ」
「ええ、ただ移し込んであるだけなので、指揮官のように操られたりもしません」
「そうなの…」
魯庵が柚月の目に打ち消し魔方陣を埋め込んでいた、ちょうどその頃。
先発隊が出発した。




