第4話
「私が行きます」
手塚の声にかぶさるように、柚月が言った。手塚はしまったと言う表情でルエラを睨む。
「あら!そうだわ! 柚月さんっていう恋人がいたわね。良かったあ、そこにいてくれて」
「ルエラ、お前ってヤツは」
絶対にわざとだ。柚月に会議用のお茶の用意をさせて、会議に参加するよう仕向けていたのだ。璃空の話を聞けば、柚月が行くと言いだすのは目に見えている。
「しかし、今澤くん。きみは一般人だ」
「ですが、それを言うならルエラさんも一般人です」
「そうよー、私も一般人よー」
「ルエラは魔女だ! そこいらの一般人とは訳が違う!」
やけになって手塚は叫ぶが、このふたりの女どもの手強さはハンパない。
ルエラはニッコリ微笑んで、柚月はこちらを射るような真剣なまなざしで手塚を見つめ続ける。ふたりに全力で説得されたら太刀打ち出来ないな。
ああもう。
「しかたねぇー好きにしろ。なら、新行内の救出は」
そこまで言った時点で、またかぶるように声がした。
「俺たちの指揮官なんですから、俺たち第1チームが救出しますよ」
ブライアンが親指を立てて言う。
「そうね、それが妥当だわ」
タミーもあたりまえのように言う。
「ぜえったい!助け出しますって!」
怜はなぜか嬉しそうだ。
すると、会議に参加していた他チームのメンバーが口々に言い出した。
「賛成~。リーダーの秘書って新行内の彼女なの?、カッコイー」「制御装置の方は任せておけ」「新行内じゃなきゃ、お前たちみたいな個性の強いチームの指揮官は務まんねーよ」「そうだそうだ。ぜってー助け出せよ」「彼女さんも頑張ってね」
ルエラは満足げに手塚を見やる。柚月も本当に嬉しそうだ。
「わかったよ、決まりだな、まったく。またお偉いさんにどやされるじゃねーか。まあ、そんなことは痛くもかゆくもないがな。じゃあ、ルエラは第1チームに入って魯庵の手助けをしろ」
「オーケイよぉ」
「他のチームは協力体制をとって制御装置の奪還、状態によっては破壊してもかまわん。玉座の間へ向かうことを最優先しろ」
「了解」
「では、出発は…。あー魯庵、新行内の打ち消し魔方陣はどのくらいで出来るんだ?」
魯庵はしばらく考え込んでいたが、
「半日もあれば何とかできるでしょう。ですね?」
ルエラの方を向いて確認した。ルエラも深く頷く。
「では、あらためて。出発は明日午後2時、それまでにわかる限りの情報を、皆、頭にたたき込んでおけ。準備はもちろんぬかりなくな。それといつもの注意だ、睡眠は削らないこと、寝る子は育つんだぜぇ。では、いったん解散」
手塚の号令で、そこにいた面々から緊張感がほどけ落ちた。
ほっとした柚月は、「せっかく入れたのですから、コーヒー飲んでください」と、声をかける。隊員たちは「おっいいねー」などと言いながらやってきた。
カップを受け取ったあと、玉座の間へ向かう何チームかの指揮官が、自然に集まって軽く打合せをする。しかしその内容は本当に軽いものだ。
あまりガチガチに作戦を立てすぎると、それにこだわって臨機応変な動きができにくくなる。想定外な出来事やアクシデントはあたりまえ。最後に頼れるのは自分自身の判断だと言うのが手塚の考え方だ。
「さあってと、じゃあ私は魯庵と魔方陣の解析をしなきゃならないから。柚月さん、貴女はどうする?」
「ええっと、出来るなら…」
「?」
「王妃さまとお話しがしたいなと思ってるんです」
「シルヴァさん?」
「ええ、璃空のお母様のことを聞いてみたくって。璃空は戻ってきても色々忙しくて聞けないだろうから、私が聞いておいてあげようと」
「柚月さん…」
ルエラはそんなことを言う柚月を見つめていたが、急にがばっと柚月を抱きしめて言う。
「もぉー、なんていい子なの! 出来るならなんて遠慮しないで! 私が話し出来るように交渉してあげる。魯庵、分析室ってどこの部屋だった?」
「ここの隣です」
「あら、近いのね。じゃあ貴方は先に行ってて。私はこの子をシルヴァさんの所へ連れて行ってから、大急ぎで戻ってくるわ」
感激屋のルエラは、柚月の言動にいたく感動してしまったようだ。あっけにとられる第1チームのメンバーをほっぽって、王妃の部屋へと柚月を引っ張って行ってしまった。
そうして、驚く王妃に柚月を引き合わせ、柚月がどれほどいい子かを力説して、王妃を可笑しがらせたのだった。




