第2話
次元の向こうへ戻ってみると、第5チームは様子のおかしい璃空の分析を終えていた。到着した魯庵が聞く。
「なにかわかりましたか?」
「ああ、魯庵。これを見てくれ」
そう言って大写しの璃空の顔を指さす。
璃空の左の瞳に何かが映り込んでいる。魯庵があのとき忠士にした耳打ちは、璃空の顔、特に目のあたりに照準を合わせて写しておいて欲しいと言うものだった。
やはり思った通り。
「これは…」
「なんだかわかるか?」
「ええ、魔方陣です」
「魔方陣?」
「はい。悪魔が召喚したり契約したりするときに使うものですが、これはそういったたぐいではなく、彼を操るためにかけた魔術のようなものですね」
「催眠術ってことか?」
「まあ、似たようなものです。それで指揮官はダフネの命ずるとおりなのですね。…なるほど」
「何がなるほどなんだ?」
「こちらにいるエスの血を引くだけの人間なら、呪文一つである程度操れるのですが…ヒューマンハーフとエスの間に生まれた指揮官は、計り知れない能力を持っている。呪文ではびくともしなかった指揮官に魔物がとった最終手段ですね」
「というと?」
「瞳に直接魔術を埋め込んでしまうと、魔術から逃れようがない」
「じゃあどうすればいいんだ」
「この魔方陣を詳しく調べて、打ち消すものを私が作ります。ただ、打ち消すためには、誰かの瞳にそれを植え付けて、指揮官の目に照準を合わせなければならない」
「それは、大変な仕事だな」
「そうですね…」
考え込む魯庵に不思議そうに声をかける第5チームの研究員。
「どうしたんだ?」
「あ、いえ…」
魯庵ははっとして顔を上げる。彼の脳裏に今、打ち消しの魔方陣を瞳に埋め込んでいる、思いも寄らない人物の顔が浮かんだのだった。
データを持ち帰った魯庵はすぐさま会議室になっているダンスフロアへ向かう。
制御装置が起動されるのはどうやら阻止できそうもない。
そして、こちらへ来てはじめてわかったことだが、戦闘タイプのアンドロイドは、(イグジットE)から直接向こうの世界へ出入りしているらしい。それで二つの出入り口から現れるロボットが、あんなにも異なっていたのだ。
「指揮官を見捨てるんですか!」
ドアを開けた魯庵の耳に飛び込んで来たのは、落ち着いたはずの怜の怒鳴り声だった。
「あんたたちは、自分たちだけそんな安全な場所にいて!実際に闘ってるのはオレたちだ!状況の把握はあんたたちなんかよりずっと正確だよ!」
「だがしかし、新行内くんは敵の意のままだと聞いたが」
「だから今、あ、魯庵!」
部屋に入って来た魯庵の姿をとらえた怜が、上層部が映るモニターに向かって言う。
「魯庵、いえ白川が第5チームからの情報を持って帰ってきました!」
話を聞くまでもなく、上層部が璃空を救う気がないことがわかる。そこで魯庵は、少々はったりですが、と思いながら彼らに話し出した。
「第5チームの分析はさすがにすごいですね。新行内指揮官は必ず元にもどるそうです。その上、直接会ってきた私にはわかるのですが…どうやら指揮官は、制御装置の起動方法や止め方も教えてもらっているらしい」
「えっ?!」
魯庵は驚く怜の顔をのぞき込むフリをして、モニターに見えないようウィンクしながら言った。
「ですから彼を救うことは、そちらの世界を救うことになるんですよ」
うーむ、と考え込む上層部の面々。
「さすがは魯庵だな。どうでしょう、壁の向こうでの戦い方は私に一任していただけませんか? それよりも、急を要するのは戦闘ロボットがそちらに行かないように狭間を強化することにあると思われますが…こちらで教わったノウハウで、(イグジットE)の強化をすることが最重要課題かと思います」
手塚が上層部にむけて言った。
彼らは自分の身の安全が何より大切だ。皆、あわててうなずきながら、口々に言い出した。
「そうだ、次元の向こうのそのまた向こうの事などより、今は私たち、いや、人民の安全がなによりだ」「人民の生命を守るのが私たちの仕事ですものな」「いやはやまったく」
「では、これから次元出入り口強化部隊の構成をせねばなりませんので、これで通信をいったん終わります。一秒もムダにしたくはありません」
「ああ、急いでな」「早急にだぞ」「大至急だ」




