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バリヤ ~ barrier  作者: 縁ゆうこ
目の中の魔方陣
24/35

第1話

「ご苦労だったな。まあしばらくゆっくりしろ」

 手塚リーダーが帰って来た魯庵の肩に手を置いて言う。

 怜はそれを聞いて手塚に詰め寄った。

「ゆっくりなんてしてられませんよ! 指揮官が、指揮官が!」

 魯庵はそんな怜をなだめようとして、背中をポンポンとたたいてやる。怜は本当に悔しいのだろう、振り向きもせずにどこかへ行ってしまった。


 魯庵の報告を受けて、手塚はバリヤの何チームかを率いてこちらへ来ると、王宮の中に仮の指令本部を置かせてもらった。悪魔が相手だというので、もちろんルエラも。そして、どうしてもと譲らなかった柚月も、手塚の第1秘書と言う形で一緒に来ていた。


 怜は行く当てもなく王宮をあちこち歩き回っていたが、並んだ部屋のひとつに柚月の姿を見つけると、そこへ入って行った。

「今澤ちゃん」

「あ、神足くん、お帰りなさい」

 柚月はこんな時でも笑顔で彼を迎えてくれる。怜はこらえきれなくなって、

「ごめん!ホントにごめん。指揮官を助け出せなかった…」

 そうやって手を合わせて謝っていたが、次第にその手がゆるゆると落ちていき、うなだれるようにうつむいてしまう。

 すると柚月は優しく怜の手を取って言ってくれる。


「ルエラさんと、送られてくる中の様子見てたわ。あの状況じゃ仕方ないじゃない。それに、広実さんが璃空を画像に撮ってくれたのよね? 今、それをあっちに持って行って、第5チームが分析してるんですって。だからきっと大丈夫よ」

 第5チームは、情報や証拠品などの分析を専門にしているチームである。さすがにこちらには、実験や測定のための器械をすべて運び込めないので、分析を必要とするものは次元の向こうへ持ち帰っているのだ。


 柚月は、いちばん取り乱しても良いような立場であるはずなのに、時たま今にも泣きそうな表情をみせながらも、さっきのようにとりとめのない話をしながら、けなげに耐えていた。

 怜は自分のとった行動が恥ずかしかった。璃空を助けたい気持ちは皆同じ。だから、全員が全力で事に当たっている。

「今澤ちゃんって強いんだな。オレも見習わなきゃ」

「?」

「指揮官のこと、いちばん心配なのは今澤ちゃんなのにね…オレってば、さっき手塚リーダーに八つ当たりしちゃった。はげしく反省~」

「神足くんらしいね、そうやってすぐに自分の悪いところを認めるのって。…でも私、強くなんかないのよ」

 と言いながら柚月は、少し頬を染めて言う。


「璃空がね、泣いちゃいけないって言ったから。だから…がっかりさせないように、約束守ってるだけなのよ」

「ひぇえ、いい女房を持って、指揮官は幸せだねえ」

 怜はこんな時だというのに、あてられたような気持ちになって言ってしまった。

 そして、「ええ?、女房だなんていつの時代の言葉?」などと的外れなことを言う柚月に、なんだか可笑しくなって吹き出してしまう。


 そう言えば、璃空が時々「柚月はたまに、わざとなのか天然なのかわからないが、かたくなになったこちらの心を解きほぐすような言動をするときがある」とか言っていたのを思い出した。

 ああ~これか~。でも会社にいた頃は気づかなかったな。

 それとも、璃空が隠れていた柚月の何かを引き出したのかもしれない。


 そのとき魯庵が、ドアからひょいと顔を覗かせる。

「お二人とも、こんなところにいたのですね」

「あ、白川さん」

「魯庵、どうしたの?」

「今、第5チームから連絡があって。指揮官の画像分析が終わったそうです」

「「ほんと?!」」

 怜と柚月は同時に魯庵の腕にすがるように飛びつく。これにはさすがに大柄の魯庵もぐらついた。

 けれど彼は、「おっと」と二人を抱えるようにしながら、慌てる様子もなく言った。


「それで、私はデータをもらいにひとまず向こうに行って来ます。それから怜くん、そろそろ会議が始まるようですよ。会議室代わりのダンスフロアへお急ぎなさい。私もデータを受け取ったら大急ぎで会議に向かいますから。……もう気持ちは大丈夫ですか?」

「あ、いっけねー会議があるんだった。でね、えへへ、今澤ちゃんに愚痴聞いてもらったからもうぜーんぜん平気! 心配かけてごめんね魯庵。今澤ちゃんも、サンキューね」


 いつもの彼に戻った怜が投げキッスなどしながら出て行くのを、あきれながらも微笑んで見ていたふたりだったが、魯庵がふと真剣な表情になって柚月に言った。

「指揮官の状態がどのようなものかはまだわかりませんが…きっと大丈夫です。自分で言うのもなんですが、バリヤ構成員の能力は本物です。必ず助け出せますよ」

「ええ…」

 そう言ってぎゅっと唇をかみしめる柚月。

 魯庵はちょっと曇った顔でそんな柚月を見ていたが、ふと思い出したように言った。

「そう言えば、ルエラさんが会議に出すお茶を用意したいから、手伝って欲しいとか言っていましたね」

「え?そうなの?じゃあ私もすぐに行かなくちゃ」

「はい、ダンスフロアはわかりますね」

「ええ、ありがとう。じゃあ璃空のこと何かわかったら教えて。よろしくお願いします」

 他人行儀に深々と頭を下げて柚月は部屋を出て行った。その態度からも、柚月がどれほど璃空の事を心配しているかが良くわかる。

 魯庵は気持ちを引き締めて部屋を後にした。





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