第2話
しんと静まりかえっている。
いきなりアンドロイドが襲ってくると思っていた璃空は、肩すかしをくらったように、それでも気を抜かずに回りを見渡した。
まったく、なんという世界だろう。
あちこちに破壊されたアンドロイドと、倒れた人・人・ひと。中にはもう、頭蓋骨がむき出しになったようなものもある。残念ながら息のあるものは一人もいなさそうだ。
ここまでして世界を征服しなければならないわけが、どこにあるのだろう。璃空は悔しさと、ある意味絶望感に歯がみしながら、ダフネがナビするとおりに歩いて行く。
あちこちに建物の残骸が残っている。しばらくすると目の前に、あきらかに他とは違い、頑丈そうでとりどりに彩られていたと思われるものが現れた。こちらの王宮だったのかもしれない。しかしそれも所々崩れ去っている。
「その壊れた建物の中に入って行きましょうか。もう近い…あっ!」
柱の陰から広い場所に出たとたん、ダフネがボウンっと姿を現す。そうして広間の真ん中へ駆けていった。
「こ、こくおう…?」
璃空もあわてて後を追う。
そして、そこで彼らが見たものは。
「なんだ、これは?」
金・銀・そして数々の宝石。それらできらびやかに飾り付けられた玉座に、たぶん国王だろう、が座っている。たぶんと言うのは、もう彼は生前の面影もない白骨化した姿だったからだ。彼の胸のあたりには、銃で撃たれたのか、どす黒い血の跡が残っていた。
「国王、貴方という人は」
言いながらクククと笑い出すダフネ。
「殺されたのか?」
璃空は思わずつぶやいた。
それを聞いたダフネは何やら考え込んでいたが、おもむろに言い出した。
「ご覧なさい。あの後ろにあるのはたぶんアンドロイドの制御装置。おそらく国王はあれを起動させようとしていた。あれが動き出せば、アンドロイドは国王の思いのまま。けれど誰かの裏切りにあい、彼はあえなく命を落とした」
「じゃあ、なぜ死んでしまった国王の印が消えなかったんだ?」
「見てご覧なさい」
ダフネは国王がかぶる王冠を指さしている。
「あ!」
なんとそこには、さっきダフネが見せた模様と同じものが貼り付けられている。
「彼を殺した人間が、私にばれないように、彼の命がまだあるうちに契約印をはぎ取ってそこへ貼り付けておいたのでしょう」
「でも誰が、それに……。!、なにか来る!」
璃空たちの話し声を聞きつけたのか、遠くからアンドロイドが何体かこちらへやってくるのが見えた。あまり大きな声ではなかったはずなのに、ロボットたちが音を拾う精度は高いようだ。
璃空はそれなら、と、銃をサイレントモードにしてアンドロイドの目をねらう。ボスッ!ボスッ!と鈍い音がして、遠くでそれらは崩れ落ちた。
そのあと璃空は、玉座の後ろにある制御装置を観察する。だが制御装置は1度も起動した痕跡がないように思えた。裏切り者たちは、なぜこれを動かさなかったのだろう。
「制御装置は1度も起動していないようだが」
璃空は小声でダフネに聞く。
「おそらく、契約印をはぎ取るのに手間取り、アンドロイドに見つかって逃げたかやられたか」
ダフネも聞き取れるか聞き取れないかの声で言う。
「けれど、もう国王はいない。お前の契約もここで途切れたわけだ。それならもうここにいる必要はないだろう?」
するとダフネはニヤッと笑って、
「いいえ?あの契約印がある限り、契約は有効です」
と言い、装置の正面へまわる。
「国王と私の契約は、この装置を起動して世界を手に入れること。そして、世界とは」
そこで一度にやりと笑ったダフネは、おもむろに言い出した。
「なにもこの次元の事だけではありません」
「!」
なんと、魯庵の予感は当たっていたのだ。国王とダフネはこちらの世界のみならず、次元の向こうまでも手に入れようとしていたらしい。
ならば、今のうちになんとしても阻止しなければならない。璃空は装置に手をかけようとしているダフネへあゆみ寄り、その腕をつかむ。
「おや?止めるおつもりですか」
「あたりまえだろう」
ニヤニヤと笑いながらも、ダフネは装置にかける手の力をゆるめない。璃空も彼を睨み付けながら、ギリギリとその腕をひねりあげようとした。
そのとき!
彼らの上に何かの影がかぶさる。
さっきのとはまた違うアンドロイドがいたのだろう。飛び降りてきたそれを、二人は同時に腕を離してよけた。
くるりと振り向きざまに銃を抜いて、璃空がアンドロイドの目を打ち抜く。崩れ落ちるアンドロイド。
「いや、おみごと」
パンパンと手をたたくダフネに舌打ちしてもう一度近づいたその時、ダフネが術を使っていきなり璃空の目の前に現れ、おどろくその顔をわしづかみにする。
そうして呪文のようなものを唱えだした。
「ううっ!」
璃空は苦しそうに声を上げた。




