プロローグ
雨が降っている。
珍しいことに。
雨の惑星と呼ばれている星の、しかも世界的に見ても雨の多い島国に住んでいるのだから、ちっとも珍しくはない…のだけれど。今年は年明けから雨の少ない年だと言われていて、ここしばらくは乾燥した日々が続いていたのだった。
まだ、帰らない…帰ってこない…
こんなに長い間、招集されてから帰って来ないって、初めて、かな。しかも、2日ほど前から(バリヤ)への連絡も途絶えているとか。どうしたんだろう、どうしたの?まさか…なんて事はないよね。
仕事へ行っていたり友達と会っていたりするときは、気にならないと言うか、あえて気にしないように頭の中から追い出しているのだけれど。こんなふうに、部屋でひとりでいる夜は心が折れそうになる。ましてや今日は雨。
せめて、(バリヤ)に連絡が入れば。声が聞けなくても無事だとわかれば。
俺の事で泣くなと言われているから、泣いちゃいけないと唇を噛んで抱えた膝に顔を埋めたとき、
「!」
マンション玄関のオートロックが解除されるアラーム音がした…
はじけるように立ち上がり、あわててモニターを確認する。エレベーターに乗り込む半身を見ただけで彼だとわかる。どうしよう…どうしよう。外に出たいのをこらえて玄関ドアに駆け寄り、耳をすます。人の気配がしてインターホンを押すのと同時にドアを開けて、びっくりしている彼の手を取り、中へ引っ張り込んで、
「ん…璃空、……り・く」
彼に思い切り抱きついて、唇を押しつけていた。肩に背負った荷物を外してドサドサと床に落とし、あちこち触れまくる柚月に
「こら…ん・あ…せめてシャワー浴びさせてくれ…」
「私も、一緒に」
今はひとときも離れたくない。風呂場へ行くまでに無理矢理服を脱がせて、あきれる彼の視線などものともせずに自分も裸になり、勢いよくシャワーコックをひねる。
「ああ、大丈夫だったんだ。良かった…どこもケガしてない?骨とか折れてない?」
顔や髪や、衣服でおおいきれない所に付いた血や汚れを洗い流しながら、柚月がいとおしそうに璃空の身体に触れる。
「お前…本当に骨が折れていたらどうするんだ?」
「折れて、るの?」
「俺を誰だと思っているんだ」
「ん…新行内 璃空 (しんぎょうじ りく)…」
その後は、柚月 (ゆづき)の切ない声とシャワーの音が浴室に響いていた。