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バリヤ ~ barrier  作者: 縁ゆうこ
王族の血
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第3話


「ダフネ!」

「これはこれは、シルヴァさまには今日もご機嫌麗しく」

 そう言って、シルヴァに向かってうやうやしくお辞儀をしたダフネと呼ばれた男は、おもむろに璃空に向き直って口を開いた。

「はじめまして、新行内指揮官。私は異界より参りましたダフネ・ラウドと申します。国王との契約により、貴方たちをこの国の戦闘員としてお迎えした次第です」


 すかさずシルヴァがきつい口調でダフネに言う。

「そのような契約など国王がした覚えはないと、何度も申したはず! それに、我が夫は、もう何ヶ月も前に壁の向こうへ行ったきり、連絡もない。生きているかどうかもわからないではありませんか」

「ですから、私のここにまだ契約の印が残っているのです。これがある限り、国王はご存命のはず」

 そう言って右腕を見せるダフネ。


 確かに何か模様があるが、璃空にはそれが何を表しているのかはわからない。

 だが今、ダフネは璃空たちを戦闘員として迎えたと言った。それは聞き捨てならない話だった。


「ちょっと待って下さい。貴方、ダフネと言いましたか。貴方は俺たちを戦闘員としてこちらに引き込んだ?」

「ええ」

「それは、どういう」

「この街には、戦闘アンドロイドから人民を守るために高い壁があると説明をうけましたか?ああ、それならよろしい。その壁の向こうにまだ国王が…とらわれているのか、闘っているのかはわからないが、生きておられるようなのです。私は壁の建設のために、いったんこちらへ帰るよう命令を受けて帰って来ました。壁が完成したのでそろそろあちらへ戻らねばならない。そしてその国王を助けるために貴方たち、この国の血を引く男を呼び戻したまで。何の不思議もないではありませんか?」

 当然のように言うダフネにシルヴァは怒りをあらわにする。


「生きているかもわからないものを! しかも、たとえこちらの血を引いているとはいえ、異次元から無理矢理連れてきたうえ、顔も知らない国王のために闘えなどとよく言えたもの」

「人民、とりわけ男が王を守るのは当然のことでしょう?」

「かれらはこちらの人民ではありません。そもそも次元の向こうに作業用アンドロイドを送り込んだのも、調査のためだけだと言ったではありませんか!」


 どうやら話は平行線のようだ。ダフネと言う悪魔が、この国の国王となにがしかの契約を結んでいる、たぶんそれは戦争に関するものだろう。そしてここでは戦争には男だけが行くようだ。

 けれど若い男はとうにいなくなってしまった。そこで璃空たちの事を知ったダフネが、王妃たちを欺いて彼らを勝手にこちらに引き込んだらしい。


「待って下さい、事情はだいたいわかりました。しかし、王妃のおっしゃるとおり俺たちはここの国王の顔も知らない。貴方と国王が勝手に交わした契約で俺たちを引き込んで、さあ闘えと言われても闘えはしない。そもそも何のために?」

「征服ですよ。男が闘うときは他を征服するときに決まっているでしょう? 壁の向こうにいるアンドロイドを制御出来れば、世界のすべてを支配して統一することも夢ではない。国王はそれを果たしたくて、私に協力を求めてきた。そして契約した、と言うわけです」


 そう話すダフネを睨み付けながら、シルヴァが厳しい口調で言った。

「なんておそろしい。新行内さん、このようなものの言うことは聞かなくてもよろしい。いったいこちらの男というものは、誰も彼も気が違っているとしか思えない。征服など! そんなことを日常にしているから、男が産まれなくなってしまうのです。すべては自業自得です。こちらの世界の人間は遠からず絶滅するでしょう。それでもなにかの計らいか、昔、異次元に行った姉たちが私たちの遺伝子を残してくれる事がわかった。それだけで充分です」


 お話にならないという様子で首を振っていたダフネが、今度は璃空に聞く。

「貴方は? 男なら国王の気持ちもわかるはず」

「ええ、それはわかりますよ、俺も男だから」

 それを聞いて、驚きながら何か言おうとする王妃を手で制して璃空は続ける。

「けれど残念ながら、俺たちには向こうの次元の血も流れている。この世のすべてを征服したいとか、支配したいとかいう気持ちは起こりません。そして、俺たちは欲望のための戦争はしない。あきらめていただくしかないですね」


 ダフネは「そうですか」と、納得したように見えた。が、それは大きな間違いだった。

「それならこれはどうでしょう?」

 すいっと手を動かすと、ドアの向こうから全身が写るような大きな鏡が現れる。そして、そこに写っていたのは。

「ルエラさん!魯庵!なぜ?」

 そう、二人が中に閉じ込められていたのである。





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