第2話
「と言う事は…俺は、俺には」
「?はい」
「エスの、いや、何と呼べばいいのか。こちらの人と同じ血が…」
「こちらの女性はクイーンという総称で、自分たちを呼んでいます。そして、貴方は私の姉の血を受け継いでおられる」
璃空はまたぼうぜんとする。すると今まで黙って話を聞いていた乳母が、感無量と言う感じで話し出す。
「リリアさまがお子を産まれたのがついこの間のよう。もうこんなに立派な若者になっておられたんですね。リリアさまは本当に貴方を可愛がっておられて、もう少し生きておられたら、歩くお姿が見られたのに……」
そう言いながらまた涙をぬぐう乳母。「年をとってはいけませんね、涙もろくて」などと言いながらも、彼女の話しぶりから、璃空の母親がどれほど璃空に愛情を注いでいたかがよくわかる。
なにかしら胸にあついものがこみ上げてくるのを押さえきれずにいた璃空だったが、ふと疑問がわいた。
「父は?俺の父は母がこちらの人間だというのを知っていたのですか?」
「いいえ、いいえ。リリアさまはご自分と、自分が連れて行ったものには厳しく正体を明かすことを禁止されましたから。さすがはリリアさまが選んだ者たちだけのことはある。誰一人として、身分だけは口が裂けても言いませんでした。貴方のお父様は、私のようなものがいつもリリアさまの世話を焼いていたので、どう思っておられたのか。けれど、あのお方はリリアさまがどこから来たのか、どういった身分かなどは意に介せず、そのままのリリアさまを愛して下さいました」
父らしい。
小さい頃から璃空は父に「会ったこともない人間を噂で判断するな。自分で見て、話をしてみて、自分の感性で判断しろ。人だけではない、どんな物事もそうだ」と、良く言われてきた。そしてそれを自ら実践する人だった。
そんな父だから、母を迷いなく愛したのだろう。
そうして、もう一つ気になったことがある。
「俺のほかにも何人かこちらに引き込まれた人間がいたと思うのですが、彼らもやはり?」
こちらの血を引く者なのか?と言う意味合いでたずねると、シルヴァはうなずいた。
「ええ、けれど私たちは、彼らや貴方をこちらに引き込むつもりなど、はなからありませんでした。あなた方の存在が確かめられればそれで充分だったのです。それがなぜこのような事になったのかと言うと…」
王妃がそこまで言ったとき、突然バアンとドアが開いて男が入ってきた。
「私が致しました。国王との契約により」
その男の顔を璃空は知っていた。あのとき忠士が見せてくれた映像に映っていた若い男だった。
たしかあのとき、魯庵が悪魔だと言っていた男だ。